「渡邉雛ちゃん…だよね?」
「…?」

良い天気だからと学園の屋上庭園を歩いていた折、突然声を掛けられた。振り返ればそこにいたのは見知らぬ男子生徒達の姿。ん、ネクタイの色からして…3年生かな?しかも私と違う科の人達だと思われる。まあつまりは知り合いでもない赤の他人である

「あの、何か…?」
「いや俺達さ〜実はずっと君とお話したかったんだ」
「へ?私と…ですか?」
「もちろんだよ。だってこの星月学園にいる女子生徒は君と夜久月子ちゃんだけなんだからさ?」
「君みたいな可愛い子とお近づきになりたいな〜って当然思うよ。男なら誰でも」
「………」

…つまりは女の子に飢えてると。そう解釈してもいいよね?ああ、こんな田舎で寮制の学園じゃ女の子との出会いなんてないだろうしね。可哀想に…だけど私だって、男子生徒ばっかりのこの星月学園にこうもうんざりしてるのだ。互いに立場は似たようなもんだろう。ニヤニヤした顔つきで私の頬に手を添えた上級生を、私は―…

「!?うぐっ…」

グーで殴ってやった。当然殴られた上級生は驚いたように目を丸くし、周りの仲間達も反応をつい遅らせていた。まさかナンパした女の子に殴られるとは思わなかったんだろう。そりゃそうだ、普通の女の子ならこんな展開はあり得ない。助けてー!なんて可愛らしく叫んで助けを求めてるところだ

「オ、オイ大丈夫か!?」
「てめえ…どういうつもりだ?」
「先輩方…3日前に同じようにして、月子先輩に言い寄った人達ですよね?月子先輩が言ってた人物像と顔ぶれがそっくりなんですよ」

ああ、あの時月子先輩に無理矢理にでも聞き出しておいて良かった。そして哉太先輩と交わした"月子(先輩)に言い寄ったそいつらに絶対一発かます!"という約束が守れて良かった。…まさか同じようにして私にまで言い寄ってくるとは思わなかったけど

「私はともかく…これに懲りたらもう二度と月子先輩には近付かないで下さい。月子先輩すごく嫌な思いしたって言ってました」
「っ…調子に乗んなよこの女!」
「男三人相手に女一人でどうにかできると思ってんのか!?」
「一人じゃないぞ、」
「!?」
「!え…」

私に殴りかかろうとしてきた上級生が、またもドサッと芝生の上に倒れ付した。驚く私+上級生達の前に現れたのは―…

「お、お前は…」
「ハ、お前らのような奴らでも知ってるだろう?生徒会長の不知火一樹様だっ!」
「……自分で名乗るとか」
「うるさいぞ雛」

何で無駄にカッコつけて登場してきたんだこの人…。ヒーロー気取りか?ヒーロー気取りなのか?呆れ気味に一樹会長を眺めていると、上級生達がそそくさと去ってしまったのに遅れながら気付いた。…生徒会長相手じゃ色々分が悪いと思ったんだろう。あぁ、まだ話は終わってなかったんだけど…

「…あーぁ、一樹会長のせいであの人達逃がしちゃったじゃないですか」
「お前なァ…んなこと言ってる場合じゃないだろ!」

いきなり怒鳴られたかと思うと頭をバシッと叩かれた。う、女の子相手に容赦ないなこの人…!月子先輩相手じゃきっとやらないだろうに…!

「な、何するんですか一樹会長!」
「バカっ俺がどれだけ心配したと思ってんだ!大体、俺が来なきゃお前どうなってたか…」
「?別に私一人でも何とか勝てましたよきっと。私強いし」
「そういう問題じゃねーんだよ!」

えええじゃあどういう問題なんだよ…。思わずツッコミを入れようとした瞬間、ギュッと強く身体を抱きしめられた。…本当お前は心臓に悪い…、と微かに震えた声が私の耳にぼそっと囁かれる。…っていうかこの人、もしかしてここまで走ってきたのかな。すごく汗かいてるんだが…

「…一樹会長、」
「何だ」
「ここ…公衆の面前なんですけど。みんな見てますよ」
「ん?いいんだよ別に」
「いやよくないです」

私はもう恥ずかしくて仕方ないというのに、一樹会長は何とも思っていないのだろうか。私は出来るだけ周りの生徒の視線を避けるように頭を垂れ、一樹会長の首もとらへんに視線を移した。そして周りには聞こえないように、小さな声で「…心配かけたみたいでごめんなさい、」と呟いた。…来てくれて嬉しかった、ありがとう。なんてことは絶対に言わない。そんなことを言えるまでに私は積極的ではないから。だからせめての感謝の気持ちとして、一樹会長の気がすむまでこうして抱き合ったままでいようと思う。恥ずかしくて死にそうだけど






空想レッテル


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