「ははあん、なかなか面白い展開になってきたわけね」
「面白い…ですかね?私は少し心配ですけど…だって珠子さんが何か隠し事してるってことじゃないですか」
「朱ちゃん相変わらず真面目〜こういうのはスキャンダル的な話題として楽しめばいいんだよ」
「まあスキャンダルよね。あの子ったらいつの間に…」

分析室に私と縢くんがいるのはここ最近の珠子さんのおかしな動きについて、話すためだ。珠子さんに直接聞けばいい話なのだろうが、実際本人が内密にしたがっていることを聞き出すのも少し良心が痛む。から、ちょっと珠子さんのいないところで真相を探ろうということになり、分析室まで場所を移動したのだ

「えっと…まとめていくと、こういうことだよね?珠子さんは杉田勝郎という人物について調べていて…今度のオフに私と同行することで外出許可を得たのは、杉田勝郎のいる病院に赴くためだった」
「けど、珠子ちゃんは確かにコウちゃんに"私は大事な人に会いにくいくの"って言っていて、実際気合いを入れて普段しないオシャレをしていたと」
「…この場合、大事な人イコール杉田勝郎ってことでいいのかな…?」
「え〜それはなくね?だって杉田勝郎って死にかけのお爺ちゃんなわけよ?」
「大事な人っていうのは恋愛的な意味ばかりじゃないよ。もしかしたら身内の方だったりとか…」
「んー、それが珠子ちゃんの血縁者じゃないのは分かってるのよねえ。おまけに接点も経歴からして全くないわ。あの子6歳で潜在犯収容施設に入ってるし、それ以前も全く違う場所で暮らしてたわけだし…って、朱ちゃんこの件はここだけの秘密ね?職権乱用だってお姉さん怒られちゃう」
「あはは…大丈夫です分かってますから」

今更そこに注意をしようとは思わない。問題は、珠子さんが何をしようとしているかだ

「ってことはあ?家族でもない、直接の知り合いでもない、死にかけのお爺ちゃんと会うためにオシャレして今からいそいそしてるの珠子ちゃんは」
「あーら、男の趣味なんか人それぞれよ。もしかしたら年上が好みなのかもよあの子」
「マジ?八十五歳のおじさんを?引くわー珠子ちゃん趣味悪すぎ」
「…そういうこと、なんですかね…?知り合った経緯は分からないにしても、ただ目上の人と会うときにも女の人は化粧やオシャレぐらいするんじゃ…」
「それは朱ちゃん。だって相手はあの珠子ちゃんだよ?普通の女の子とは違うよ。なんたって珠子ちゃんなんだから」
「へっ…?」
「…あの子、潜在犯収容施設に入れられたのがまだ幼い時だったのもあって、かなり人間不信なところがあってねえ。元々外に出れない身なのもあるけど、あの子が自分から誰かに会いに行こうとすること自体大したことなのよ。一般人からしたら潜在犯に近付いて色相濁らせたくないから毛嫌いされてる、って自覚もあるし。私からしたらもう犯罪係数の悪化なんか気にしなくていい分、気楽に考えて生きてると思っちゃうけどねえ。へんに頭が回るのよあの子」
「そ、そうだったんですか…」
「普段はお喋りさんだから分かりにくいけどねえー。同じ潜在犯の俺だって珠子ちゃんに話してもらえるようになるのに1ヶ月以上かかったしなあー。…ほら、今も仕事の時に聞き込み調査する時とか全く働かないじゃん?珠子ちゃんって。てか外出るのさえ渋るし。まったく何で執行官になったんだか。外に時たま出かけられるっていう利点がいいのに」
「それも最近はだいぶ良くなったけどねえ。最初の頃なんか慎也くんにしかなつかなくて大変で…」
「えっ」
「ああ、それはそうらしいね。とっつぁんかなんかが言ってた」

こ、狡噛さんにしかって…それはまたどういう意味で…。そ、そういえば珠子さんと狡噛さんってただの仕事仲間っていうより、どことなく周りとは雰囲気が違うような気がしなくも…?

「まー、珠子ちゃんがそれだけ会うの楽しみにしてる時点でその人にはかなり気を許してるってことなわけ。オシャレどころか娯楽になんか全く関心ないあの珠子ちゃんが、だもん」
「あの子普段からすっぴん同然だもんねえ。いくら若いからってそれであのつるつるとした肌…ムカつくわ」
「けど髪の毛ボサボサで出社してきた時はドン引きだったわー。お前本当に女なの?つってね。そういやギノさんが珠子ちゃんを毛嫌いしてる原因にそれもあるんじゃねーかな」
「ああ、潔癖症な彼には考えられないでしょうね。自分の身なりを整えることも出来ないから自分の色相を管理出来ないんだとかよく怒鳴ってるし」
「それに"えーそんなこと今更言われても遅いですよー…私もう執行官だもん"なんてぬけぬけと返す珠子ちゃんも大概だわ。もう本当にバカ」
「……」

なんかだんだん話題がずれていってる気が…!けど、まあ確かにこれ以上何か有力な情報も解答も出てはこないだろう。それに…私は縢くん達と違って、監視官として珠子さんのその大事な予定に同行することになっている。おのずと真相は分かっていくことだろう。とりあえず一段落ついたと私はコーヒーを飲み、一息つく

「(…私、思っていた以上に知れていなかったんだな)」

宜野座さんには「執行官(やつら)を理解しようとするな。同じ人間だと思うな。それはおのずと犯罪係数の悪化…ひいては自分の身の崩壊に繋がる」とか言われたけれど。彼らは一緒に仕事をしている仲間でもあるのだ。…ちゃんと知っていきたい。けど、信頼関係が築けていなかったから今回こんな事態になった。…もっと理解出来ていれたなら。そんな後悔が心のなかでじわりじわりと渦巻く






戻る


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -