「よい、しょっ」

ダンボールを抱え直し、私はふらふらと前に進む。う…結構重いなあ。中身は一年生用の新品のジャージだけらしいのに、なんか…重い…!これ何着入ってるんだろう…

「大丈夫?俺、運ぼうか?」
「!あっ大地キャプテン…」
「だ、大地キャプテン?」
「?田中先輩がそう呼んだら喜ぶぞーって…」

「…ダメでしたか?」と恐る恐る尋ねれば、「あはは…いや、夏野さんが呼びやすいのでいいよ?大地キャプテン、か…なんかいいね」と朗らかな笑顔が返ってきた。…わあ、大地キャプテンってやっぱり優しいなあ。日向くんが体育館出禁にされた時、大地キャプテンに怒られたって聞いたけど…全然想像つかないなあ

「清水に聞いたんだけど、新しいジャージ届いたんでしょ?部室まで運ぶんだよね?俺運ぶよ」
「い、いえっ!これはマネージャーの仕事ですから大丈夫です。私が運びます…!」

そう大地キャプテンに頑なに断れば、「う〜ん……じゃあ、一緒に部室まで着いていくよ」という返答が返ってきた。え、ええ…?

「で、でも…」
「夏野さん、部室の鍵持ってるの?」
「!あっ…!」
「部室の鍵は俺持ってるし…、ついでに俺も部室まで着いてくよ。取りに行きたいものもあるし」

「だから、もしダンボール持つの疲れたら代わるから。遠慮せずに言ってくれていいよ」と私の隣を歩く大地キャプテン。…くっ、大地キャプテン良い人過ぎる…!どれだけ優しいの…!三年生なのにこんな一年女子に優しくしてくれるなんて…!「あ、ありがとうございます…!」と頭を下げ、私はダンボールを抱え直した

「ー…そういえば、夏野さん今週の土曜日の午前中暇?」
「土曜日の午前中……あ、日向くん達の試合ですか?」
「うん。一応マネージャーとしてやることもあるし、それに…日向の応援もしてやってほしいから。来れるなら来てほしいんだけど…」
「だ、大丈夫です!もちろん行きます!」

日向くんの入部がかかった試合だもん。絶対に応援に行きたい…!幸い女バレの練習も土曜日はないし。というか…

「…あ、あの大地キャプテン」
「ん?」
「何で、日向くんと影山くんの入部を拒否したんですか…?」
「えっ?」
「あ、いえ大地キャプテンの話を散々無視して勝手してた日向くんと影山くんは確かに悪いと思いますけど…。そのうえ教頭先生のカツラをふっ飛ばしたりして…」

ー…けど、それにしたって入部を拒否しなくても部活活動をやりながら日向くんと影山くんが仲良くなれればいいわけだし。何でそんなに早い段階でチームプレーを確立させたいんだろう…?そう言葉を慎重に選びつつ尋ねれば、大地キャプテンは少し沈黙した後に「……夏野さんは、日向と影山の中学の時の試合覚えてる?」と首を傾げた

「?あ、はい。覚えてます」
「…じゃあ、あの時の試合で見た感じ少し分かったと思うけどさ。影山のあの個人主義じゃ、チームの足を引っ張りかねない」
「!…」
「実際、中学の大会も影山の学校は途中で敗退した。…影山は中学生としてずば抜けた実力を持ってたはずなのに、いまいち結果は残せてないんだ」

個人、主義…。…確かに。一回戦のあの試合の時点で、影山くんはきつい言い方でチームメイトに指示してたっけ。確かスパイカーの子との連携もあまり上手くいってなかったような…

「…影山はあのままじゃダメだ。けど、中学の時と違って、影山には日向がいる」
「!それって…」
「うん。類い稀なるスピードと反射神経、加えてあのバネを持っていて…、けど中学では満足なトスを上げられるセッターに恵まれなかった日向。対して影山は高い技術を持ったセッターで、自分のトスを打てる速いスパイカーを求めてる」
「……」
「あいつら単体じゃ不完全だけど、才能を会わせたら…連携攻撃が使えたら。烏野は爆発的に進化する」

ー…元々は敵同士だった日向くんと、影山くんが。…そっか、二人とも互いに求めていたものが一致していたのかもしれない。より素晴らしいスパイカーとより素晴らしいセッターが連携攻撃が出来るようになれば…

「…大地キャプテンは、色々考えてるんですね。流石、部長ってスゴいですねそんなことまで見抜くなんて…」
「あはは…いや、そんなたいそうなこと考えてたわけじゃないよ。元々はただ喧嘩ばっかじゃチームプレー出来ないぞって意味で説教したら、こんなことになったんだから」

謙遜するように苦笑いを浮かべ、大地キャプテンは私からダンボールをひょいっと奪う。!え、えっ…?戸惑う私に大地キャプテンは「ほら、部室二階だからさ。ここからは俺が持つよ」なんて言って、トントンと階段を上がっていく。あっ…もう部室棟まで着いてたんだ。…う、確かにあんな重いダンボール箱を持って階段を登れる気はしないかも…大地キャプテンすみません

「ん、確かに女の子が持つにはちょっとだけ重いかもなあ。おかしいな、上下ジャージが四着入ってるだけなんだけど…」
「四着?…今年入る一年生は、四人ってことですか?」
「うん。昔はもっと部員数いたんだけど…最近は年々入部希望者も減ってるんだよね。あはは」
「……」

日向くんと影山くんの他に、あと一年生が二人。…どんな人たちなんだろう。一応同じ一年生だし、私も仲良くなれるといいな。…というか影山くんとも少しは仲良くなれるようにしなきゃなあ…。私は一人そっとため息をつき、大地キャプテンの後に続いて部室へと入った




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