「…やっぱ誰か荷物持ちに連れて来れば良かったかなあ」

ため息をついたところでもう遅いのだが。私は両手いっぱいに食材の袋をさげ、市場からとぼとぼと歩いていた。…確かに私は館の専属の料理人ではあるけれど。いくら何でもこの食材の量はどうか。多すぎる

「(…でもこれを3日を食い尽くすバカがいるからなあ)」

主に食欲魔神のパーチェのことを言っているのだが。あいつは一度の食事でラザニアを10皿以上は軽く食べるバカだ。館にはアルカナファミリアの皆が大勢いることを考慮しても、いくら食材を買っても足りないぐらいなのである

「あーもう、女のか弱い腕じゃ持ちきれないってば…」
「手伝いましょうか?」
「!へっ…?」

視線を上げれば、目の前には端正な顔立ちをした長身の男性。…あいにく顔見知りでは、ない。この狭いレガーロ島で見たことのないとなると…もしかしたら観光客なのかもしれない。が、私自身あまりアルカナファミリアの館から出ないから真偽は分からない

「チャオ、綺麗なおねえさん。良ければ手伝いますよ?重いでしょうその荷物」
「あ…あの、レガーロ島に住んでる方、ですか?」
「いえ、昔住んでいた者です。今は休みを利用して帰郷してきたんですよ」
「ああ…なるほど」

道理で。レガーロ島の男は大抵こんな風に積極的で情熱的な男が多い。…まあデビトに言わせれば、男なら積極的でなんぼというものらしいが。私はいまいちレガーロ男が苦手である。グイグイ来られても引いてしまうのだ

「あ…あの、せっかくですが結構です。お気持ちだけもらっておきます」
「ええ?遠慮することないよ。おねえさんの細くて白い腕が可哀想だ。家はどこ?運ぶよ」
「ほ、本当に大丈夫ですから…」

ー…アルカナファミリアの館で勤めてます、なんて他人には言えない。もしかしたらファミリーの皆に迷惑がかかるかもしれないから。それに館までファミリーじゃないこの男性を連れて行くことも出来ない

「じゃあ、少し休憩したら?そこのリストランテでリモーネ・ソーダでも一緒に飲もうよ」
「え、えっと…」
「そこのお前!いい加減にしろよな」
「!リベルタ…」
「ポプリは嫌がってるだろ!」

リベルタはサッとさりげなく私と男性との間に割り込み、男性をじろっと睨み付けた。それに男はかなり気分を害し、「なんだこのガキ突然」なんて眉をひそめる

「ガキじゃねーよ!俺はリベルタ、アルカナファミリア諜報部所属リベルタだ!」
「!アルカナファミリアの…?」
「ちょ、ちょっとリベルタ…!」

そんな風に公言しなくても…!と焦るも「?でもこう言っとけば相手も下手に手出してこないだろ?」なんて、ケロッとリベルタに返された。そ、それはそうだけど…

「チッ…なんだよ、アルカナファミリアの関係者だったのかよ。また面倒くさい女捕まえちまったぜ」
「!?きゃっ…」
「!ポプリ!」

舌打ちを1つし男性は私をドンと突飛ばし、その場から走り去る。私はもちろんそんなことされると思っていなかったため、食材の袋と一緒に地面にドサッと倒れ込む。うっ…痛い…。派手に転倒した私にリベルタが「だ、大丈夫か!?」と駆け寄り、手を貸してくれる

「っ…お前!ポプリに何やってくれてんだよ!」
「ハ、そんなん知るかよ。じゃああば…」
「止まれ。止まらないとお前の首を跳ねることになる」
「!?なっ…」

カチャッ。男性の首もとに鋼色の刀が突き付けられる。…レガーロ島じゃ他には見かけないジャッポネの刀。日本刀。もちろんそれを使えるのはレガーロ島じゃ一人しかいない

「「ー…ノヴァ!」」
「女に手をあげるなんて男の風上にも置けないな。…お前の身柄は僕らアルカナファミリアのほうで預からせてもらう」
「あ、あそこに巡回途中の棍棒のセリエのやつがいるじゃん!ちょうどいいや、あいつらに館に連れて行ってもらおうぜ」
「ああ、そうだな」
「おーい!ちょっといいかー!」

リベルタが棍棒のセリエの青年3人に声をかけ、ノヴァが男性に刀を突き付けたまま「連れて行ってくれ」と引き渡した。私はその一連の動きをぽかーんと見つめる

「…おい、何を固まっている」
「大丈夫か?もしかして怪我したりしたか?」
「…う、ううん。ついビックリして…」

外ではこういうこともあるんだね…と呟けば、「こんなことが頻繁に起こってたまるか。お前の運が悪かっただけだ」とノヴァにため息をつかれた。そんなノヴァに「おいっ!ポプリは被害者だぞ!言い方ってもんを考えろよ。可哀想じゃん」とリベルタがかみつき、「ふん…まあ元々は、あんな男を連絡船でレガーロ島に運んできた諜報部に問題があるがな」「んだと!?それならあんな男を野放しにしてた聖杯の警備隊長様はどうなんだよノヴァ!」なんて喧嘩が始まる

「や、やめてよ二人とも!」
「大体、ポプリ。お前が今回の件は一番悪いんだぞ」
「!えっ…」
「買い出しならファミリーの誰かを連れて行け。お前は普段から館の厨房にしか出入りしてない分外出しないから、警戒心もないし平気で人通りのない路地裏を通ったりする」
「だ、だって近道だったし…」
「ポプリ、ここは特に治安が多い区域なんだぜ?知らなかったのか?」
「えっ、レガーロ島にそんなところがあるの…?」
「…はあ、」

「お前は世間を知らな過ぎる…」ともう何度めかのため息をつき、ノヴァは私の服についた土埃なんかを払ってくれた。(年下で、しかも身長も全然私より低いのに、まるでノヴァはお母さんのようである)

「ありがとう、ノヴァ」
「…今度からは僕を連れて行け」
「!へっ?」
「お前を1人にしたら後々やれナンパだのやれ迷子だのと仕事が増えそうだ。それなら僕が一緒に買い出しに付き合ってやる」
「ノヴァ…」
「なら俺も!ポプリの買い出しに付き合うよ!こーんな重い荷物、1人じゃ持てないだろ?」

「そんかわり、美味しい食事期待してるからなー!」とニカッと笑い、リベルタは食材の袋を手に前を歩いていく。そしてその隣を「それにしても…こんなに食材を買わせるほど、パーチェの食欲は計り知れないというわけだな」とこれまた食材の袋を手にしたノヴァが歩く

「……」
「…おい、何してる。早く館に帰るぞ」
「ポプリー早く早く!」
「…うんっ」

ー…私、アルカナファミリアの皆と出会えて良かった。こんなに素敵で優しい人達と出会えて。私はリベルタとノヴァの元に駆け寄り、「グラッツェ」とにっこりと微笑んだ。この幸せと共に




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