「…もーう無理。限界」

握っていたシャーペンをポイッと放り投げ、私は机に突っ伏した。それを見てか、右隣の席に座っていた梓はハァ…と大きく溜め息をついた。左隣の席にいる翼からは雛、まだ課題やり始めてから15分も経っていないぞー?と明るく言われた。う、うるさいなー…

「…だって全然分かんないんだもん。もういい知らない」
「馬鹿だな雛は。せっかく先生がこの課題をやれば単位あげるって言ってくれたのに。みすみす投げ出すつもりなの?」
「そうだぞお!先生の優しさに感謝するべきなのだ」
「こんな大量の課題出してくる時点で鬼畜だよあの先生。渡すとき半笑いだったもん」
「…相変わらず口が悪いね、雛は。全く可愛くない」
「!んなっ…」
「羊、それは言い過ぎだぞ」
「まあ的は得てるけどなー」
「哉太、雛ちゃんに失礼でしょ!」
「な、何で俺だけなんだよ!羊だって同じこと言って…」
「まあまあ、鳥の巣先輩落ち着くのだ」
「そうです、ここは図書館ですよ?」

私たちの前に現れたのは錫也先輩に羊先輩に哉太先輩に月子先輩という、天文科二年生幼なじみ組だった。…あ、このネーミング長いかな?まあいいか

「雛ちゃん久しぶりだね。元気にしてた?」
「はい、それなりには。ええと…先輩方は何をしに図書館へ?」
「みんなでテスト勉強をしにきたんだよ」
「宇宙科は先週終わったんだっけ?天文科は来週テストがまだあるんだよなこれが」
「あ、ああなるほど…」
「雛こそ、何で勉強なんかしてるの?そんなガリ勉キャラだったっけ?」
「ぬ、これは雛が今回のテストで落第点取ったから課題をやって…」
「っ、翼のバカ!」
「ぬわわ!頬っぺた引っ張るなあ〜!」

そんな私の株を落とすようなこと、わざわざ言わなくてもいいじゃないか!翼のお喋り!そう私が口を尖らせれば、梓に「落第点なんか取る雛が一番悪い。」と冷静に返された。…それ言われたらどうしようもないんですか。振り返り言い訳をしようと思ったが、梓はツツツと月子先輩に近付き「それにしても、部活が休みの日にまで先輩にこうして会えるなんて嬉しいです」と笑顔を向けていた。何だ、自由かやりたい放題なのか

「ぷっ…あははは!お前やっぱ頭悪かったんだな!」
「…何ですか聞き捨てなりませんね。哉太先輩だって進級出来るかギリギリの線をさ迷ってるくせに」
「!そ、それは俺はただ単に出席数が足りないだけだ!頭は悪くねえ!」
「わ、私だって頭は悪くないですよ。出席数が哉太先輩よりはるかに足りてないだけで。週に3日授業に出てればまだマシなほうです、私のほうがレベル高いです」
「自慢になってないぞ?それ」

錫也先輩にそんな素敵笑顔されたうえ、ツッコミいれられると何かショックなのだが…グサッとくるものがある。まあそんなわけで梓と翼に図書館に監禁されたわけです、と言葉を紡げば梓にぱこっと頭を叩かれた。痛ァ…!前々から思ってたけど、女の子に基本優しい梓が私にだけは暴力振るうのは何故なんだ…!

「ぬー…だからといって梓にめちゃくちゃ優しくされたら、それはそれで怖くないか?」
「ああ、確かにそうだね…って人の思考読まないでよ翼」
「…それにしても流石は宇宙科だね。課題の内容すごく難しそう…」

私の課題である長文の記述問題を見て、月子先輩は眉をむむむとひそめる。その肩を抱きながら、羊先輩も「うーん…これは確かに専門的過ぎて僕にも分からないかも。錫也、分かる?」と目を細めた
「いいや、さっぱりだ。あはは、流石は宇宙科だね」
「錫也でもわかんないのか!?そりゃマジで難しいんだな…つーかお前絶対裏口入学したろ。木ノ瀬や天羽と同じ宇宙科特進クラスだなんて」
「ビンタしますよ哉太先輩」
「ほらほら、雛いい加減先輩方に突っかかるのよしなよ。…それで?どこが分からないの?」
「全部…」
「…はあ?雛は授業中に一体何を学んだのさ」

いや、授業自体あまり参加してなかったのですよ。中学の時はあまり学校には行かなくても別にテストなんか余裕だったし…。だが、どうもそんなこと出来る程この学園は甘くないらしい。くっ、宇宙科マジで半端ねえ…!

「…雛ちゃん、」
「はい?何ですか月子先輩」
「雛ちゃんはその…勉強が嫌い?」
「え?な、何ですか急に…」
「いや、私も羊くんや錫也みたいにテストで高得点取れるほど勉強は得意じゃないんだけどね。それでも星は好きだから…天文科の勉強も辛くはないんだ。むしろ楽しいの。だから雛ちゃんはどう思ってるのかなって」

にっこりと微笑んだ月子先輩に私はつい見惚れてしまった。…そういう考え方も出来るんだ、素敵だなあ。私は星を学ぶためにこの星月学園に来たわけじゃないけれど、その考え方は好きだ。

「……」

私は…一樹会長を救いたい。彼と一緒にいたい。そう思って此処、星月学園に来た。だから一樹会長が私を好きだと言ってくれて…そして彼が生徒会のような素敵な居場所を得た今となっては、その目的は果たされたとも言える。もう学校自体に来る意味はないと、そう少し前までは思ってた。だけどー…

「…勉強は、確かに嫌いです。それに星にだって、私はみんなほど興味もないです。この星月学園も、そこまで好きじゃないです」
「…随分キッパリ言うのなお前って」
「で、でも私には夢があるから。勉強もまあ必要なんだろうとは思ってます…一応。もちろん、努力もしなきゃいけないことも」
「…ふふっ、そっかあ。じゃあ頑張らなきゃね」
「……はい、」
「へえ〜雛にも将来の夢なんてあるんだね。何なの?」
「俺も興味あるなあ」
「お前そのために勉強してんのか?じゃあ羊と同じで天文学者とかそんなのか?」
「!え…」

私は興味津々といった感じの羊先輩、錫也先輩、哉太先輩に思わず顔をしかめた。……梓と翼と一緒にNASAで働くことが夢です☆なんて言ったら、きっと笑われるに決まってる。馬鹿にされるに決まってる。ぜ、絶対に言わないから…!私は「ぬはは〜雛の夢は俺と梓と一緒に…」と笑顔で言葉を紡ぐ翼の頭を叩き、シャーペンを握り直した。

「な、何はともあれ良い勉強法を教えて下さいませんか?先輩方」

−−−−−−
そして続く勉強会。





空想レッテル


.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -