「此処から出てこうとか、考えたことねーの?お前」

アッシュの問いかけに、私はついぱちくりと目を丸くした。海辺の潮騒と鴎の鳴き声が耳につく

「此処からって…レガーロ島から?」
「ああ」
「…船で?」
「なんだよ、空でも飛んで異国へ行く気か?」

馬鹿にしたようにへらっと笑うアッシュに、私は「ちょ、ちょっと聞き返しただけでしょ」と睨み付けた。大体、急にアッシュが意味不明なこと言い出すから…。そうぶつぶつと言い訳を並べ、私は沖に停泊してるファンタズマ号を見つめた

「うーん…生まれは違うわけだけど、もうずっと住んでるわけだし…出てくとか考えたこともなかったかなあ」
「……レガーロ島がそんなに好きか?」
「だって、良い場所じゃない。私は一生レガーロ島の土地に骨を埋める気だったよ」
「…ははっ、なんだそりゃ」
「でも…、何でそんなこと聞くの?アッシュはやっぱりいつかは他の土地に行っちゃう気?」
「……さぁなー」

私の問いに曖昧な返答を残し、アッシュは私のほうをくるりと振り返った。そしてそのまま私の髪の毛を手にとり、すんと鼻を近付ける。…犬みたい。いや、虎か。何にしても、くすぐったいよアッシュ

「お前は…どう思う?」
「えっ…?」
「…俺がレガーロ島出てくって言ったら」

ー……アッシュは非常に読みづらい人間だ。ジョーリィのようなまででなくても、ポーカーフェイスが上手いというか。いつも余裕というか。いや…むしろある意味で物事に鈍感で、そしてずれている彼だから、読みづらいのかもしれない。彼の蒼色の目は、何も語ろうとしない

「ん、と…あんなボロボロの船で異国まで航海出来んのかなって思う」
「………俺船に帰るわ」
「わーっ!ちょっと待って待って!う、うそうそ!」
「お前俺よりちょっと年上だからって調子のんなよ…」

虎の姿でもないのにグルルと低い声で喚くアッシュの腕を掴み、私は慌てて「ごめんねアッシュ」と頭を下げる。いやいや…ちょっと今が真面目モードなのか、おふざけモードなのか空気読めなくてですね…

「アッシュがレガーロ島出てくってなったら、ついてくに決まってるじゃない。私レガーロ島も好きだけど、アッシュも同じくらい好きだし…どっちも居てて落ちつくから」
「…ふん、最初からそう素直に言え。天の邪鬼め。つーか、比べる対象が違うだろーが」

そう不機嫌そうに言葉を紡ぐも、アッシュは口元を少しゆるめ、私の頭をくしゃりと撫でた。…今の解答は、及第点だっただろうか。そんなことを私が考えてしまうほどに、アッシュは私のなかでは分かりにくい人である。…どっちが天の邪鬼なんだか

「…というか、あの船に幽霊たちはいないんでしょもう。航海士も船大工もいないで、航海なんか出来るの?」
「そんなの、錬金術がありゃ何とかなんだろ」
「うっわ自信過剰ー」
「俺は天才錬金術師だからな。それに、船員はお前と俺以外認めてやるつもりねーから」

二人旅と洒落こもうぜ。俺のファンタズマ号で自由に、世界中をよ。そんな突拍子もない未来を語って、力強く笑うものだから。私は彼の大きな手をぎゅっと握りしめ、同じようにその未来を願った。…私たちのviaggioはきっとそう遠くない未来の話なのかもしれない


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流星さんへ捧げます!アッシュさん短編でした
ひきサイトですがこれからも是非宜しくお願い致します( ;∀;).
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