というわけで、前回頑張って制作してたお守り袋は完成したわけなのですが…

「……どうしよう。渡す時のこと、考えてなかった…」

考えてみれば私は「○○くん、クッキー作ってきたんで食べてください(ハート)」みたいなキャラではない。そんな可愛さなんか、あいにく持ち合わせていない。インターハイ前の弓道部の面々に差し入れ、なんて…自分はもしかしてすごい大変なことをしようとしてるんじゃないか。そんな疑問が頭の中に浮かぶ。私ははあ…と大きなため息をつき、お守り袋の入った紙袋をぎゅっと抱きしめた。

「雛さん、いつまでそんなところに座り込んでいるつもりですか?」
「…だって颯斗先輩、私今すごくキャラに似合わないことしようとしてるんですよ…?」
「キャラに似合わないとかそんなことはよく分かりませんけど…せっかく作ったんですし、それを貰えば弓道部の方々もすごく喜ぶと思いますよ?」
「う、でもやっぱり何か照れ臭くて……って、あっそうだ!良いこと思い付いた!!」

バサリ。急にそう大声を出した次の瞬間、颯斗先輩の手からプリントが何枚か床に落ちた。うわ、驚かせちゃったみたいだ…申し訳ない。今生徒会室には颯斗先輩と私しかいないため、これ拾うことが出来るのは私だけだ。私は腰を曲げてせっせとプリントを拾う。(ちなみに翼はラボで発明中、月子先輩は部活動中、一樹会長はいつも通り放浪中である)

「す、すみません颯斗先輩」
「いいえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。…それで良いこと、とは?」
「あっそうでしたそうでした!颯斗先輩、これお願いします!」
「……はい?」

バッと紙袋を颯斗先輩に突き出す。颯斗先輩はそれをジッと見つめながら、あの…つまりはどういうことでしょう?と首を傾げた。ピンク色の髪の毛がふわりと揺れた。…うん、まあ当たり前の反応だろう。

「ええと、あの…ですから颯斗先輩からこれを隆文先輩や龍之介先輩や弥彦先輩に渡していただけませんか?」
「え?僕が、ですか?」
「はい。颯斗先輩は隆文先輩と同じクラスですし、龍之介先輩とも弥彦先輩とも仲良いですよね?」

誉先輩や伸也くんや梓にどう渡すかは後で決めるとして。二年生の先輩方には颯斗先輩を通して渡していただければ嬉しいのだけど…。ほ、本当お願いします颯斗先輩!と再度颯斗先輩に頭を下げる。が、私が顔を上げる前に「…そんなの、ダメですよ」と手厳しい返答が返ってきた。うええマジでかああ…

「雛さんが弓道部の方々のために作ったお守り袋なんですから、雛さんが直接渡してあげるべきです」
「そ、それはそうですけど…」

でもやっぱ恥ずかしいんだから仕方ない。キャラ的な意味でももちろんそうだが、私は今まで他人に何かをプレゼントすること自体したことなかった。…いわばこれが初めての体験なのだ。

「……ダメです。渡す時のこと考えただけで顔から火が出そうです」

ソファーにばふっとダイブし、そう一言。それに颯斗先輩は「考えただけで、ですか?」とくすりと笑い、私の頭をよしよしと撫でてくれた。う…何か私また子供扱いされてる気がする。何か悔しい。

「雛さん、」
「…何ですか?颯斗先輩」
「雛さんはどうして弓道部の方々にお守り袋をプレゼントしようと思ったんですか?」
「えっ…?」

どうしてって、それはもちろん毎日練習を頑張ってる誉先輩や龍之介先輩や隆文先輩や弥彦先輩や月子先輩や梓や伸也くんの力になりたくて…

「(……ううん、それだけじゃないな。きっと)」

だってそれは以前のように、何もできない弱い自分に嫌気が差していたあの頃は出来なかった、大きな一歩だから。此処にいてもいいんだと実感出来た今だからこそ、誰かに何かをしてあげたいと願う余裕が出来たんだと思う。私も…一樹会長みたいに誰かに何かを分け与えられるような、そんな人間になりたかったんだ…。

「雛さんのそのお守り袋を弓道部の方々にあげようと決めた時の気持ちを、彼らに伝えてあげられなければ本当に損ですよ?」
「損、ですか…?」
「ええ。雛さんのためにも弓道部の方々のためにも…その気持ちを真っ直ぐ伝えてあげて下さい」

僕のように後で決して後悔をしないためにも、と言葉を続ける颯斗先輩。私はそんな彼に少し違和感を感じつつも、その綺麗過ぎる微笑みに「はい、頑張ってみます」と言葉を紡いだ。…彼が何に後悔してるのか、それが結局私には分からないまま、私は静かに心に蓋をした








空想レッテル


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