「……どうしようかな…」
「雛ちゃん?何してるのそんなところで」
「!ほ、誉先輩…」

弓道場の前でうろうろ立ち往生していた私は、さっそく誉先輩に見つかってしまった。うああ誰かが来ないうちにUターンしようと思ってたのに…!私のアホ!自分で自分の頭を殴る私に、誉先輩は少し不思議そうに首を傾げた

「…雛ちゃん、もしかして今日もアレをやりに来たのかな?」
「あ、ええと…そのつもり、だったんですけど…。誉先輩、もうすぐインターハイがありますよね…?」
「?うん、そうだね」
「なら部外者の私がいたら、やっぱ皆の邪魔になります、よね…?」
「あはは、そんなことないよ。みんな、君がくるのを楽しみにしてるんだ。一応場所は空いてるし、好きなだけやっていってよ」
「!!誉先輩…!」

もうあなたは神だ…!どんだけ優しいんですか本当。あ、ありがとうございます!と叫び頭を下げた私に、誉先輩は「そんな…お礼を言われることでもないよ。さぁ、どうぞ入って」と朗らかに微笑む。…誉先輩、本当素敵過ぎる。一樹会長も少しは見習ってほしいなあ…あの人、決して紳士ではないから









「………、」

パシッ、ぐっと弓を引き私が射た最後の矢は的の中心に真っ直ぐと刺さった。…良かった、まだ腕は衰えてなかったみたい。はぁ、と思わず安堵のため息をついた私に弓道部の面々からはパチパチと拍手と歓声があがる。…私がこうして練習場を邪魔してしまっているから、皆ずっと横で見ていたみたいだ。う、申し訳ない…

「む…相変わらず良い腕をしているな。6射中全てが的の中心を射るとは」
「本当もったいないですよね〜。雛、弓道部に入れば良かったのに」
「そうだよ!雛お前、今からでも遅くねーぞ?入っちまえよ」
「そうそう!そしたら女子部員が二人になるし!」
「う、うーん…」

隆文先輩と弥彦先輩の提案に私は思わず首をひねった。まぁ確かに中学時代は弓道部(しかも部長)だったから、腕に自信はあるけど…

「弓道は大好きだからこそ…私は全力でやりたいんですよね」
「?何だよそれ。ここじゃ本気でやれないってことか?」
「ち、違いますよ!私はただ…」

中学時代の経験からして…弓道はものすごい集中力がいるし、矢を射るだけでも当然体力は要ることは当然分かっている。だから"弓道ひとつ"に打ち込めないときっと結果は出せないし、それに弓道部のみんなの迷惑になるに決まってるのだ。…今の私には"何かに縛られること"が出来ないから。弓道部にも…もちろん生徒会にも、私は入れない

「?雛ちゃん?」

思わず言い淀んだ私に、隆文先輩と弥彦先輩と伸也くん…いわゆる三馬鹿トリオがなおも追及しようと口を開く。が、そんな時私の肩にある人物がぽんっと手を置いた

「先輩方…そろそろいいでしょう?雛はあくまで"気分を落ち着かせたい時"に弓をひきに来てるだけなんですから」
「!梓…」
「ほら、雛ももう十分やっただろ?あとはあそこで見学してなよ」
「えっ…いいの、かな?」
「大丈夫だと思うよ。…それに雛、今日は暇なんでしょ?」
「う、うん…」

今日は生徒会かなり忙しいらしいから「生徒会室には来なくていい」って一樹会長に言われてるし…。ま、元より一樹会長に会うために生徒会室に行くことなんてないしどうでもいいのだが。翼にも今日は断りを入られてるのは問題である。「翼のラボにも顔出せないしね…今日は暇なんだ」と梓に伝えれば、まだあんなところに入り浸ってるの?いつか爆発被害に巻き込まれても知らないから、と呆れたように笑われた。…確かにあんな密室で大きな爆発起こされたら死ぬかも

「…じゃあ皆、そろそろ練習に戻ろうか」
「「「はい!」」」
「む、木ノ瀬…お前もだぞ。早く練習に戻れ」
「はいはい分かってますよ。…じゃ雛、ここで僕が練習終わるまで待っててよ」
「え?」
「そしたら久しぶりに一緒に帰れるだろ?寮まで送ってあげるからさ」
「わ、わかった…ありがとう」

久しぶりに梓と一緒に帰れるんだ…嬉しいな。笑顔でお礼を言うと梓は「何で雛がありがとうなんて言うのさ。僕が一緒に帰りたいだけなのに」と微笑み、一発デコピンを喰らわせてきた。な、なにゆえ…!

「?ううっ…梓、じゃあ私あっちにいるから。頑張ってね」
「うん」

額を押さえながらすごすごと弓道場の隅にむかい、近くにいた誉先輩に私は「あのっ見学しててもいいですか?」と尋ねた。あ…もちろん邪魔にならないところで!と言葉を重ね隅を指差せば、誉先輩はふわりと柔らかな笑顔を見せる

「ふふっ、もちろんいいよ。雛ちゃんがいると、皆もやる気出るみたいだから」
「?そう、ですかね…?」
「そうだよ。特に木ノ瀬くんなんて良い例。君が彼に良い影響を与えてる」
「……それは、分かりませんけど。確かに最近の梓、調子良さそうですね」

最初に弓道部に入った時より…今の梓は色々な面で上達したと、私は思う。そりゃ弓道部に入ってから練習を積んできたからとかもあると思うけど…結果云々じゃなくて、弓道に対する姿勢が違うし…何よりとても楽しそうなんだ

「でもそれは…他の人も同じですよね」
「え?他の人?」
「はい。誉先輩は前より一本一本すごくいきいきして打つようになりましたし、龍之介先輩は何というか…以前に増して基本に忠実さを帯びた気がしますし。逆に隆文先輩と弥彦先輩は最近、途中で集中力が散漫になるというか…」
「……雛ちゃん、ただ見てるだけでそこまで分かるの?」
「!あ…」

ヤ、ヤバい何か偉そうなこと言っちゃった…?私の話が聞こえていたのか、目を丸くする弓道部の面々に「うああ週に2、3度だけ見学に来る分際で調子乗ってすんませんん!!」と土下座する。が、急に龍之介先輩にガシッと肩を掴まれてしまった。…あり?

「龍之介、先輩…?」
「お前…弓道部(うち)のマネージャーになれ!」
「……はい?」
「おおっそれ名案!」
「っていうか雛お前、そんなどこぞの漫画キャラみたいな分析能力あるなら早く言えよ!」
「雛さん!僕のも分析して下さいー!」
「雛ちゃん、これに氏名を書いてくれる?」
「え、あの皆さん…?」


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ヒロインは色々あって集団行動が出来ない子なので…それを知ってる梓がその場を何とかおさめたみたいです





空想レッテル


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