『執行官、猫田珠子。適正認証ユーザーです。セイフティを解除します』
「……」
『犯罪係数オーバー190、執行対象です。ノンリーサルパラライザー、慎重に照準を定め対象を無力化してください』

ー…潜在犯をドミネーターで撃つこの瞬間。この瞬間がたまらなく好きだ。たまらない高揚感がある。シビュラシステムに支配されたこの世界のなかで、犯罪係数を濁らせずに人を正当に殺せる唯一の手段がこれなのだ。…もちろん、深い意味はない。私は殺人衝動に駆られた殺人鬼ではない。けど…感じるのだ。ドミネーターの引きがねをひいた瞬間、心がどくりと震えるのを

「ー…は、ふっ…」

玩具を与えられた子どものように。ただ楽しくて、ただ自分が大きな力を持っているという事実が嬉しくて。裁く人間が誰でも構わない。ただ私はあなたより強い力を持っているんだと。…ドミネーターを撃ち自覚する度、私の色相は濁っていくのだろう

「…っと、相変わらず美味しいところ持ってくのな。一足遅かったか」
「!狡噛…」
「けど監視官の命令無視して勝手に行動すんのは感心しねえなあ」
「…それを狡噛が言うかね」
「ははっ、そりゃ返す言葉もないな」

言った台詞とは反対に何の悪びれもなく狡噛は小さく笑う。…なんというか、朱ちゃんが来てから彼は以前にも増してひどく人間らしくなった気がする。

「(…まあ元々他の人よりは人間的というか、熱いやつだったけども)」

獰猛な獣のような、ぎらぎらとした彼の瞳が好きだ。…というより、彼含め一係の人間全員が私は好き。何かしら使命や目的を抱えている人間の目の輝きほど綺麗なものはない。一係のみんなにはそれがある。だから好きだ。シビュラシステムの意のままに操られ、自ら行動しようとしない「善良な市民連中」には決してないものだ。生きる目的なしに、自発的に行動することなしに存在する人間ほど虚しいものはないと思う。シビュラシステムを信用していないという段階でない。私は社会や政治批判出来るほど賢くないし立場もない。けど、皆が皆シビュラシステムを使う人間の生気のない瞳には嫌悪感があるのだ

「おい、何ボーッとしてんだ。一旦戻るぞ」
「ん…ねえ、狡噛」
「なんだ」
「もう務めて五年で今更なんだけどさ、私って執行官に向いてると思う?」
「?…本当に今更だな」
「あっ、シビュラシステムに適正と判断されたんなら〜…とか言うのはなしにしよう!うん。それ私が一番嫌いな答えだから」

考えて動くのは苦手。追うべき獲物が何故その犯罪をおかして、被害者とはどんな関係があって、いつからどんな経緯で犯罪係数を濁らせたかなんて。私にはどうでもいい。何処にいるか察しがつけば、あとは追い掛けるだけ。周りのことなんか見向きもしないで、ただ獲物に食らいつく。…それしか興味のない私は、正直刑事という仕事には向いていないと思う。考えるにも頭が足りないし。シュビラシステムって、時々ミスもすると思うんだ。だって私に刑事の素質があるとか判定したんだもん。…何故シュビラシステムが私に執行官の適正を認めたのか、それはいまだに分からない。それでも、シュビラに導かれたこの猟犬としての仕事を自分の欲求のまま務めていたり、ドミネーターの力に盲信していたり…やっぱりどこか矛盾した心もちのまま今日この世界を生きている

「……向いてないんじゃないか」
「えっ?」
「お前みたいな頭の回らないバカに務まるほど刑事の仕事は甘くはねえ」
「…ぷっあははっ、そうかもねえ。なら次はもっと割に合う職業に就きたいなあ」
「割に合う、ねえ…物覚えの悪いお前が務まる仕事がこの世にあると思えん」
「なっ、それは言い過ぎだろ狡噛のあほ資格コンプ馬鹿!」
「なんだそれ」


ーーー
基本喧嘩してる二人






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