「え……これ本当にお前が作ったのか?」
「…何ですかその信じられないって顔」

失礼すぎるでしょうに…。無神経な言葉を吐く隆文先輩には肘鉄を食らわしてやる。痛い!なんて悲鳴が聞こえたが無視だ。前回同様、どこぞの恋する乙女なみに顔を赤く染めながらもお守り袋を手渡した私に、その仕打ちは酷すぎる。出来ればリアクションなしで受け取ってもらいたいものだ。

「いや悪かったって!まさかお前がこんなに器用だとは思わなくてさ」
「…それもそれで失礼じゃないか?犬飼」
「雛ちゃんありがとうな〜!俺、これ白鳥家の家宝にするよ!」
「冗談でもそれはやめてください、弥彦先輩」

このお守り袋はそんな素晴らしいクオリティーではないし。あくまでインターハイ頑張ってほしいなと、私が勝手な心持ちで作っただけだ。むしろ私としては受け取ってもらえたこと自体が喜ばしい。…ついでにこうしてたまたま廊下で弥彦先輩と隆文先輩と龍之介先輩方2年生がたむろってくれて良かった。まとめて渡せるなんて何てラッキーなんだ。

「にしてもあれだな、レアだな」
「?何がですか?」
「いつもクールなお前がそんなに照れてるなんてさ。お前ツンデレ属性だったんだな」
「……隆文先輩、何発殴られたいですか?」

拳をギュッと握りしめ、じろりと隆文先輩を睨む。「うわ、それは勘弁だ」と弱々しい台詞を吐くも隆文先輩は何が可笑しいのかくすくすと笑みを溢した。…う、なんかものすごくこの場から逃げたいのだが。

「し、仕方ないじゃないですか。誰かに手作りの何かをプレゼントするなんて初めてのことなんですから」
「む、そうなのか?」
「マジで!?わーい!雛ちゃんにプレゼントを貰えた人間第一号になれたああ!」
「おい白鳥、コイツは弓道部の部員全員にこのお守り袋を配ってるんだってことを忘れるなよ?」

そ、そうだったあああ!と頭を抱える弥彦先輩。…何だ、やっぱり誰かに何かを貰えるってことは嬉しいことなのか。それなら今度、弥彦先輩にマフラーでも編んであげようかな。例えば、だけど。手芸は得意だし。そうぼそりと呟くと弥彦先輩がまたオーバーリアクションを取る。…相変わらず元気だなあ、この人は。

「…渡邉、」
「はい?何ですか龍之介先輩」
「悪いことは言わないから撤回したほうがいい」
「へ?」
「こいつがまた調子に乗るだけだ」
「なっ…酷いぞ宮地!」
「いや宮地の言う通りだろ」
「そんな犬飼まで〜」

??何で弥彦先輩にプレゼントをすることがダメなんだろう…。いつもこんな私なんかに仲良く接してくれる星月学園のみんなには、そういうことだけでは返せないほどの恩があるというのに。疑問符を浮かべる私に隆文先輩が「鈍感だな。手編みのマフラーなんか貰って期待しない男がいるわけないだろ」と頭を叩かれた。……そんなものなのか、やっぱり男の子ってよく分からない。

「…でも、誰かに何かを手作りすることは私に合ってると思うんです」
「?合ってる?」
「はい。私はなかなか気持ちを言葉にしたりするの苦手だから…だから、作る時に気持ちを込めるんです」

例えばこのお守り袋を縫った時。一針一針に気持ちを込める。日々一生懸命に練習をするみんなを思い浮かべながら。頑張ってください、って。少しでも力になれますようにって。私が伝えられない分、このお守り袋がみんなに気持ちを届けられますようにって。「決して重荷にはなりたくはないんですけどね」と苦笑いを溢せば、頭をわしゃわしゃと撫で回された。え、ちょっ…何ですかいきなり。

「馬鹿だな、重荷になんか感じるわけねーだろ」
「え…?」
「そうだぞー!俺、雛ちゃんのためにインターハイ頑張っちゃうからな!」
「お前の気持ちを無駄にはしない。…弓道部が目指すのはもちろん優勝だ」
「……」

私の気持ちをちゃんと受け止めてくれたうえ、こうして私に温かな優しさをくれる。…こんな素敵な人達と出会えて、私は幸せだ。私は彼らの名前を一人一人呼び、再度「インターハイ、頑張って下さい」と言葉を紡いだ。どうか彼らが後悔のないよう自分の弓を引けますように。







空想レッテル


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