中学の時。日向くんは練習相手も場所もないからと、1人でよく女バレの練習に参加していた。放課後、女子バレー部のなかに一人だけ男子がいて練習してる。それだけで日向くんは学校中から知られた存在になった。かくいう私も、その一件で知り合ったくちだ

『へえー日向くんスパイカー志望なんだ。じゃあ蜜柑が練習付き合ってあげれば?』
『えっ?寺ちゃん!?』
『蜜柑はうちの正セッターじゃん。蜜柑が適任だよ』
『!えっ夏野さんトス上げてくれんの!?』
『ひ、日向くん…!い、いや別にいいけど本当に私でいいの?私下手だからポーンって山なりにしかトス上げれないよ?方向もあべこべだし』
『全っ然いいよ!練習手伝ってくれるだけで、おれすっごい嬉しいし!』

…日向くんはよくスパイクの練習をしたいと言っていて。弱小ながら雪が丘中女バレの正セッターだった私は、ある時期から個人的によく日向くんの練習に付き合っていた。…最初は、ただ練習に付き合ってあげるっていう意識。だけど、それもだんだんと変わっていった

『(…何て楽しそうにバレーボールをするんだろう)』

私なんかのへぼいトスでも、日向くんは目をキラキラとさせてスパイクをそりゃもう気持ち良さそうに打ってくれる。…それを見てるだけで、私自身も楽しくなってきて。日向くんの練習に役に立てるよう、もっと良いトスを上げれるようになりたいなって。女バレの練習にも以前より一生懸命取り組むようになっていった。全ては、日向くんのバレーボールを楽しむ姿勢から。私は日向くんのおかげでー…


**




「チャンスボール!」

レシーバーからふわりとボールが上がる。チャンスだ。影山くんはあれを田中先輩と日向くん、どっちに上げて…

「田中さ…」
「影山あっ!」
「!!」
「いるぞ!!!」
「っ、… 」

…田中先輩のほうに上げようとしていたのを、日向くんの声に反応して、影山くんは上半身を捻らせトスを日向くんのほうに上げる。そして、その上がったボールを日向くんがドンピシャといかないまでも、ギリギリでスパイクを決める。結果、ボールはてんてん…と相手コートネット際に落ち大地キャプテンのレシーブを受けずにすんだ

「っ、お、お前何をいきなり…!」
「でも、ちゃんとボール来た!」
「はっ…」
「中学のことなんて知らねえ!おれにとってはどんなトスだって有難あ〜いトスなんだ!おれはどこにだって跳ぶ!どんなボールだって打つ!だからー…おれにトス、持って来い!」
「!」
「…日向くん…」

…そうだ、日向くんはそういう人だ。どんなトスでも、いつも全力で真っ正面から打ってくれる。…応えて、くれるんだ

「っ…」

…あのコートに立てているのが私なら。もっと日向くんの近くにいけたのに。やっぱり、中学の時とはもう違う。日向くんは男の子の仲間がいて、彼らとバレーボールをプレイしているのだから。中学のように私が日向くんに直接ボールを渡すことももうない。…それが、少し寂しくて悔しい。私はぎゅうっとジャージの裾を握りしめた。…影山くんが、羨ましい

「お、おいお前ら速攻(クイック)使えんのか!」
「田中さん…いや、全然?おれポォーンて高く山なりに上がるトスしか打ったことないです」
「で、でも今やったろ?それにお前中学の大会ん時、素人セッターのミスったトス打ってたろ!ああいう…」
「えっ?夏野さんも前にそのプレーのこと言ってましたけど…おれ、どうやったか覚えてないです」
「!〜…」
「でもおれ、どんなトスでも打ちますよ!…影山、打つからな!」
「……、合わせたこともないのにクイックなんてまだ無理だろ」
「!?なんだお前変!そんな弱気なの気持ち悪い変!」
「…うっせーな」
「?影山くん…?」

ー…あれだけ一瞬の反応で日向くんに正確なトスを上げられたのだから、クイックを試してみる価値はありそうだけれど…。まだ、影山くんに迷いみたいなものがあるんだろうか。歯切れの悪い返しをする影山くんを心配する私たちを余所に、またまた月島くんが「ほらほら、王様らしくないんじゃな〜い?なんて皮肉じみた笑みを浮かべていた

「月島お前なあ…!い、今に打ち抜いてやるから待ってろ!!」
「あはは、まーたそんなムキになっちゃってさあ。君は、何でもがむしゃらにやればいいってもんじゃないでしょ?人には向き不向きがあるんだからさ」
「!ま、また日向くんバカにするようなこと…!」
「うああ夏野さんまあまあ落ち着いて…」

「抑えて抑えて」と苦笑いを浮かべ、菅原先輩が私の頭をぽんぽんと撫でる。だ、だって月島くんがまた性懲りもなく…!

「…確かに中学ん時も今も、おれは跳んでも跳んでもブロックに止められてばっかだ」
「(!日向くん…)」
「だけどおれ、小さな巨人みたいになりたいって思っちゃったんだよ。だから、不利とか不向きとか関係ないんだ。この身体で戦って、勝って勝って…もっといっぱいコートにいたい!」
「…!」

ー…小さな巨人のように。そう願い続け、日向くんは今までどんな状況にいてもバレーボールに一生懸命打ち込んできた。…そうだ、何も心配することもない。私は、そんな日向くんのバレーボールスタイルが好きなのだから。日向くんはいつだって、諦めずにボールを追いかけてきた。…なら、私もただ信じたい。昔から見てきた彼の姿を

「だから、その方法がないんでしょ。精神論じゃないんだって。気持ちで身長差が埋まんの?リベロになるなら話は別だけど」
「…日向(スパイカー)の前の壁を切り開く、その為の"セッター"だ」
「!」
「(影山くん…)」
「必ず、勝つ」

そう月島くんに真っ正面から言い放ったのはー…なんと今まで黙っていた影山くんだった。…何か、影山くんにも事情があるのかもしれない。今のプレイに迷いがあるのかもしれない。。けど、きっと最後には日向くんや影山くんが楽しく終えられる試合であってほしい。私はそうささやかな願いを込め、日向くんー…そして影山くんの大きな背中をじっと見つめた



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