「じゃあ、帰ろうか」
「うん」

弓道部の活動が終わった後、先ほどの約束通り私は梓と一緒に帰ることになった。だけど…きらきらと星が光る空の下にもっといたくて、私たちは少しだけ寄り道をすることにした

「わあ、すごく星が綺麗だねー…」
「そうだね。今日は特に綺麗に見える」
「…ね、梓。梓はあの星座が何か分かる?」
「うん?どれ?」

あれあれ、と指差せば梓はすかさず「ああ、あれはね…」なんてさっそく星座名だけでなくその由来や神話等までこと細かく説明してくれた。…流石、星月学園(ここ)の生徒はこのジャンルに詳しいなあ。宇宙科だと言っても、梓はその中でトップクラスの頭の良さなのだ。知識も落ちこぼれの私より何倍もたくさんあるだろう

「…ちょっと雛、ちゃんと聞いてる?」
「!う、うんっ。聞いてる聞いてる!」
「…本当に?」
「ほ、本当だよ!」

梓の説明分かりやすいから、つい聞き入っちゃって…と答えれば、梓は「…まぁ雛が星に興味を示してくれるのは良い傾向だよ」とにっこりと微笑み返してくれた。…そうだよ、ね。確かに星が好きでこの星月学園に入学してきたみんなとは違って、私はただ一樹会長を追いかけて星月学園(ここ)に入ったから…入学当初はあんまり星に興味もなかったし、星見会とか天体観測の課題も全部サボってた。

「…でもさ、やっぱり梓はすごいよね」
「え?」
「だって私みたいなバカにもすごく分かりやすく説明してくれちゃうし…勉強にしたって弓道にしたって、要領が良いよね」

私、宇宙科に入って梓と仲良くなってからずっとそう思ってたんだよ。梓はスゴいなって。と言葉を紡げば、急に梓の態度が変わった。悲しげでもある物憂げな表情。今まで感じていた梓の柔らかい雰囲気も…急に刺々しいものになってしまった。…?梓、もしかして怒って、る…?

「あ…あの梓…?」
「…雛は本当にスゴイと思うの?」
「え…?」
「努力や情熱に比例することなく、全てを要領良くこなしていける僕を…本当にスゴイと思う?」
「!…」
「…皆そんな僕を"天才だ"って言うよ。でもさ、結局1つのものに執着出来とない僕は…色がない僕は本当に"天才"と言えるのかな?」

自嘲じみた笑みを浮かべ、梓はくるりと私に背を向けた。…その梓の背中がすごく寂しそうなものに見えて。私は思わず梓の制服の先をクイッと引っ張り、頭をぽすっと梓の背中に寄り掛けた

「梓…それは違う、よ」
「え?」
「私は…確かに能力のある梓のこと素直に"スゴイ"とは思う。けど…梓が何かに執着出来ないとも色がないとも思えない」
「!雛…」
「だって梓は私と話してるくれる時、とても温かい色をするし…弓道に打ち込んでる時は、情熱的な色を帯びているように見える。それにたまに…今みたいな寂しい色にも変わる」

自分を見失ったりしないで。今の梓は梓が思っているような…そんなつまらない人間じゃないよ。だってこの学園で悩み苦しんでいた私に初めて手を差し伸べてくれたのは梓じゃない。私と一緒に笑ったり泣いたり…色々な感情を、分かち合ってくれたじゃない

「生きてるんだから…梓には色んな色があっていいはずだよ。それに…執着出来てないわけじゃないし、努力してないわけじゃない。だって梓はそうやってもがいてるもの」
「…雛…」
「私は何かに執着することを"やめた"けど…梓は違うよ」

まだ諦めることはないと思う。天才だって言われて…自分の器の大きさを見限るべきじゃないと思う。梓は今、ちゃんと弓道楽しめてるでしょ…?なんて尋ねれば、梓は小さく首をこくんと縦に振った。弓道でも何でも何かを楽しいと感じれるなら、それは一先ず安心だ。良かった。梓の反応に安堵した私は、梓からぱっと離れ距離をあけた。…が、次の瞬間には梓にパシッと手を引っ張られ距離はまた同じものに戻ってしまった

「あず、さ…?」
「…雛の前だからだよ」
「え?」
「雛の前だから、僕はこんなにたくさんの色に変われるんだよ。雛は…人の素直な感情を引き出す力がある」

「僕、雛と出会えて良かったよ」と少し寂しそうに微笑み、梓は繋いだ私の手にきゅっと力を込めた。…骨ばってゴツゴツした大きい、男の子の手。それが今はひどく小さく脆いもののように感じてしまう。何でだろう?このまま梓が遠いところに行ってしまうような…そんな虚無感を心が占める。私は梓に追い縋るように彼の手をぎゅうっと握りしめた

「…帰ろうか」
「……うん、」







空想レッテル


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