笑おうか



「ん…?」



綺麗な星々が瞬く夜空の下

何となく眠る気分になれなかった私は、ふらりと庭に足を伸ばした

そこで聞こえてきたのは小さな囁き声

…どうやら屋根の上に誰かいるらしい



「(こんな遅くに一体誰だろ…?)」



時間が時間だけに少しドキドキしながら、そっと聞き耳をたてれば

それは案外聞き慣れたもので


『―…こんな戦はいたずらに仲間死にいかせるだけじゃ。わしゃ、もう仲間が死ぬとこは見たくない』

「!」



この声…辰馬?

それらがいつも何を考えてるか分からない辰馬の言葉だったからこそ

その吐き出した痛みが私に大きな衝撃を与えた



『だからわしゃ宙にいく。宇宙にデカい船浮かべて、星ごとすくいあげる漁をするんじゃ。…どうじゃ銀時?おんしゃこの狭か星に閉じこめておくには勿体ない男じゃけー、わしと一緒に…』

『ぐーぐー』

『…アッハッハッー天よォ!コイツに隕石ば叩き落として下さーい、アッハッハッ』

「…何やってんだか、」



辰馬のバーカ。ズルいよ、そんなの

…まだまだ戦争は終わってないんだよ?

何が正義だなんて分からないけど、それでも私達はこの地球(ほし)で闘って生きていくんだよ…?

向けどころのない悲しさや虚しさを握りしめて、私はただ夜空を照らす星々を眺めた







「ほがな所いたら風邪ひくぜよ」

「!たつ、ま…」



ふと気付けば、さっきまで屋根の上にいたはずの彼がそこに

思わず一歩後ずされば、ザリと草履が音を立てた



「聞いとったんじゃろ?」

「…ごめん、盗み聞きするつもりじゃ…」

「構わん。おんしにも話すつもりじゃったから」

「そ、そっか…座る?」

「ん」



縁側に揃って座る

…微かに触れ合う肩が何だかもどかしかった

ちらりと隣を盗み見れば、辰馬は遠く彼方の星々を眺めていた



「…辰馬、アンタ本当に行っちゃうの?」

「…あぁ。前々から考えたことじゃからな」

「どうして?私、分かんないよ。何でそんな…」

「夢、今この国に必要なのは利益なんじゃ。争いじゃないきに」

「?それ、どういう…」

「そうだったらいいと、おんしは思わんか?」

「!辰馬…」

「そういう時代は必ず来るきに」


辰馬の見ているもの、それはきっと遠い未来の…永遠に繋がる幸せで

私には考えも及ばないようなものだった



「…辰馬は私達なんかよりずーっと先を見据えてるんだね。何か格好いいなァ」

「あはは、んなことなかが。立っている土台が一緒なら考えることも皆同じじゃ」

「土台?」

「地球じゃ。わしらはこの星を中心に廻っとる」



大きく笑う辰馬につられて緩む口元

…さっきまで苦しくて辛くてしょうがなかったのに。不思議なもんだね。

あなたの優しさに、私はいつも救われてる



「……夢」

「ん?」

「おんし、わしと一緒に来るか?」

「え…?」

「一緒に、宙に来とくれないか?」



空を仰ぎ見ていたはずの辰馬の瞳には私を真っ直ぐ映していて

それから逃れるように、私は既に寒さで血の気を失っていてる足元に視線を向けた



「…同じこと、銀時にも言ってたなかった?」

「銀時を誘ったのはアイツの為じゃが、おんしを誘うのはわし自身の為じゃ」

「ははっ、何よそれ…」

「で?おんしはどうなんじゃ?わしと一緒に宙に行ってくれるか?」



いつもヘラヘラしてる顔はどこへやら

真剣なその瞳はただ私だけを見つめていた

…私だって、辰馬とずっと一緒にいたい。

あなたと一緒に同じ世界を見てみたい

だけど…



「…一緒に行きたいって、言いたいところだけど…」

「ありゃ」

「やっぱり、私もここで地に足付けて待ってるよ」



あなたの見る未来を、私も自分で切り開いていきたいの

あなたと同じように、自分の魂で未来を選んでいきたいの



「辰馬が言うその時代が来るのを、ここで待ってることにする」

「…そりゃ心強いのー」

「でしょ?だから途中で宙から落っこちてきたりすんなよっ」

「あっはっはー、その心配はないぜよ!」

「…私は辰馬の見据える未来をずっーと信じているからね」

「そうじゃな、目指す未来が一緒ならどこにいたって一緒じゃ!」



にんまりと目を合わせ肩を組んでうんと大声で笑ってやるんだ、いつもみたいに。

澄んだ夜空に大きな高笑いが響いた



「何だか気分が良いきに!酒じゃー!酒ば持ってこーい!」

「ちょっ、誰に言ってんの辰馬!夜中だよ?皆寝てんだよ?」

「そうじゃった、そうじゃった。アッハッハー!」



いつ死ぬか分からない戦場で、あなたの云うその時代を待ってることにする

…勿論待ってるだけじゃなくて、私も地球(ここ)で出来ることをするつもり

だから、



「だから辰馬、頑張ってきてね」

「あぁ、勿論じゃ!」



辰馬は宇宙で私は地上で

それぞれが目指していけば、いつの日か必ずそれは叶う気がするの

組んだ肩から伝わる体温は温かく。今はただ馬鹿みたいに笑うだけ


笑う


−−−−−−
長くなっちやった…


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