ピーっ
『お願いします!!』
『お願いしぁース!!!』
「(日向くん…!)」
「おっ丁度始まりますよ!大地さんスガさん」
「おう」
「わー元気なのいるなあ」
「…?」

応援席から身を乗り出すように日向くん達を見つめる私の隣に、男の子が三人やってきた。?身長すごく大きいけど…もしかして高校生、かな?そう不思議に思えば、すぐに「でも大地さん、何で中坊の試合なんか…」という坊主頭の男の子の発言によって疑問は解決された

「王様を見に来たんだよ。コート上の王様」
「王様?」
「(…?王様?)」
「呼び名だよ。ほら、あそこの北川第一中学のセッターの影山のこと。鋭いトス回しに加えてブロックやサーブでも点を稼ぎ、抜群の身体能力とバレーセンスでコートに君臨する王様!来年戦うことになるかもだろ?だからさ」
「…へーっ…なんか感じ悪」
「まあただの噂だし名前の由来もよく知らないけどね」
「……」

そう、なんだ…コート上の、王様。ずいぶんスゴいあだ名?だなあ…。セッターっていうと…あの黒い髪のノッポの男の子が、影山くんで、"コート上の王様"。…そういえば女バレでも誰かそんな噂話してたようなしてないような…。そんな事を考えながら、コートを眺めていれば相手チームからのサーブが関向くんに向かうのが見えた

「コージー!」
「!せ、関向くんサーブカットお!」
「い゛っ…!」
「!やった上がった!イズミン頼む!」
「よっしゃ!」
「日向くん!」

キュッというシューズで床を踏みしめる音。泉くんの上げたトスを、日向くんがグッと膝を曲げて高く高くジャンプする。…身長が低い日向くんは、いつもいとも簡単に高く跳ぶ。天性の秀でた、足のバネ。…これを見る度に、私は心を奪われる。日向くんが、まるで別人のように見えて。つい胸の奥がちり、と熱くなる

「日向くん!いっ…」
バシッ!
「「!!?」」
「…あちゃ〜捕まったか」
「でもスゴい飛んだなあ〜」

…日向くんのあの高いジャンプからのスパイクが、ブロックされるなんて……。しかもブロックしたのは、影山くん…。…少なくとも、女バレで日向くん交えて試合をした時は日向くんのあの高さからのスパイクは止めれなかった。…高い高い壁。それが、日向くんの前に立ちはだかる

「〜っ…日向くん…!」
「…おーい、大丈夫かあ?」
「!えっ…」
「まあまだ一回捕まっただけだし、切り替え出来るだろ気にすんな!」
「?え、えと…」
「あはは、ごめんねいきなり。君が大声出してあのチーム応援してたみたいだから」

「北川第一中学相手に、よく頑張ってると思うよ。雪が丘中も」なんて励ましてくれたのは、さっき隣に来た高校生三人組だった。わ…私そんな大声出してたっけ…?は、恥ずかしいなあ…。かああっと赤らむ頬を手で押さえ「す、すみませんうるさくて…」と謝れば、坊主頭の男の子に「あはは、中学生は可愛いな」と笑われた

「か、可愛っ…!?」
「こら田中、あんま中学生いじめちゃダメだぞ」
「スガさん、いじめてなんかないっスよ!」
「君は、あのチームのマネージャーか何か?」
「い、いえっ。日向く…今のアタッカーの子と友達で…」
「ああ、そうなんだ」
「…でも、日向くんとはいつも練習を一緒にしたりもしてたから。今のブロックされたのに、ちょっと動揺しちゃって…」
「んー…雪が丘中にちゃんとしたセッターがいたら、あの一番ももっと活きるんだろうけどね」
「…!」

…セッター。確かに、もっと良いセッターがいたならば日向くんに良いパスを送れるし、日向くんの力も生かせる。…セッターさえいれば…

「……っ」

こちらの攻撃を阻む、高いブロック。こちらのコートに打ち込まれる、強いスパイク。サーブカットを取りこぼしてしまう、こちらの守備。影山くんの鋭いトスに、翻弄されるこちらのブロッカー。ー…開いていく点差。次々と取られるセット。…こんな、一方的な流れになるなんて

「(…でも…)」

コートの四方八方に走り回りカバーに回る日向くんは、まだ勝負をあきらめていない。日向くんの目は、まだボールを追ってる。…なら、私も諦めたくない。精一杯声を張り上げて、応援したい。私はスゥーッと息を吸い込み、お腹に力をいれて声を出した

「っ…雪が丘中!ファイトー!!」
「「!」」
「おおっ…」
「日向くん!頑張って!」

「…おいおい、どうせ北川第一中学マッチポイントだぜ?」「何あの子熱ーい」「逆転とか無理なんだからさあ」なんて声が、応援席にいる私を取り囲む。…そんなの、関係ない。最後まで。最後まで、まだ…!


「!?あっ…」
「!」

ー…それは3セットめ。手のマッチポイントで迎えた局面で起こった。泉くんの上げたトスは、日向くんの立つ位置とは逆。ネットの右側にすっぽ抜けていってしまった。ー…が、次の瞬間。左にいたはずの、日向くんがボールのほう…ネットの右側へと移動し、スパイクを打つ体制で素早く飛んでいた。…相手のチームの影山くんがマークを見逃すほどの、一瞬の瞬発力

「ー…日向くん!」
「っ」

ドガッという力強いスパイクの後、ボールは相手コートに撃ち込まれた。がー…

「……今のスパイク、アウト…?」

ピピーッという主審の笛の音。…そう、試合は終わったのだ。こちらのチームの最後のスパイクは、ラインから少しだけ離れていた。…3ー0で雪が丘中のストレート負け

「…っ、ううっ…」
「!?ちょ、お前が泣くとこじゃねーだろ?」
「ひっ…ひっく…」
「スガさん大地さんん!女子を泣き止ますにはどうしたらいいんスか?」
「田中まずお前が落ち着いて!」
「え、えっと大丈夫?これ、俺のタオル使いな?」
「ふ、ぇ…ありがどう゛ございまず…」

ー…悔しい。日向くんの初めての公式戦が、こんな形で終わってしまって。一回戦で負けてしまったこともそうだけど。なにより、負けた要因が、誰一人として日向くんの力を引き出してあげられなかったことだってのが。…日向くんの頑張ってきた三年間。それを100パーセント生かしたプレイをさせてあげたかった。…ぽろぽろと溢れ出る涙は止まりそうになくて。次いで滲む視界のなかで朧気に見えた日向くんは、今まで見たことのないような、辛く哀しげな表情をしていた。



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苦い苦い思い出



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