「んー…やっぱり颯斗先輩がいれる紅茶は美味しいですねー」
「そうですか?それなら良かったです」

翼のラボを出て、私は生徒会室のソファーに座ってゆったりとしていた。目の前のソファーには、にこやかな笑顔を浮かべた颯斗先輩が座っている。どうやら彼も今は休憩中らしい。…こんなことなら普段月子先輩にお茶を淹れさせるのやめればいいのに、なんて。まあ美味しさは問題じゃなく、颯斗先輩も一樹会長も翼も"月子先輩"にお茶を淹れてほしいだけなのだろう

「…にしても会長はあなたを呼び出しておいて、一体どこをほっつき歩いてるんでしょうね?」
「さぁ…まあいつものことだと割りきってますけどね」

用がないなら呼び出さないでほしいです全く。私は今日は図書室に行こうとしてたのに…

「(にしても、この生徒会は本当にちゃんと機能してるのだろうか…)」

翼はラボで発明中だし、月子先輩は今日は部活に行ってるし、一樹会長はよく分からんが不在だし…。実質今、生徒会の仕事をしてるのは颯斗先輩だけって…普通あり得ないよなあ。うーん…

「…私が生徒会に入れれば、それが良かったかなあ…」
「え?」
「!あっ……す、すみません!何でもないです!」

ヤバいヤバい。つい本音を口走ってしまった…。バッと両手で口元を押さえ、私はちろりと颯斗先輩に視線を移した。すると彼は「そういえば…まだ聞いてませんでしたね」とくすりと優しい笑みを浮かべていた

「?聞いてなかったって…何がですか?」
「あなたが生徒会に入らなかった理由です。僕達みたいに入学式早々、勧誘されることはなかったみたいですけど…あなたも会長にしつこく言われてたでしょう?」
「……」

確かに私は今まで何回も…というか今でも一樹会長には「生徒会入れよ!なっ?」としつこい勧誘を受けている。だがそれをいつも私は断り、今はあくまで"手伝い"としてだけ生徒会に参加しているのだ。…もちろん、私は月子先輩と違って部活にも委員会にも入ってない暇人で。放課後も色んな所をフラフラしてるだけだけど…

「なんというか…私はこういう組織的なというか、団体行動は苦手なんですよ」
「ふふっ、そういえば会長が"雛は目を離すと、ふらっとどこかに行っちゃうから心臓に悪い"とか言ってましたね」
「1人は楽ですからね。まぁ一樹会長が過保護なせいで、私としてはあまり自由ではいられませんけど」

放課後は必ず生徒会に顔を出せと言われてるし、帰りもいつも一樹会長に寮まで送ってもらう決まりになってるし…。…正直、私に自由な時間というものは存在しない

「でも…一番決定的なのは"一樹会長が私を生徒会に引き入れる未来を視ていなかったこと"ですかね」
「!雛さん、それは…」
「あはは、颯斗先輩ももちろん知っていたんでしょう?」

みんな知ってか知らずか、"私が星月学園にいるべき人間ではないこと"には触れてくれない。そう、一樹会長の星詠みでも…"私が存在する未来"というものは視えていなかったのだ。…じゃなかったら翼が入学式で"生徒会会計になれ"と指名を受けていた時に、隣にいた私にも指名が入っているはずだ

「一樹会長が私のことを気にかけて、生徒会に勧誘してくれるのは嬉しいですけど…仮にも"未来"を壊すわけにはいかないですもんね」

そう言って残りの紅茶を啜り、私はカップを机に置いた。すると、黙って話を聞いてくれていた颯斗先輩が「すみません…僕が変なことを聞いたばかりに」と申し訳なさそうに顔を歪めた。…別に颯斗先輩は悪くないのに。相変わらず律儀な人だなあと頭が下がった

「でも…雛さんは、強いですね」
「?強い、ですか…?」
「はい。そうやって周りの環境に適応しおうと努力して…そのうえ他人の気持ちを考慮するなんて。普通は出来ませんよ」
「!……颯斗、先輩」
「はい」
「それは……私の"良いところ"って言えますか?」

さっき桜士郎先輩に言われた"月子先輩になくて、私にあるもの"。それが本当にあるなら…今颯斗先輩が言ってくれる"その強さ"は、私の良いところと言えますか?それは…私が誇っていいものですか?思わず声を上擦らせてそう言った私に颯斗先輩は少しビックリした顔をしてから、ふわりと微笑み机の向こう側から私の手をきゅっと握ってくれた

「…もちろんですよ。それが"あなた"だから…だからみんな、あなたに惹かれるんですよ。強くて優しいあなたが…みんな大好きなんですよ」







空想レッテル


.
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -