境界線



「ケホっ…」

がんがんと痛む頭に焼けるように熱をもつ喉。そして咳き込む度に感じる息苦しさ。病は気からとは言っても、こんなに苦しいんだもの…やはり弱気になってしまう

「う…私、もしかして死んじゃうのかなあ…」
「バーカ、ただの風邪でそう簡単に死ぬわけねーだろィ」
「…ばか、じゃないもん。ばかは風邪引かないもん」
「ほれ、風邪引いてても屁理屈は健在じゃねーか」

う―…言い返す気力もないのが悔しい…。顔をムスッとしかめたまま色褪せた天井を見上げていれば、不意に頭にかかっていた圧力が消えた。…どうやらタオルを取り変えてくれるつもりらしい。生温くなったタオルが、総悟の手によって枕元の洗面器の冷水の中へと浸された

「で、熱は」
「さんじゅ、はちど…」
「昨日より上がってんじゃねーか。やる気ねーな」

風邪を治すのってやる気の問題なのかな…?そう思っていれば、総悟がぽとっと私の頭にタオルを乗せた。…う、相変わらず雑だなあ。もう少しちゃんと額にのせてほしかった、けど…ああでも冷たくて気持ちいいなあ。大分楽になった気がする

「幸せ〜…」
「そりゃ良かったねィ」

心地のよい温もりを感じていれば、すぐ近くで衣の擦れる音が聞こえた。うっすらと開けた視界に、畳に置いた刀を手にする総悟の姿が虚ろに見える

「…仕事、行くの?」
「面倒くさいけど今日は土方の馬鹿と市中回りでねィ」
「……」

そこで不意に感じたのは、底知れぬ寂しさと心にぽっかり穴が開いたような虚無感。…気付けば私は総悟の隊服の袖をギュッと掴んでいた。驚いたように見開かれた総悟の瞳と視線がかち合う

「ー…夢?」
「…もうちょっと、だけ。もうちょっとだけでいいから。お願い、そばにいて…?」

風邪の時は人肌恋しいというが、今の私はまさにそれだ。部屋に1人でいるのが無性に寂しくて、少しでも長く隣に誰かいてほしくて…。こうして辛い時には誰かの笑顔に触れていたい、だなんて…何てワガママなんだろう

「…病ってのは人を随分変えちまうみたいだねィ」
「…?」

その言葉に戸惑う私の瞳に、今度は意地悪く笑う総悟の姿が映った。そして次の瞬間、視界いっぱいを綺麗な蜂蜜色が支配した。ふわりと甘い香りが鼻先をかすめる

「!……うつる、よ。風邪」

そう私の上にまたがる総悟に擦れた声で言っても、彼は変わらずヘラリと笑顔を返すだけで。むしろ総悟は額をこつりと合わせ、だんだんと距離を縮めてきた

「いや、誰かにうつしたほうが治るのが早いって誰かが言ってたような言わなかったような」
「…アバウト、」
「うっせーやい。…大体、そんな顔してたら誘ってるとしか思えねーや」
「さそう…?」

それ、どういう…?見つめてくる熱っぽい蒼色の瞳。どちらともなく近づく唇。それらを前に私は完全に聞くタイミングを失った

「そ…」
「結婚するまでそういうのはナシですゥゥゥゥ!!!」
「「!」」

スパンと勢いよく開け放たれた襖。そこから息を切らして飛び込んできたのは…

「こ、近藤さん…?」
「あああダメだぞ夢ちゃん早まったら!」

は、早まるって何を…?私は目を丸くしそのまま動きを止める。暫くしてからハァ…と総悟が大袈裟に吐いたため息が前髪を揺らした

「そんな爛れた恋愛、俺は認めません!」
「爛れたって…近藤さんもよく言ってんじゃねーですかィ。姉さんと一発ヤりたいって」
「一発…?」
「そ、それとこれとは話が別なんですゥゥ!!とにかく!俺の目が黒いうちは絶対にそんなことさせません!!」
「……(駆け落ちでもするか)」
「総悟お、重いよ〜…」



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素敵企画OKIFES様に全力で捧げます!

ぬぬ…これは果たして沖田×ヒロイン←○○の規約に沿っているんだろうか(;_;)


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