「よいしょ、」

両手にあるプリントや教材を持ち直し、私は職員室に向かうべく廊下を歩いていた。う、重くはないけど持ちにくいなあ…これ。慎重に運ばなくてはと思った矢先、私は急に肩を後ろからグイッと引かれた

「!?」
「…止まって」

この声は……。言われたまま足を止め、首だけくるりと振り返ればそこには"彼"がいた

「…わ、四季先輩じゃないですか。お久しぶりです」
「…うん、久しぶり…」

こてりと小さく頷き、四季先輩は私の肩からパッと手を離した。…相変わらず眠そうな目をしてるなあ。くすっと笑みを小さく溢し、私は「あ…でも四季先輩。私、先を急いでるので行きますね?また今度ゆっくり話しましょう」とだけ言い残し歩を進めようとした。が、四季先輩がおもむろに私の前に立ちはだかった

「…駄目。あともう少ししてから行った方がいい」
「え?」
「このまま行けば、雛は天文科の三年生に遭遇してからまれる。で、怪我をする」

キッパリとそう断言した四季先輩はそう言って、ふぁ〜っと欠伸を一つする。何でそんなこと分か……って、そうか。そういえば四季先輩は一樹会長と同じ"能力"があったんだった

「星詠み、ですよね…?」
「…そう。視えたから、伝えた…」
「わ、わざわざありがとうございます」

荷物を抱えているために、私は頭だけ小さく四季先輩にぺこりとお辞儀をした。それに四季先輩は気にしないでというように首を振った。

「(星詠み、か……)」

"星詠みはその力を上手く使えば事前に危険を察知出来るし回避出来る"って、一樹会長が言ってたっけ…。天文科の三年生に絡まれる、なんて…もしや一昨日、哉太先輩と私が懲らしめた人達なのかな?「でも…もしその場面に遭遇しても、いつも通り撃退出来たと思いますけどね」なんて冗談混じりに言えば、四季先輩に「…それは無理」とやんわりと否定された

「あんた、両手が塞がってる。いつもみたいに喧嘩、出来ない」
「!あ…」

な、なるほど…。思わず顔をポカーンとさせた私に四季先輩はフッと微笑み、…両手の荷物、持とうか?と私に手を差し伸べてきた

「だ、大丈夫です。四季先輩の手を煩わせるわけにいきませんから」
「…そう…」

というかこんな眠そうにフラッフラしてる四季先輩が、こんな荷物をたくさん持てるわけがないし…。途中で放棄とかしちゃいそう。そう思い「よいしょっと」と荷物を持ち直した私に、四季先輩が…そういえば…と呟きポンと手を打った

「オヤジがあんたのこと…探してたよ」
「(ぎくっ)…知ってますよ」
「…そうなの…?」
「はい、メールが19件も来てましたから」

むしろ逃げてたくらいだからね。どうせ昨日また私が上級生と喧嘩したことを、説教するつもりなんだろう…。月子先輩にちょっかい出すあっちが悪いっていうのに、まったく…。じゃあ遠回りして職員室行きますね。生徒会室付近には近寄らないようにして。と微笑むと、「…そういう意味で言ったんじゃないけど…」と少し困ったように返されてしまった

「…あんた、オヤジと付き合ってるんでしょ?何で逃げるの?」
「え?構ってほしくないからですよ」
「?…何で?」

付き合ってる男に放置されたい女なんているの?なんてリアルなことを言う四季先輩は、ひたすら純粋そうな目でこちらを見つめる。…四季先輩、天然なんですかあなた

「ええと…例えば世の中に"何をしなくても周りを惹きつける魅力を持つ人間"と、"何をしても周りを寄せ付けない人間"がいたとします」
「?…オヤジは、前者ってこと?」
「そうです。前者は一樹会長、後者は私。…なら、後者(わたし)はそんな人間を独り占めするべきじゃないです。私に出来るのは…」

『一人で、生きていくことです』
そう言葉を紡いだ私を見る四季先輩の瞳の中の光が、ぐらりと揺らいだ気がした。その瞳から逃げるようにして、私は静かにその場を後にした







空想レッテル


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