高校生



◎キリトリセン番外編


「浅羽くんと目が合うの」


カヨちゃんにそう一言言うと、至極微妙な表情をされた。そして彼女は「どゆこと?」と首を傾げ、私の前の席にひょいと座った


「えっと…私、浅羽くんから斜め前の席、なんだけど…」
「はいはい知ってるよ同じクラスなんだから」
「うん…それでね?こう…プリントを後ろの席の子に回す時、後ろを振り返るじゃない?そうすると目がよく合うの、浅羽くんと。すごい嬉しい偶然だなって思って」
「……それ、夢のことを浅羽(弟)がずっと見てるからじゃない?」
「!っ、え…!!?いやいやそういうことじゃ…」
「あはは、照れない照れない」


「良かったじゃん。浅羽(弟)も夢のことだんだん意識してんだよ」と笑い、カヨちゃんは自分の座っている椅子をガタガタと揺らす。…カヨちゃんそれ危ないよ…


「…そりゃ確かに、浅羽くんがたまに…すごくたまに、私のこと見てくれてるなら…その、嬉しいけど…」
「あーもう夢顔真っ赤!超可愛いわ夢ーぶっちゃけ浅羽(弟)ごときにあげたくなーい!なんて…」
「えっ…あ、ありがとう…?」
「…イチャついてるとこ悪いけど、ちょっといいか?」
「!塚原くん…」


少し冷めた目で私とカヨちゃんを見てくる塚原くん。そんな塚原くんにカヨちゃんがさっそく「塚原あんた何勝手にドン引きしてんだよ、ふざけんなよ。女の子同士の可愛いやり取りだろうが」とか喧嘩を売っていた。うあ…い、いきなり険悪な雰囲気に…!


「え、えっと!塚原くんは何か用があったんだよね!」
「…あ、ああ。眠井さん来月三送会の保護者受付やるだろ?それで生徒会から…」
「ええ!夢そんなのやるの!何で?係?」
「ううん。受付は生徒から有志で募るって掲示板にあったから申し込んだの」
「へえ〜そうなんだ」
「…話を戻していいか?」
「うるさい塚原。あんたが途中から私らのガールズトークに割り込んできたんだろうが」
「…ガールズトーク…な」
「何よ文句あんの?」
「ま、まあまあ二人とも落ち着いて…!それで塚原くん、私は何をすれば?」
「…この書類にクラスと名前記入してもらえるか?そしたらオレが生徒会室に持ってっから」
「分かった。塚原くん、ありがとう」


塚原くんから受け取ったプリントを机に広げる。…あ、あった。此処に記入すればいいんだね。私はプリントの右隅の記入欄にシャーペンで書き込んでいく…はずだった


「!あ……」
「?どうした?」
「……名前書き間違えちゃった…」
「…ぷっ、」


自分の名前なのに…なんて笑いを堪えるようにプルプルと震える塚原くん。…は、恥ずかしい…!なんだこのミス…!くくく…と小さく笑い声を噛み殺す塚原くんを、カヨちゃんがバシッと叩く。ああ…もう自分アホ過ぎるよね。かああっと顔を赤らめながら、私は筆箱から消しゴムを取り出す。が、また手元が狂ったのか消しゴムはコロコロと机から床へ落ちてしまう


「!あ、消しゴムが…」
「え?もしかして落としちゃった?」
「う、うん…」
「塚原、夢の消しゴム拾って」
「何でオレだよ」
「いいから拾え。夢を笑った償いに」
「……」
「あ、いや私が拾…」
「おっ?これ誰の消しゴムだ?」


不意に少し離れたところから聞こえた声。それに顔を向けると、橘くんが偶然床に落ちていた消しゴムを拾い上げていた。あ…それ私のだ…!


「橘くんそれ私の…」
「!ぎゃあああ!な、何すんだよゆっきー!」
「あーごめん。足が長いもんでさ、つい」
「んなわけあるかー!何で手ェ蹴られなくちゃいけないんだよ!危ないだろっ!」
「だからワザトじゃないって」
「……」


呆然とする私たちを余所に、浅羽くんは床に再びコロコロと転がった消しゴムをひょいと拾い上げた。……今、のは浅羽くん、もしかしてしゃがんでた橘くんの手元を膝で…?


「はい。眠井さん、どうぞ」
「あ…ありがとう…?」
「…お前は本当に分かりやすいよな祐希」
「別に橘から役目取り上げる必要ないでしょーに」
「オレが眠井さんが消しゴム落としたの先に気付いたので」
「んなの我が儘にしか聞こえねーよアホ」


塚原くんとカヨちゃんに非難されて、浅羽くんは少しムッとむくれたような顔をする。えっとえっと、私は嬉しかったんですけど…!そんな揉めなくても…なんか申し訳ない。「消しゴム1つに、何でそこまで必死になってんだよ」と塚原くんにため息までつかれてしまった


「?だって、良いとこ見せたいじゃない」
「…お前はなあ、もっと他にアピールポイントあるだろ」
「例えば?」
「た、例えば…係の仕事手伝ってやったりとか、授業中困ってたら助け船出してやるとか…」
「うわ〜要って普段色んな計算して動いてたんだ〜」
「げっ、塚原最悪」
「お?もしかして生徒会活動もそういう女子からの好感度狙いなのか!要っち!」
「ばっ…違えよ!つーかアホザルお前はいきなり会話参加してくんなよ!」


何でお前らこういう時は息ピッタリなんだよ!と怒鳴る塚原くんに思わず苦笑い。…ああ、今日も賑やかで楽しいなあ。恋愛とかとはまた別に、塚原くんと浅羽くんと橘くんとカヨちゃんと同じクラスで良かった。こういう1つ1つのやり取りが私の高校生活の思い出になるんだろうなあ…。私はゆるゆるとニヤける口元を押さえ、四人を見つめた


「…ね?眠井さんもそう思うよね?」
「…ふふっ、確かに生徒会は行事で目立つ立ち位置だもんね」
「裏方だあんなの!…つーか眠井さんまでそっち側につくのかよ…」
「ふはは、塚原ざまーみろー」
「うるせえええ」


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ほのぼの?


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