美味しいよ



◎悠太くんに恋してる女の子のお話


「初めて、自分でお弁当作ってみました」

そう自慢気に言えば、親友である佳奈美ちゃんに「へーそう。高校生女子なら当たり前のことだけどね」なんてバッサリ切られた。…当たり前、ではないと思うけど。でも確かに周りの女子は菓子作りを趣味にしてる子も少なくない。だが、私にとっては新たな一歩なのだ。弁当を自分で作ったことが

「夢のお母さんが実家に帰ってて今夢1人しか家にいないから、仕方なく料理してるだけでしょ?」
「……そ、その通りだけど…」
「コンビニで買えばいいのに…って、ああ今金欠なんだっけ?」
「うぐっ…!」

ぐさりぐさりと私の図星というものを突き、佳奈美ちゃんは「私、部活の昼練行くから」と席を立った。…つくづく佳奈美ちゃんは私と対照的なタイプの人間だと思う。さばさばしててクールな女の子だ。「朝から初めての料理作り、お疲れ様」なんて微笑み、彼女は教室から消えた。……せっかくの良い天気だ。今日は中庭かどこかでお弁当食べようかな。初めて料理した、特別な日だもん。私はお弁当をそっと抱えて1人教室を出た





お弁当の中身は至ってシンプル。少し焦げめのついてしまった卵焼きに、レンジでチンした唐揚げに、アスパラのベーコン巻きに、冷蔵庫にあったポテトサラダに、付け合わせのプチトマト。そして卵ふりかけのかかったご飯。…私なりには頑張った、つもり。中庭のベンチに腰掛け、「いただきます」と1人手を合わせる。……あ、どうせなら写メ撮っておこう。もう機会がなきゃ料理なんかする気ないし、記念だ記念。私はベンチから降りて膝を丸め、代わりに弁当をベンチの中央にセッティングした。そして携帯を構え、写真を…

「あ」
「…!」

びくっと身体を震わせ、ゆっくりと振り返る。するとそこには見覚えのある人物が不思議そうな顔をして首を軽く傾げていた。…同じクラスの、浅羽悠太くんだ。あの女子達からカッコいいとモテモテの…

「…すみません、邪魔しちゃって」
「あ、いえ…大丈夫、ですよ」

何がすみません、なんだろうか。というか同級生に対して私のこの反応は何なの。と言っても、普段から男子とあんま喋らないし仕方ないよね…うん。しかも浅羽くんは浅羽くんで、いつも弟の方の浅羽くんとか塚原くんとか決まった面子でしかいないし…。心の中で言い訳をしつつ、私はちらりと彼を見た。すると浅羽くんは「初めて見た…」とポツリと呟き、無表情にベンチの上のお弁当を見つめていた

「え…?」
「自分のお弁当、写メる人。オレはあいにく初めてなもので」
「あ、こっ…これは、初めて自分で料理した記念に?というか…」
「へー…」

至極興味なさそうに棒読みで感嘆の声をあげつつ、浅羽くんは私と弁当を交互に二度ほど見た。私は何となく居心地の悪さを感じながらも、携帯をカメラモードから震える手で解除した。…今、私があの浅羽くんと二人きりで話してるなんて。何だか信じられない。ただの一言二言の会話だけど、少しドキドキしてしまう

「え、ええと…ごめんね。浅羽くんを驚かせちゃったみたいで…」
「…?眠井さん、俺と同じクラスだよね?」
「え?」

そ、そうだけど…。あまり噛み合わない会話に首を傾げ、もしかしたら私のことを知らなかったのかなとか悪い想像をしてみる。けど、私の名前を知ってるからそれは、ない…?

「いや、浅羽くんって呼んだから…兄と弟が眠井さんの頭の中でごっちゃごっちゃになってるのではないか、と」

そう思いまして…と言って、浅羽くんは頬をポリポリと掻く。…その言い方からして、双子の弟さんと間違えられたことが最近多々あったんだろうか。確かに浅羽くん達双子は容姿や声や性格もそっくりだけど。よほど私が今、浅羽くんに対して変な表情をしてて「コイツ大丈夫か?」的な風に思ってるのかな…

「…わ、分かってるよもちろん!浅羽くんのこと、他の人と見間違えるわけない…ですよ!」
「…ぷっ、」

表情は変えずに、浅羽くんはくすりと小さな笑みを溢した。その笑みを制服の袖で隠し、「結局"浅羽くん"だし…。というか、他の人って…」と少し可笑しそうに呟いた。…ど、どうしよう。男子のこと下の名前で呼ぶなんて、いいのかな…?な、何か恥ずかしい…

「え、ええと…ゆ、ゆゆゆ…」
「…兄も弟もあいにく名前の最初の二文字は"ゆう"なんですよ。残念でした」
「ち、違くて…!緊張してるだけです…その、ゆ、ゆ…悠太くん?」
「何で疑問形」

「初めて喋ったけど、眠井さんって少し独特な人なんですね」なんて淡々と言った浅羽くんに少し凹んだ。独特って…あまりプラスな印象ではないよね。そして次の瞬間、遠くから「おーい、悠太お前何してんだよ?」「悠太くーん、遅いから皆で探しちゃいましたよー」「悠太どうしたの?」という声が聞こえた。あ、あれは塚原くんと松岡くんと…

「じゃあ、あっちの浅羽は?」
「え?あ…ゆ、祐希…くん」
「そこもどもるんですね」
「…何で確認したん、ですか?」
「悠太って名前しか知らなくて一択したのかなと思いまして」

…私に対して疑い過ぎじゃ…なんて思いつつ、私は塚原くん達の方へとスタスタと歩いていく浅羽くんの背中を見つめた。…少しだけ、浅羽くんと話せた。嬉しい。今日は良い日だなあ。少し私の口元がニヤついたところで、浅羽くんがちらっと私の方を振り返る

「…!っ、あ、あの…」
「…美味しいといいですね」
「え?」
「初めて作ったお弁当」

そう言葉を残し、浅羽くんは今度こそ立ち去っていった。……私、浅羽くんに感謝しなきゃな。だってその浅羽くんの一言があるだけで、私にとってこのお弁当はとっても美味しいものに変わったはずだから。いつか私の作ったお弁当を浅羽くんに食べてもらいたいなあ…なんて。小さな妄想しつつ、私はもう一度誰にも聞こえないように「悠太、くん」と小さくその名を呼んだ



−−−−−−
こういうヒロインで色々なキャラ相手に書いてみたいです(*´ワ`*)

ていうか浅羽兄弟好き過ぎる双子萌え…!


.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -