柔らかな



その日は朝から本当に色々なことがあった。まず妙ちゃんとお茶しながらある人の愚痴を聞かされていれば、そこにその本人さんが…近藤さんがやって来て。何やかんやで何故か私がボロボロになった近藤さんを真選組まで送り届ける羽目になって、そしたらそこで沖田くんに捕まっちゃって。いつの間にか二人して土方さんに追いかけまわされ続けー……気付けば時刻は夕方。私はようやく帰宅に至ったわけです

「…はあ、」
「オーイそこの不良娘、ちょっと止まりなさーい」
「!銀ちゃん」

キッというブレーキ音と共に見慣れた原付バイクが目の前で止まる。自身のヘルメットを外しガリガリとクセのある銀髪頭を掻きながら、銀ちゃんは不機嫌そうに目を細めた

「朝から出掛けたと思えば、こんな時間まで外ほっつき歩きやがって…反抗期ですかコノヤロー」
「ご、ごめん。色々あって遅くなっちゃった…って、あ、あれ?でも何で銀ちゃんここにいるの?」
「何で?じゃねーよ。アイツらが腹減ったってうるせーから、わざわざお前を探しに来たんだよ」
「!あ、やだ!私ったら夕飯のことすっかり忘れてた…!」
「マジでか。もうそこら中からいい匂いがプンプン漂って来てるんですけど」

ど、どうしよう…!今日なんて何の下ごしらえもしてないし、お米も昨日の残りだけだから全然足りないだろうし…。サァーッと顔を青ざめる私に、銀ちゃんが呆れたようにため息をつき、ヘルメットを手渡した

「…まァとりあえず万事屋(ウチ)に帰るぞ。オラ、さっさと乗れ」
「う、うん…」

帰ったらどうしよう。冷蔵庫の中の残り物だけで間に合わせられるかな、なんて考えながら。ぐちゃぐちゃになった頭をコテリと銀ちゃんの背中に預け、私達は帰路に着いた







「着いたぞ」
「う、うん…」

お礼と共にヘルメットを銀ちゃんに返し、原付バイクから降りる。そのまま鉄製の階段を登り万事屋の玄関の前に着いたところで、私はハタリと立ち止まった。?何か、いい匂いがする…

「オラ、何ボーッとしてんださっさと入るぞ。…オーイ今帰ったぞーい」
「あ、おかえりなさい」
「随分遅かったアルな」

ガラリと玄関を開け放ち、私の手を引いてさっさと家の中へ向かう銀ちゃん。その腕に引かれるままたどり着いた居間には、にっこりと微笑む新八くんと神楽ちゃんの姿があって。食卓の上には様々な料理の数々が並べられていた

「こ、れ…」
「今日は私達みんなで協力してご飯作ったアル!ほら、このレタスなんて私がちぎったんだヨ!」
「神楽ちゃん、それ全く自慢になってないから。…あ、今日の当番の分は気にしなくていいからね。僕達今日も仕事がなくて暇だっただけだから」
「今日も、は余計だろーが」
「……」
「あれ?夢ちゃん?」
「夢、どーしたアルか?お腹でも痛いアルか?」

急に顔を俯かせた私に神楽ちゃんと新八くんが慌てたようにそう問いただす。返事の代わりに頭を小さく横に振れば、銀ちゃんの大きな手がポスリと私の頭の上に乗った

「何泣いてんだよ、さっさと手洗ってこい。せっかくの飯が冷めちまうだろ」
「う、ん…」

嗚咽まじりの震えた声で「ありがとう」と一言そう言えば、三人ははにかんだ笑顔をくれて。涙はいつまでも止まらないのに、私の心はずっとポカポカと温かった


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万事屋ファミリーさん


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