キリトリセン(没)




「あれー?今日夢っち休み?」

空席のあの場所は彼女がいつも座っている場所。千鶴の言葉に「そうみたいだね」と返せば、「ん?ゆっきーは何か知ってるの?」と素早く反応された。何で分かったの

「…風邪引いたって。さっきメールきた」
「風邪かあ…今流行ってるもんなあ。じゃあ夢っち、今家で寝てるんだ?」
「いや、それが登校途中に気持ち悪くなっちゃったもんだから、保健室で朝から寝てるって」

なんというか…不運だよね。登校途中じゃ距離的に帰宅も出来ないから、結局学校に来る羽目になるなんて。普通に家のベッドで寝たいよね

「それって……夢っちどうする気なのかな」
「んー体調が良くなれば早退するか授業に戻るかすると思うけどね」
「?ゆっきー?」

急にガタッと席から立ち上がったオレに、千鶴がこてりと首を傾げる。そんな不思議そうな顔して、まあ…

「今休み時間でしょ。オレ保健室に行って様子見てくるよ。もし授業始まっちゃったら先生に"浅羽は体調不良らしい"とか適当によろしく」
「!ゆっきー…!」

ゆっきーが誰かのために積極的に動くだなんて…!成長したなあ…!とか嘘臭い泣き真似をする千鶴に、イラッとした。何それどういう意味なの。「要っちー!大変だゆっきーが!少し大人に!」なんて騒ぐ千鶴を無視して、オレはそのまま教室を出た




**




コンコン、
「ー…えっと、失礼しまーす」

ガラッ。保健室のドアをスライドさせる。…あれ?保健室の先生いないじゃん。え、じゃあ何?具合の悪い眠井さんを放置してるってこと?この学校の教員のそういう姿勢は見逃せませんね…なんて。少し眉をひそめたまま、オレはつかつかとベッドのほうに歩いた。そしてカーテンをシャッと開け放つ

「!」
「どうも。体調はどうですか?」
「あ、浅羽くん…!えっとー…さっきよりは良…」
「ああ、無理に起き上がらなくていいよ」
「!わ…」

むくりと上半身だけ起き上がらようとする眠井さんの両肩を押し、ベッドに戻す。……なんか、これじゃオレが押し倒してるみたいなんだけど。心なしか、眠井さんも顔火照ってるし目がうるうると潤んでるし。しかも状況は保健室のベッド。…うわー何か色々揃ってるじゃん。ダメダメ

「?浅羽くん、私のこと心配してきてくれた…の?」
「…あ、そうですね」
「そっかあ…嬉しいなあ、ありがとう」

にっこりと微笑む彼女に少し頭が痛くなる。…なんかこう、眠井さんを前にするといかに自分が汚れてるか分かるよね。ちょっと自重をしよう。俺はベッドの傍らに立ち尽くし、「あー…授業復帰する感じですか?」と尋ねた

「うーん…ちょっとまだ気持ち悪いから、もう少し休んだら早退しようかなって。今保健室の先生が家に電話入れてくれてるの。あと、担任の先生にも」
「ああ、それでいないんだ」
「うん。…本当は授業復帰したかったんだけど…」
「いや、そんな無理しなくて大丈夫ですよ。というか、オレだったら喜んで早退するな。役目変わりたいくらい」
「そんな…私はこんな辛い思い、浅羽くんにさせたくないかなあ。やっぱり健康が一番だよ
「…そうですかね」
「そうだよー」
「あ…そういえば熱はどれくらいだった?」
「熱?…あっ、まだ測ってないや…」

「保健室に来て、そのまま飛び込むようにベッドに入ったから…。」そう少しおろおろする眠井さんに小さく微笑み、オレは保健室の隅に目を移す。…ああ、あったあった。ベッドから離れ、オレは木箱の棚の引き出しを上から開けていく。んー…何段めに入ってるんだろう…?ガタガタと強引に漁る。すると、ついに見つけた。体温計。その体温計を引っ張りだし、オレは眠井さんの横たわるベッドに戻る

「?浅羽くん…?」
「測っておいたほうがいいですよ。熱の数値によって色々対処の仕方も変わるってー…そう悠太が昔言ってた気がする」

眠井さんは今動ける感じじゃないよね…起こすのも悪い。そう思ったオレは眠井さんの胸元に手を伸ばした。そしてワイシャツのボタンを二つほど外してあげた

「!っ…浅羽くん、あの…」
「……」

かああっと顔を赤らめる眠井さんの反応は非常に正しいと思う。何て言ったってオレは今、女の子のワイシャツのボタンを外してるわけですから。言うなれば…半分脱がせてる…みたいな感じ。…いや、体温計を眠井さんの脇に挟むのに何もオレがこんなことする必要ないんだけど。ただ、少し意地悪したかったというか…。いや、オレが単純に眠井さんに触れたかっただけかもしれない

「あ、あの…その…」
「はい、何でしょう?」
「っ…」

動揺するように言葉を紡ぎながら眠井さんがオレの手を掴みあぐねているのは…オレに遠慮してるのかもしれない。浅羽くんはどういうつもりなんだろう?とか、抵抗したら浅羽くんに謝らせることになるかも…とか。いかにも眠井さんのことが考えそうなことじゃないか

「……大丈夫だよ」
「えっ…?」
「はい、これ体温計。鳴ったら教えて。それまで保健室にいます」

眠井さんのはだけたワイシャツの隙間から、体温計をそっと挟み込む。…まあそれだけじゃなんだから、眠井さんの頭をぽんぽんと撫でたりして。オレはベッドから片膝を下ろし、ベッドの傍らに立った

「…ビックリ、した…」
「そう?でもオレ、具合悪くて弱ってる眠井さんを襲うほど非道じゃないですよ?それにそんな盛ってないし」
「?盛って…??」
「…あー今のは聞き流してくれると嬉しいですかね」

キス、したかったんじゃ…?と首を傾げる眠井さんに、つい反応に困る。…まあ確かに最近は調子乗って首筋付近にキスしちゃってますが。今のはそれ以上というか…。オレは高校生男子として色々考えがアレなんです。年頃ですから。保健室なんて結構ロマンチックなシチュエーションじゃないですか。学生ならではというか。…まあ眠井さんに嫌われるような行為はしたくないから、しないけど

「…何でマンガとかだと保健室は定番なんですかね。実際先生もいるし怪我人の生徒も来るしリスク大きすぎるよね。バレたら停学だろうし」
「?浅羽くん?あの…何の話?」
「んー男のロマンの話?」
「?」

…さて。体温計が次に鳴った時には、オレが体温計を取ると同時に眠井さんのおでこにキスでもおみまいしてあげましょうか。今は君に無性に触れたい気分なんです、オレは



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どちらかと言うと、キリトリセン連載(没)ですw
キリトリセンはちょっと…こんなノリじゃないし、夢主のお嬢さんは祐希くんにメールするだけで30分もたつくような子なので


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