「…なかなか上手く噛み合わないね」
「…やっぱり、いきなりプレイスタイルを変えてくのって大変だとは思いますけど…」

ましてやクイックなんて。中学時代、セッターだった私や泉くんは一度も日向くんにそんなトスを上げたこともないし。…さっき「打ち抜けないなら、かわすぞ。お前のありったけの運動能力と反射神経で俺のトスを打て」なんて日向くんに伝えていた影山くんだけど、どうにも上手くいかない。…四失点目。これで四度も影山くんのトスがスパイカーの日向くんを置いてってる

「…やっぱ、影山くんでも初めは上手くいかないんですね」
「?えっ?」

ぽろっと出た呟きに、隣で試合を観戦していた菅原先輩がいち早く反応する。う、わ…!や、やだつい口に出てた…!「影山でも、って?」と首を傾げる菅原先輩に、私は「え、えっと…」と視線をそらした

「……わ、私雪が丘中の女バレの正セッターだったんです」
「!夏野さんが?」
「はい。だから、いつも日向くんの練習は私がトスを上げてて…。でも、私はあんまり上手くもなくて、日向くんのスパイク練習に役に立てない場面もいっぱいあって。日向くんが上手くいかないのは私のトスが下手だからなんだろうなって…」
「……」
「…だけど、影山くんみたいに優れたセッターでもああやって苦戦するんだなって。ちょっと驚いた、っていうか…」

それと同時に、少し安心してしまった。影山くんでもいきなり日向くんに合わせるのは難しいんだって。…まあ、これから日向くんと影山くんは幾度となくコンビプレーをしてくんだろうけど。やっぱり最初は、って

「……影山くんて上手ですよね」
「…そうだね。優れた選手だと思うよ」
「…私、すごく羨ましいです。曲がりなりにも同じセッターやってた人間として、私も影山くんみたいに上手ければって思うし。…私がもっと上手くて、それで男の子だったら。日向くんの隣に立っていたのは私だったのかも…って」
「……」
「影山くんが、羨ましいです」

いくら頑張っても、私が日向くんと同じコートに立てることはない。…日向くんの力を生かせる影山くんのような存在を待望しつつも、私はどこか嫉妬してしまってる。そう赤裸々に言葉を紡げば、菅原先輩は神妙な顔をして私を見つめる。そしてトンと軽く私の手に自分の手をあて「ー…俺もだよ」と私にしか聞こえないような声で呟き、コートのほうに行ってしまった。?い、今なんて…

「ー……影山」
「!菅原さん…」
「それじゃあ、中学の時と同じだよ」
「…?日向は機動力に優れてます。反射スピードついでにバネもある。慣れれば速い攻撃だって…」
「…日向のすばしっこさっていう武器、お前のトスが殺しちゃってるんじゃないの?」
「!えっ…」
「日向には技術も経験もない。中学でお前にギリギリ合わせてくれてた優秀な選手とは違う。お前の腕があったら、なんつーか……もっと日向の持ち味っていうか才能っていうか、そういうのもっとこう…えーっと…なんか上手いこと使ってやれんじゃないのかな」
「…上手い、こと…」
「俺もお前と同じセッターだから、去年の試合見てびびったよ。ずば抜けたボールコントロール!そんで何より、敵ブロックの動きを冷静に極める目と判断力!…俺には全部ないものだ」
「(!菅原先輩…)」
「…技術もあってやる気もありすぎるってくらいあって、何より周りのを見る優れた目を持ってるお前に、仲間のことが見えないはずがない!」

ー…同じセッターとして、影山くんをよく見ていた菅原先輩だから言える言葉。…もしかしたらさっきの呟きは、菅原先輩が私と同じように影山くんに何かしらの気持ちを抱いていたってことなのかもしれない。憧れと、嫉妬

「(…私、ただ影山くんに嫉妬してるだけじゃダメだ)」

日向くんや烏野のために何ができるか。それを考えていかなくちゃ。私は軽く自分の頬をぺちっと叩く。コートのなかでは、菅原先輩の言葉によって決意に満ちた表情の影山くんと、よく分からないと首を傾げる日向くんがいた

「…日向、」
「ん?」
「俺は、お前の運動能力が羨ましい」
「はっ…」
「だから能力の持ち腐れのお前が腹立たしい」
「はああっ!?」
「だから…お前の能力は俺が全部使ってみせる。お前の一番のスピード、一番のジャンプで跳べ。ボールは…俺が持って行く!」
「!」


−−−−−−
そして二巻の内容へ

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