ありがとう



◎黒子くんが中学時代、一軍レギュラーになれる前の原作沿い話



「ねえねえ、知ってる?放課後の体育館にさ、オバケが出るらしいよ?」
「えーなにそれ!怖ーい!」
「誰もいない体育館でトントンていう音だけが聞こえてくるんだって…!」
「嫌だあ〜!」
「……」

キャーキャーと騒ぐ同学年の女の子達を横目に、私は彼女らとは逆方向に走る。第3体育館に向かうためだ。もう薄暗くなってきたからか、第1体育館と違って人気のない第3体育館は確かに女の子達の噂通りお化けこそ出てきそうな雰囲気ではある。…まあ実際は違うのだけど。私はまだ明かりのあるのを確認し、第3体育館の扉を開けた

「!…眠井さん、」

重い重い扉を開ければ、そこには少し驚いたように目を丸くする黒子くんの姿が。私が来たのがよほど意外だったのか、彼はそのままぽろりとバスケットボールを床に落としてしまう

「黒子くん、ボール…」
「…あ、すみません」

てんてんと転がってきたボールを拾い、体育の時間で習った時と同じようにして黒子くんにパスをしてみる。…バスケットボールって思ったより重いし、大きいんだななんて。久しぶりの感覚に少しだけ驚いた

「ありがとうございます」
「ううん、大丈夫だよ」

…この第3体育館は普段あまり利用されていなくて、こうして部活終わりの遅い時間にここを使用している人なんて黒子くんくらいで。いくらうちのバスケ部は部員が多いと言えども、通常の部活の練習後にさらに自主練をしてるなんて黒子くんぐらいだろう

「…黒子くん、最近練習どう?」
「相変わらずですよ」
「それは…どちらかと言えば順調だってこと、?」
「まあそんな感じ、ですね。もうすぐ一軍への昇格テストですから。調整に入らないと」
「そっか…いよいよなんだね」

うちのバスケ部は全国大会常連校なうえ、部員数も多い。故にレギュラー争いは激しく、現にレギュラーを含め一軍から三軍まである有り様だ。そのうえレギュラーの人達は本当に別格で、ほとんどレギュラーメンバーが変動することなんてないそうだ。…私はまだ他人事だけど。うちのバスケ部のレギュラーになるっていうすごくすごく大変なかことなんだろうなあ…なんて。そんなことをぼんやり考えていると、黒子くんはボールを抱えたまま「あの…すみません、一ついいですか?」と口を開いた

「眠井さんは…」
「?う、うん」
「眠井さんは、何でいつもここに来るんですか?」
「!!」

くりくりとした真ん丸の青い瞳が私をじっと見つめる。う…!い、いやだ何か、すごく申し訳ない…!私は黒子くんに対してガバッと頭を下げた

「ご、ごめんなさい!じゃ、邪魔だったよね?なるべく隅で見てるようにはしてたんだけど…本当にごめんなさい!」
「あ…いえ、そうではなくて」
「…えっ?」
「その…眠井さんっていつも僕がこうして自主練してるのをずっと見てるじゃないですか。それもどんなに時間が遅くなっても」
「う、うん…」
「つまらなくないのかなって。少し疑問に思って」

「一人きりでこの広い体育館にいるのは少し寂しいですから。僕はむしろ嬉しいですけど、なんか申し訳なくて」と淡々と言葉にした黒子くんに、少しだけ安堵。…良かった、迷惑になってたわけじゃないんだ…。「え、えっと何でかって言うと、う〜ん…説明するの長くなっちゃう、かも…」とぼそりと呟いた私に、黒子くんは「…僕、ちょうど休憩しようと思ってたところなので。大丈夫ですよ」と微笑み、彼はボールを体育館の脇のほうに転がした

「どうぞ、」
「う、うん。…えっと私、実は吹奏楽部に入ってるんだけど…」
「あ、はい。知ってますよ。いつも練習頑張ってますよね」
「ほ、本当に?ありがとう…。ええと、それでね?私…黒子くんがこの第3体育館で一人きりで放課後夜遅くまで練習してるの初めて見つけた時、フルートの選抜試験に落ちて。担当楽器が変わっちゃったの」
「!……そうだったんですか」
「うん…そのことで私、すごく落ち込んで。もう吹奏楽部辞めようかなって思ってて。フルートが吹けないなら部活やる意味ないなとか、そんなことば考えて泣いて…」
「……」
「…でも、一軍になるために1人で放課後残って練習してる黒子くん見てたら…なんというか、考え変わって」

今の結果に満足出来ないなら、努力するしかない。努力もしないうちから現状に諦めをつけて腐るなんて、なんか馬鹿馬鹿しい。…ちゃんと私も、黒子くんみたいに真っ直ぐ自分と見つめあいたい。どうせ私なんかって、何かと理由や言い訳つけて生きてくなんてカッコ悪いもん

「…だから私はいつもこうして黒子くんが自主練してるの見て、元気もらってるんだ。黒子くんにみたいに私も頑張ろうって」
「僕を見て…ですか?」
「うん」

黒子くんが私を変えてくれたんだよ。だから…今さらだけど伝えたい。黒子くん、本当にありがとう。そう微笑めば、黒子くんは少し困ったように私から視線をそらした

「別に僕は眠井さんに何もしてないですし、お礼を言われるような立場じゃないです」
「…でも、私は助けてもらっちゃったってのは事実だから。言わせてほしくて…、本当にありがとう。すっごく感謝してます」

そりゃ努力しても上手くいかない時や、結果がついてこない時もある。だけど…

「だけど…今を無駄にしたくないもんね。出来ることはやらなきゃ」
「……」

おもむろに隅に転がしておいたバスケットボールを拾い、拙いフォームを構え、近くのバスケットゴールを狙い投げる。…が、当然私はバスケなんか滅多にやらないのでゴールには入らず。ボールはゴールポストに当たり、転々と床へ転がっていった。するとそれを黒子くんが拾ってくれた

「…僕も、言いたいです」
「?」
「お礼を。眠井さんに」
「!えっ…な、何で…」
「眠井さんに僕も支えられてますから」
「そ…そんなことないよ…!わ、私なんて何も…」
「今まで僕が自主練している時にそばにいてくれたこと。それに今の言葉にも」

「ありがとうございます」と言葉を紡ぎ、黒子くんは口元に弧を描く。そ、そんな…黒子くんにお礼を言われるなんて。もったいない…!私は真っ赤に染まっただろう顔を黒子くんに見えないよう、下に俯かせた

「一緒に頑張りましょう」
「う、うん…」
「前から思ってたんですけど…僕も眠井さんのそういう真面目で努力家なところ尊敬してました」
「!」
「これからも、暇な時は来てくれると嬉しいです。眠井さんが一緒ならもっと頑張れますから、僕」
「〜っ…」


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黒子くんは天然だと思う。そして案外ちゃっかり屋さん


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