『ここでお別れなんて嫌!私も皆と一緒に江戸に行く!』

『いい加減にしろ。今朝近藤さんも言ってたろ?お前はまだガキなうえに女だ。連れていくわけにはいかねェ』

『っ…』



―……それならいっそ、私はトシ君達とは真逆の道を突き進んでやる

そして、トシ君達よりもずっとずっと強くなってみせるんだ

そう思うようになったのは一体いつのころからだっただろう…

目の前で対峙する彼を見ると、どうしてもそんな昔の自分が思い出されるのだ



「久しぶりだねトシくん。いや、今や真選組の鬼の副長さんかぁ。随分出世したもんだね」

「おま、何で…」

「驚いた?私、鬼兵隊に入ったんだよ。今日は晋助様の護衛役で来たの」

「…こんな形でお前と再会するとはな。夢にも思わなかったぜ?」

「あはは、私もー」



トシくんに必要とされたかった反動でこの世界に足突っ込んじゃいましたー、なんて

責任感の一際強いあなたが知ればどう思うことか

そのまま彼に血塗れた刀の切っ先を向けたが、彼は一向に刀を抜こうとする気配すら見せない



「あれっ?副長さん、どうしたんですか?」

「……」

「もしかして武州の頃からの馴染みは流石の鬼の副長さまでも斬れませんか?」

「…何で高杉側についた、」

「トシくん達があの時突き放したからですよ、だから私はこっち側にいるの」



つい子供じみた言い方になってしまったが、これは何年も前から私の中で変わらない事実

私をそうさせたのは他ならぬトシくん達で、そんな私を救ってくれたのは他ならぬ晋助様だ



「トシくん達と違ってね、晋助様は私に剣を振るう場所を与えくれた…傍に置いてくれた。だから私はこの身朽ちるまで晋助様をお護りすると、そう誓ったの」

「ハ、皮肉なもんだな。それを教えたのもそれを奪ったのも俺達だっていうのに」

「ふふっ、そうかもね」



近藤さんの道場で私もみんなと同じように剣を学び生きてきたのに

いざ江戸に旗揚げとなれば私だけ1人武州に置いてけぼり、なんてさ

…本当にショックだったんだよ?

自分は女というだけで、みんなと肩を並べることも、戦場でみんなを護ることも出来ないだなんて



「……置いてかれる者の気持ち、考えたことある?」



きっとあの時私以上にミツバちゃんは辛かったと思うよ、なんて独り言のように呟けば

さっきよりもトシくんの表情に影がさした気がした



「…テメェらがどう解釈したかなんて、俺は知らねェよ」

「!」

「だけどな俺はあの時からずっとお前らの幸せだけを考えてた。お前らが大切だったから、だから突き放したんだ」

「トシ、くん…」



…彼とは武州の頃からの仲だ

彼がこんな風に自分の気持ちを素直に口にするような、器用な人間じゃないことぐらい知ってる

つまり、彼は解ってたんだ

私がそれをはっきりと言葉にしてもらわなきゃ分からない、ただのガキだということを



「…トシくんありがと。でも少し遅かったかなァ」



ミツバちゃんの最期に私は立ち会えなかったから分からないけど

彼は果たして彼女にも同じように伝えてあげられたんだろうか



「今の私にその優しさも全く必要のないものだから」

「…そうかよ。まぁ積もる話は屯所でゆっくり聞こうか」

「!あらら、随分お早いことで」



辺りから響くサイレンの音がだんだんと近付いてくるのが分かった

あと数分もすれば、彼の仲間達がここを取り囲むことだろう

私は刀を下ろし、血濡れたそれを手で拭ってから鞘に納めた



「どうした?自首する気にでもなったか?」

「トシくん達に捕まる気なんて毛頭ないよ」

「ハ、大した自信だな。この状況で逃げられるとでも思ってんのか?」

「ふふっ、あの頃のガキんちょだった私じゃないの。見くびらないで」

「!なっ」



一飛で高く聳える倉庫の屋根まで飛び上がれば、トシくんの目が驚いたように丸くなる

そのまま彼を撒くことも可能だったが私にはまだ言うことがある

少し駆け出したところで、くるりと振り返り彼を見下ろした



「心配しなくても、またいずれ会うことになるよ。私は貴方達の敵だから」

「それは身寄りのなかったお前を拾ってくれた近藤さんに対してもそうか?」

「!…」

「恩を仇で返すような真似しやがって。近藤さんも総悟も、まだお前のこと…」

「でもそれももう全部昔のこと。私には今、晋助様という護るべき人がいる。…まして貴方達真選組は私にとって”殺すべき対象“でしかないんだから。今更何もないでしょう?」

「!」



そうキッパリと言い切れば彼は突き放された子供みたいな顔を一瞬見せる

それが武州の頃の自分の顔とダブって何故か無性に腹が立った



「貴方達は私がこの手でいつか必ず殺すから。せいぜい覚悟しといて」



チラリとその場から微動だにしない彼を横目で確認しつつ、私はそのまま足を止めずに漆黒の闇を駆け続けた



「(皮肉なもんだよなぁ…)」



私が目指していたのはトシくんに必要とされるような強い侍になることだったのに

まさか今度は私がトシくんを置いていくことになるなんて

脳裏にはそんな嘲笑じみた言葉しか浮かばなかったが、それでも私の気分は幾分か晴れたようだった


行くべき道


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素敵企画明日様へ全力で捧げます^^*
長ったらしくて誠に申し訳ない…これはシリアスの部類に入りますよ、ね…?.