「かっずき〜遊びに来たよん♪」
「!げっ、桜士郎…」
「今日は雛ちゃんも珍しく生徒会室にいるって聞いて…って、あれ?」

生徒会室にずかずかと上がり込んできた桜士郎はいち早く、ソファーの上ですやすやと眠るその人物に気付いたらしい。「あれ?俺達のお姫さまはお眠り中なの?」なんて白々しく笑い、いきなりカシャカシャと写真を撮っていた。雛の寝顔の盗み撮りか…よし、あとで数枚もらっておこう

「白銀先輩、いい加減にしてください。雛さんが起きてしまいます」
「くひひ、ごめんごめん!番長くんったらそんなに怒らないでよ〜」
「ぬぬっ、おーしろーは雛からもっと離れるのだ!」
「ええっそんな固いこと言わないでよ!こんなに雛ちゃんに至近距離まで近づけるのは寝てる時だけなんだから」
「それどういう意味ですか、白銀先輩…」

呆れたようにそう言う月子に、逆にちょっかいを出そうとする桜士郎の根性には呆れたものだ。そしてその一連の行動を止めようとする颯斗と翼も、既にそれぞれの役目がパターン化してる。はあ、これも今じゃ日常の風景なんだよあ…もう慣れちまった

「にしてもこんな時間から眠ってるなんて…雛ちゃん具合でも悪いの?」
「ふふっ違いますよ。雛ちゃん昨日から徹夜で作業してて、さっきまで起きて続きをやってたんですけど…疲れて寝ちゃったんです」
「?作業って…何をやってたの?」
「インターハイを控えた弓道部の方々への差し入れ、らしいですよ」
「ぬはは、教室でも生徒会室でもずっとチクチクお守り袋を縫ってたぞっ。教室では梓に隠れてやってたけどな!」

「へえ…雛ちゃんの手縫いのお守り袋を差し入れされるなんて、弓道部のみんなが羨ましいねえ」と笑って、桜士郎は机の上に置かれた完成品のお守り袋をひょいと手に取る。そして桜士郎は会長席に座る俺に意味深な目線を寄越した。?何だその嫌な笑顔は…

「くひひ!一樹も大変だね」
「あ?何がだ?」
「だって大事な彼女が他の男のためにこんなことしててさ、正直妬いちゃうでしょ?」
「……」

妬く、か…。俺は席を立ち、にたにたと厭らしい笑みを浮かべる桜士郎を軽く小突いた。そして生徒会室にあった毛布をソファーの上で眠る雛にかけ、そのまま彼女の隣にドサリと腰を下ろした

「…そんなの、感じたことはない」
「へえ?随分自信満々だね」
「雛が他の男に浮気するわけないからな」
「…まあ雛さんに好意を寄せる人は学園内にたくさんいるでしょうけどね」
「ぬははっそらそらの言う通りだな!」
「颯斗、翼うるさいぞ」

俺はスースーと寝息をたてる雛の頭にぽんと手を置き「なっ、お前が浮気なんかするわけないもんな?」と笑いかけた。…確かに雛はよく1人でフラッと姿を消すようなやつだから、不安にならないと言うと嘘になるが…

「…逆に俺は、雛が色んな人間と関わっていくことが良いことだと思っている」
「?良いこと、ですか?」
「ああ。雛が俺を含め他人と関わっていくのは良い傾向だ。他人と関わることで…こいつはちゃんと前に進んでいける」

母親が死んでから、義理の父親に家庭内暴力を受けた末に見放され今までずっと1人で生きてきた雛。彼女には荒治療だろうが他人と深く関わっていくことが必要だ。ちゃんと誰かを信頼するっていうことを覚えて、そしてー…ちゃんと自分がどんな人間なのかを知ってほしいんだ

「雛は優しいやつだから…こいつの言葉や優しさに救われた人間はこの学園にもたくさんいるはずだ」

現にここにいるメンバーのなかでも、雛に大切なものを気付かせてもらったやつだっている。俺はこいつに…もっともっと自分が周りに愛されてるって分かってほしいんだ。自分がダメな人間だとか決めつけてほしくないんだ。…だって実際、俺はこいつに救われたから。こいつの優しさに救われて、俺は此処にいるから

「…きっと大丈夫ですよ、一樹会長」
「え?」
「確かに#NAME1##ちゃんは少しそういうところに鈍感ですけど…その分、私達が"雛ちゃんのことが大好きなんだ"って気持ちを伝えてあげればいいんだと思います」

そう微笑む月子に「くひひ!雛ちゃんに直接そんなこと言っちゃったら、雛ちゃん顔真っ赤にしちゃうんじゃないかな〜」なんて桜士郎が言ってパシャリと写真を撮る。そしてその桜士郎の言葉に「ぬはは!確かに雛は恥ずかしがり屋さんだからなっ」と翼が頷き「ふふっ…でもそうでもしないと雛さんは分かってくれないでしょうね」と颯斗もくすりと笑顔を浮かべた。…何だ、みんな俺以上に雛のこと分かってくれてるじゃねーか

「(それなのにお前ときたら…もっと自惚れてもいいんだぞ?)」

俺は気持ち良さそうな寝顔を浮かべる彼女にため息を1つついた。…幸せそうな顔しやがって。父ちゃん、口元がニヤけちゃうだろうが。俺は気を取り直すかのように「…おしっ。さて仕事するぞ、仕事!」と言ってソファーから腰を上げた。まずは桜士郎のカメラを没収することから始めるとするか






空想レッテル


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