「っ…ちょ、デビト…!痛いよ離してっ…」
「……」

デビトに腕を力強く掴まれグイグイと引っ張られたまま、私は声を張り上げる。が、それにデビトは応じてはくれず。人影のない廊下の隅にまで行き、やっと立ち止まってくれた

「デビト離し…」
「何でジョーリィのジジィなんかと一緒にいたんだよ」
「!っ…」

ダンッと壁にそのまま押し付けられ、私はつい息を飲んだ。ギリギリと掴まれた腕に眉をひそめる。目を鋭くつり上げるデビトを真っ正面から見れなくて、私は黙って俯いた

「……」
「…黙りかよ」
「だ…だって…」
「まさか俺の質問が聞き取れなかったわけじゃねーよな?」
「き、聞こえてたよ!聞こえた、けど…」
「ー…俺は前からお前にジョーリィに近付くなって言い聞かせてきたはずだ。それをお前は…」
「…わ、私だって長居したくなかったよ。用事をすませたらすぐに部屋を出ようって…」

…何で私、デビトにこんなへこへことしてんだろ。言い訳をグダグダ並べて。そう冷静に考えもしたが、やっぱりこう怒り狂ったデビトを私が止められるわけもなく。金貨のカードのみんなと同じ、私だってもちろんデビトに上手く対応しきれない時もあって。少しの沈黙の末に、私の口から出たのは「…ごめん、」という謝罪の言葉だった

「チッ…」

短い舌打ちの後デビトは私から手を離し、忌々しげに頭をくしゃりと掻いた。私は押し付けられた状態から解放されたことで、無様にもズルズルと壁を伝って座り込んでしまった

「……」

…今のデビトは、久しぶりにすごく怖かった。怖かった、けど…



『ー…ふざけんな!ポプリにまでこんなことさせる必要あんのかよ!!』
『デビト…』
『フン、実験のためだ。仕方あるまい?』
『そんな馬鹿馬鹿しいことにポプリを巻き込んでじゃねーって言ってんだ!』



「……デビト、」
「…んだよ」
「ごめんね、ありがとう」
「……何でお礼なんかすんだよバカじゃねーの」
「…だってデビト、心配してくれたんでしょ…?」

…デビトが私とジョーリィを引き合わせたくない理由。それはただデビトがジョーリィを嫌ってるからとかじゃなく。私が…もう二度と同じ過ちをされないために。私が…もうジョーリィの実験の犠牲になんかにならないために。デビトはただ…

「…あー胸糞悪ィ」

苛々した様子のデビトをその場で体育座りしたまま見上げる。…デビトだけじゃない。私はルカやパーチェにもなるべくジョーリィに近付かないよう言われてて。…三人とも、私を心配してくれてるんだと思う。…今のことルカに知れたら、きっとルカはすごく泣きそうな表情になるだろうなあ。パーチェは少しつらそうに笑うんだろうなあ。…嫌だな、それが一番悲しい

「…デビト、」
「あ?」
「私さ、もう子どもじゃないんだ」
「…はあ?」
「子どもじゃないから、大丈夫だよ。何か危ない目に遭っても、ちゃんと対応出来る」

「だから…昔みたいにはならないよ?」

すくっと立ち上がり、私はデビトの元に駆け寄った。そして大きなその手をスッと掬い取り、ぎゅっと握りしめた。昔みたいに…ジョーリィにアルカナ能力を引き出す為の実験をさせられた時みたいには、いかない。カードとの血の契約。…あいにく私はカードに選ばれはしなかったけど。その実験の犠牲になってアルカナファミリアに入ることになったデビトは、きっと私がジョーリィに無理矢理実験台にされた時に何か感じたんだろう



『ー…ポプリはパーパが偶然ファミリーの館の料理人に雇っただけで、何の関係もねーだろ!!カードとの契約をコイツにまでさせて何の意味があんだよ!ジョーリィてめえ、ポプリの人生まで無茶苦茶にする気か!?ふざけんな!』



あの時のデビトの表情は忘れられない。顔を真っ赤にさせて怒ってはいたけど、なんだか何かを思い出して悲しんでいるような苦しんでいるような、そんな表情をして…ジョーリィに掴みかからんばかりだった。…結果として、私はカードに選ばれはしなかったから、私自身はジョーリィを今恨んでもいない。当時もいきなり採血されて何事かと思ったくらいで。特に、何も感じてはいない。

「(…だけど、)」

だけど、今デビトが抱えてる闇はアルカナ能力によるもの。隠者のカードに、彼は苦しめられている。ー…それを思うと、私があの時ジョーリィにされようとしていたことは本当に取り返しのつかないことで。助け出してくれたデビトにはすごく感謝してるし、それに…庇ってくれて、私はすごく嬉しかったんだ

「…デビトって、たまにカッコイイよね」
「ハ、俺にそんな口きけるのはお前くらいだっつーの」
「そうかな?」
「俺はいつもカッコイイんだ。シニョリーナの喜ばし方を知ってるからな」
「…そういうのとは少し違うと思うけど」
「それより。お前も女ならもっと上手くやれよ、」
「へっ?」
「へそ曲げたオトコの機嫌の取り方」
「!んなっ…」

片手は手を繋げたまま、空いた方の手で私の顎を掬いとりデビトは妖艶な笑みを浮かべる。…っ、近い近い!あわあわと慌てる私を見て、さらに面白そうに笑うデビトはいつものデビトで。…なんとなく、安心した

「デッ…デビトのバカ!エロ魔神!チャラ男!」
「ハ、ガキかよ」



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夢主のお嬢さんは料理人に雇われてすぐにジョーリィの実験台にされていますが、カードに選ばれず。ジョーリィ曰く、興味本意の実験だったそうです



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