囁く



突然スパンと障子の開く音がした。驚いて机の上の報告書からそちらに目を向ければ、図々しくも部屋にずかずかとあがってくる人影が…

「…沖田隊長、女の子の部屋にノックなしで入るなんて不躾ですよ」
「女の子ォ?そんなのどこにいるんでィ」
「あんたの目は節穴ですか」

…まあ最早私を女扱いするような奴は隊内にいないという悲しい事実は、私が一番知ってるけど

「…で、どうかしたんですか?」
「ん。茶菓子を届けに来たんでさァ、ほれ」
「へ?」

じゃーんという効果音を棒読みしながら差し出された大きな箱。凸凹した和紙に包まれたそれは、何ともお高そうな菓子折りだった。…こんなの、買おうと思っても安月給の私じゃ絶対手が出ない。ってか一生お目にかかれなかったと思う

「(……ゴクッ)」

このチャンスを逃せば、私はもう一生それを食べれることはないだろう。今なら喉から手出るって表現が分かる気がする。…いやいや、よく考えろ夢。あの沖田隊長が私の為にこれを持ってきたって言うんだぞ?つまりこれは…

「?お前、何百面相してるんでィ」
「っ…沖田隊長!もうその手には引っ掛かりませんよ!私だって成長したんですから!」
「は?」
「惚けないで下さい!そのお菓子に毒でも入ってるんでしょう?あ、タバスコですか?マヨネーズですか?」
「……」
ガチャリ、
「…生言ってすんませんした。そのバズーカしまって下さいませんかお願いします本当」

あ、あれっ違うの?またいつもみたいに冗談じゃすまないようなイタズラ仕掛けたんじゃないの?また優しさに見せかけて「愛情の裏返しでィ」とか言ってドS行為働いてくるんじゃないの?

「…コレはさっき、この前のガキが屯所まで届けに来たんでさァ。門の前で色々揉めてて面倒だったから、この俺様がわざわざ持ってきてやったんでィ。感謝しなせェ」
「…ガキ?」
「あり、覚えてねーのかィ?この前お前が子守りしてたあのガキのことでさァ」
「あっ…!あの子ですか?でも何でこんな高そうなもの…」
「あのガキ、どうも高級料亭の跡取りだったらしくてねィ。これをこの前のお礼にってことらしいぜ」
「へぇー、あの子がそんな凄いところの子だったとは…」
「流石、母親なだけあって一応はちゃんと覚えてんだねィ」
「!は、母親じゃありませんて!もうあの時の私への誤解は解けたはずでしょう!?」
「あり?そうだったっけ?」
「そうですよ!」

大体、その誤解の原因は沖田隊長にあったんですからね!あん時だって―…



「あの、局長…」
「ん?どうしたんだその子。迷子か?」
「いやそれが…」
「ママあ、ゴリラがいるよー」
「だから私はママじゃなくて…」
「……トシィィィィ!!夢ちゃんがァァァァ」
「ち、違うんです!これは…」
「みんなー大変だー。夢がどっかの男とガキこさえてきやがったー」
「ちょ、そのメガホンしまえやァァ!!違いますからね!本当違いますから!」



…本当大変だった。ずーっと私に引っ付いてた、あの子の面倒を看るのもそうだったけど。隊士達の誤解を解いたり、母親を探したり、隊士達の誤解を解いたり、本当大変だった…。まあ結局はあの子が女の人を見境にママと呼んでいただけだったけど…

「はた迷惑なガキだったねィ」
「いや、まあ…ってあれ?」

…そのモグモグと頬張ってるのって、私があの子から貰ったものなんだよね?何で沖田隊長が勝手に食べてんの?つーか何で残り1つなの?

「ああ、そーいえば"大きくなったら夢を僕のお嫁さんにしてやる!"とか言ってやしたぜ。あのガキ」
「!あの子、私の名前覚えててくれたんですね?教えこんだ甲斐があったー」
「そこかィ」
「えへへ、まぁ気持ちは嬉しいですけど。その頃には私もオバサンですからね〜」
「リアルに考えんな。ていうか照れてんじゃねーや、気持ち悪ィ」
「だ、だって子供の夢は壊しちゃいけないでしょうよ!」
「意味分かんねーよ」

負けじと反論する私を冷たくあしらい、沖田隊長は部屋の戸に手をかけた。薄く開けられた戸の隙間から、月明かりが零れ出す

「……沖田隊長?」

そのまま部屋を出ていくかと思えば、不意に沖田隊長はピタリと足を止めた。そして彼はニヤリと顔を歪め、くるりと振り返ってみせた。

「ま、安心しなせェ。"あの姉ちゃんは俺が先に貰うんで無理だ"って、あのガキには言っておきやしたから」
「ああ、そうなんですか―…って、えっ?」


囁くは愛


「てゆーか沖田隊長、」
「何でィ」
「さっきから小さい子の泣き声が聞こえる気がするんですが…」
「ああ、生意気なガキに大人の威厳ってのを見せてやりやした」
「……」



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