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「おい羊、それは俺の唐揚げだろ?返せ!」
「うるさいなあ。哉太だってさっき、僕のおにぎりを食べたじゃないか」
「それとこれとは話が別なんだよ!返せ羊!」
「嫌だよ〜」
「………」
…何でこんなことになったんだろうか。私はギャーギャーと騒ぐ哉太先輩と羊先輩を見て、思わずハァ…とため息をついた
「雛、ちゃんと食べてるか?遠慮しないでもっと食べろよ?量なら山ほどあるからさ」
「雛ちゃん、何か食べたいおかずがあったら私が取ってあげるよ。何食べたい?」
「いえ、あの……」
お、おかしいぞ…。私は確か錫也先輩に「雛、ちょっと雛に頼みたいことがあるんだけど…」と呼ばれて、昼休みに私はこの屋上庭園に来たんだ。なのに私の目の前にあるのは色とりどりのおかずと、綺麗な三角形に整えられたおにぎりの数々…。そして目の前にいるのは羊先輩に哉太先輩に錫也先輩に月子先輩という、二年生の天文科のメンバー…。これは私…
「"場違いだ"とか思ってる?」
「!っ…」
「雛は普通に俺達が"一緒にご飯を食べよう"って誘ったら、きっと断ると思ってさ。騙す形になっちゃったけど、こうしたんだ」
他の三人に聞こえないように、こそっと私の耳に囁く錫也先輩。…錫也先輩はいつも優しいけど、こうして私の間違いを正す時はたまに意地悪になる。それこそまるで、子供を叱る時のお母さんのようにー…
「……ここは、錫也先輩達幼なじみ四人の居場所じゃないんですか?私は部外者…他人ですよ?」
「あはは、他人なんかじゃないさ。雛は月子の親友で…そして俺達の友達でもある」
「…でも…」
「お前は1人で閉じ籠り過ぎだよ。…何で月子をいつも護ってくれてるお前を、俺達が"他人"扱いしなきゃならないんだ?」
「!…」
「お前が一番俺達を"他人"扱いしてないのに…何でお前だけ自分から距離をあけるんだ?それ、おかしくないか?」
「自分の居場所をもっと当たり前であるように思えなきゃダメだ。いいね?」と少しキツい口調で言い、錫也先輩はぽんぽんと私の頭を撫でた。…錫也先輩は相変わらず飴と鞭の使い方が絶妙だなあ、なんて。目の前で喧嘩を続ける二人の仲裁を図るべくスクッと腰を上げた錫也先輩を見て、私はそう実感した。ほら、また"あの笑顔"だ…
「おい羊!それ俺の玉子焼きだぞ?」
「そんな大事な玉子焼きだったら名前ぐらい書いとけばいいじゃん。これは僕のだっ」
「お、お前なァもうこれで何度めだと…」
「ね、月子。君の玉子焼きひとつもらっていい?」
「え?う、うん。いいけど…」
「!待て待て待て!月子は羊を甘やかし過ぎ…」
「二人ともいい加減にしなさい
「「!す、錫也!」」
…私の目がおかしいのだろうか。錫也先輩の頭に鬼の角が生えてるように見えるのだが…。が、同じことを考えていたのか、ひぃっと大げさなリアクションを取って羊先輩と哉太先輩はさっと顔を青ざめさせていた。一方錫也先輩にあまりの恐怖を抱いた私も、咄嗟に隣にいた月子先輩に抱きついた
「…これ以上喧嘩を続けるようなら、俺はこれから二人の為に料理はもう作らないからな?」
「!わ…悪かったって錫也。もう喧嘩しねーから…な、なぁ羊?」
「も、もちろんだよ。大体、僕たちは喧嘩なんかしてないよ…」
「それなら良かった」
「ふふっ、羊くんも哉太も錫也には弱いね」
「……そ、そうですね」
騒がしくも楽しい時間。私はいつまでこの時間を楽しめるのか、私はいつまでもこの幸せのなかにいられるのか…考えるとキリがない。私は錫也先輩お手製のおにぎりをぱくっと頬張りながら、笑いあう四人をじっと見つめていた。…この先もこの人達が笑顔でいれますように。願わくば私もその笑顔の傍らにいられますように。そう祈りつつ、私は久しぶりにお腹が満腹になるという感覚を感じていた
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