「副長、おかえりなさい。お怪我はありませんか?」

「…あぁ、大丈夫だ」

「あの、温かいお茶でもいれてきましょうか…?」

「いや、いい。悪いが今はそんな気分じゃねェ」

「…そう、ですか。すみません出過ぎた真似をして」



そう言って私の目の前を通り過ぎ、副長は部屋の中央に腰を下ろす

少し顔色が悪いように見えるのはきっと気のせいじゃないはずだ



「(…まぁ慣れ親しんだ仲間を粛清なんかして、平常でいれるはずがないけれども)」



この春入隊してきたばかりのあの隊士が、攘夷浪士からお金を受け取っては内部事情を揉み消していただなんて

副長は気付かなきゃきっと誰も気づかなかった…



「…副長はみんなにもこのこと、伝えるつもりなんですか?」

「あぁ。隊内のこととあっちゃ言わねェわけにもいかねーしな。近藤さんには明日一番に伝える。…あの人のことだ、きっとすごく落ち込むだろうからお前も支えてやってくれ」

「…それは、もちろんですけど…」



副長はいつもそう、

自分のことなんて二の次で…考えるのは局長のことや隊士達のこと…ひいては真選組のことだけ

…鬼の副長だなんて、一体誰が呼びだしたのか。本当はこの人はこんなにも心の優しい人なのに



「…副長は、どうなんですか」

「あ?」

「局長のこともそうですけど…私が今支えたいのは副長、あなたなんです。あなたのために、私が出来ることはありませんか…?」

「!…」



フ、と小さく笑みをこぼし副長はちょいちょいと手招きをする

それに促されるまま近寄り腰を下ろせば、真っ直ぐな瞳と視線が交わった



「じゃあまず一つ、言うけどよ」

「はい」

「いい加減泣くのは止めろ。見てるこっちが恥ずかしい」

「……これは涙じゃないです。汗です」

「バーカ、目から汗が垂れるかよ」



そう言って笑う副長の顔にはやはりどこか無理があって

こうやって向き合っても、弱音の一つも吐かせてあげられない自分が…気を遣わせてしまう自分が悔しくて仕方なかった

そんな私に気づいてか副長は「じゃあ、最後にもう一つ」とさらに言葉を紡ぐ



「…肩、」

「はい?」

「ほんの数秒でいい。肩、貸してくれねーか」



肩を貸すというよりはまるで縋りつくように、私の首もとに顔を埋める副長

私はそんな副長にそっと手を伸ばし抱き締めた



支え合う


「…なんだか笑えてくるな」

「?何にですか?」

「他人のために涙流せるようなお人好しに救われてる自分に、だ」


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お誕生日おめでとうです!.