色とりどりの柄が描かれたカードをパラパラと手に取り、へえ〜!と目を輝かせる

「これがタロッコかあ。私初めて見た!綺麗な絵柄〜」
「ポプリ、貴重なものなんですから…!もっと丁寧に扱ってください…!」
「えー別にいいじゃん。一度アッシュが盗んでいったくらいなんだから。多少雑に扱ったって」
「……お前は昔のこと掘り返すなよこのドS女。ファミリーに仮に入った身としては気まずいだろーが…」
「えっ?あはは、アッシュ可愛いーそんなこと気にしてるなんて」
「 う、うっせ」
「大丈夫だよアッシュ、ルカが不甲斐ないからタロッコとフェリチータお嬢様盗まれたわけだし」
「…ポプリ…あなたも私の昔の失態の傷を抉るような発言はやめてください…」
「だって本当の話じゃない」

アッシュのぴょんぴょんとはねた銀髪を撫でながらそう笑えば、アッシュに「さ、触んな」と手を払いのけられてしまった
えー…人間の姿でもトラの姿でも、アッシュの髪の毛や毛並みは気持ちいいから、ずっと撫でていたくなっちゃうのに…

「からかってくんな、この年増女。可愛いなんて言われて喜ぶ男いるわけねーだろ」
「と、年増ってなんだ!アッシュより少し年上なだけでしょーが!」
「自分は俺を可愛いとか子供扱いしてるくせに、自分が年増だって言われたらそれかよ」
「年増でなく歳上のお姉さんとお呼び」
「うっせー年増」
「ちょ、2人とも落ち着いてくださいよ…」
「あはは、ポプリとアッシュってすっかり喧嘩するほど仲が良いって感じになっちゃったねー!デビト」
「……ア?んなの知るかヨ」
「!ちょ、ちょっとパーチェ…!それは言ったらダメですって…!」
「へっ?」
「?なんか私のこと呼んだ?」

アッシュとの口喧嘩を中断し、ルカパーチェデビトの方を向けば、ルカに「ああ…、誰も彼も鈍感だと、歳上の私が苦労することに…」とため息をつかれた
?鈍感?誰が?…というか、何故にデビトは不機嫌そうに舌打ちしてんの何なの…
そんな妙に気まずげな空気を打ち破ったのはパーチェの「タロッコってのはアッシュの遠いご先祖さまが作ったんだっけ?」なんて無邪気な疑問だった

「ん?あーまあな」
「…見た感じは普通のペラペラのカードなのに、これ一枚一枚にそんな不思議な力があるんだね…」
「あっそっか。ポプリは初めて見るんだもんね。俺もタロッコと契約する時それ思ったよ」
「このカードそれぞれにタロッコの自我みたいなのが宿ってて、血の契約を交わせばアルカナ能力が宿るって…つまりはそういうことだよね?」
「そうですね。そのタロッコの精神とは人によって相性もありますが」
「…そっか…」

デビトなんかは隠者のタロッコと相性悪くて、日常生活まで支障きたされてるもんね…。伏し目がちにデビトのことをちらりと見れば、「ー…ンだよ、余計な気ィ回してんじゃねェ。俺は、大丈夫だから」とデビトに頭をくしゃりと撫でられた。…それなら、いいけど…

「……チッ、本当に振り回してくれるゼ。ポプリは」
「?デビト、何か言った?」
「別にィ」
「そう?」
「でもさー、俺こんなにまだ契約者のいないタロッコがいるとは思わなかったなー」
「俺も盗むまでは予想してなかったな。てっきりファミリー全員がタロッコと契約してんのかと…」
「ハハッそしたらアルカナファミリアは無敵だな」
「そんなに適合者がホイホイ現れればパーパも苦労しなかったんでしょうけど…」

そう、契約者のいないタロッコの分の代償はパーパへ負担がかかっていた。だからそんなパーパを救うためにジョーリィが実験を重ねたり、ホムンクロスをつくったわけで…
けど、今はお嬢様が"運命の輪"の力を使ってそれも解決したけど。改めてカードを一枚一枚そっとテーブルに並べてみる

「…残ってるカードは8枚。女教皇と女帝と教皇と戦車と刑死者と悪魔と星と太陽のカード、かあ」
「ポプリの言う通り、結構いっぱいあるんだねー」
「この世界のどこかにこのタロッコたちと契約出来る人間が8人いるってことか…」
「ハ、アッシュお前案外ロマンチストなんだナァ?そいつら探す旅でもやるか?」
「う、うっせ!」
「ほらもう、やめてください。今度はデビトとアッシュが喧嘩ですか…!」
「……」

ぎゃあぎゃあ騒ぐデビトとアッシュの間にルカが入り、便乗して面白がったパーチェも入り、その場の騒ぎはますます煩くなった気がする…
私はというとそんな彼らをよそに、タロッコを一枚一枚じっくりと眺めていた。ー…このカード達にそれぞれ異なったアルカナ能力が宿っているのか…。それに、適合者が8人。パーパの血縁者のが契約者になりやすいと聞いたけど…

「オイ、どうした珍しく大人しいな」
「!デビト、……もうアッシュからかうのは飽きたの?」
「ハハッご名答。飽きた。が、今はパーチェとアッシュの言い合いをルカちゃんが止めてる」

騒ぎから一人抜け出してきたデビトは、そのまま私の隣に腰を下ろす。私はカードを並べたテーブルに頬杖をつき、「…ねー、デビト?」と首を傾げた

「ア?んだよ」
「ー……私がさ、ジョーリィにタロッコの契約の実験唆された時、デビトが止めに入ってくれたじゃない?」
「あぁ、そんなこともあったなァ」
「確かに使いたくもないアルカナ能力押し付けられて代償まで背負わされたら、私の人生変わってた。だから、デビトは私の命の恩人だと思ってる」
「?ポプリ?」
「けどね、タロッコと契約出来なかったことに少しだけ不満もあったの」

…こういう時、デビトのやつはやたら勘が良い。話をはぐらかそうとしたりフラッと逃げたりしてしまうことも今までに何度かあった
ー…だから。デビトの眼をじっと見つめ、デビトのジャケットの裾をぎゅっと掴む。そして「ちゃんと、聞いてほしいの」と囁いた

「タロッコとの契約すれば、デビトの気持ちが分かったのかなって。私にも分かち合えたのかなって……デビトが一番そういう安い同情が嫌いなのは知ってたから、今まで口にはしなかったけど」
「……昔からそうだ。そんだけ分かってて本人にそれを正直に喋って、怒りを煽るとこがお前の悪いとこだゼ本当」
「だって、デビトに嘘つきたくないし嘘ついたとこで見破られるもん。ー…子どもじみてると思うけど、自分だけアルカナ能力がないことでデビト達から仲間外れにされてる気持ちはあった」

この8枚のカードが此処にあるように、あと8人のタロッコ契約適合者がいつかこのアルカナファミリアにやって来るかもしれない。巡り会うかもしれない。そんな時にー…

「そんな時に、アルカナ能力もなくて非力な私の居場所はあるのかなって。私は今更タロッコと契約する気はないし不可能だけど、ファミリーのみんなと…デビトとずっと一緒にいたいって思ってるから。それをその、言っておきたくて…」
「!…」

一瞬表情が崩れた後、すぐにふっと口元をゆるめ、デビトは私の腕をグイッと引く。そのまま私はデビトの胸の中。
いつもの軽いレガーロ流挨拶とかいうのとは違い、ぎゅうっとすがるように抱きしめられた。そして「…本当、素直じゃねェ。ケド、お前のそういうバカ正直で直球過ぎるとこには負けるゼ」と耳元で囁かれた

「一生隣にいてやる、だなんてレガーロ男としてはありきたりな愛の言葉だろうナァ」
「ぷっ…あはは、なにそれ!煙たがられても私が勝手に付きまとうから、いーんだよ。ただ宣言しといただけ」
「ハ、ポプリの天の邪鬼」
「デビトこそ」



**


「…なんか、大丈夫そうだね。ポプリとデビトは」
「よかった…、ポプリがタロッコを見せて欲しいなんて言い出した時は正直心配でしたが。デビトがいれば、ポプリの気持ちを上手く受けとめてくれますからね」
「………あいつら、昔からあんなのか?」

パーチェのやつとの言い合いを終えてふと気づけば、部屋の隅でデビトとポプリが抱き合ってるしよ…!人前でイチャつきやがって…!
そうぶつぶつ文句を言えば「あーアッシュ、アレはそういうんじゃないよ」とパーチェにあっけらかんと笑顔を返された。ルカにも「そうですね。そういうのとは"まだ"少し違うでしょうね」と微笑まれた

「あ?どういうことだよ」
「ー…そうですね。そんな甘いものではないというか…、ポプリはなかなか弱音や泣き言は吐かない意地っ張りな性格で、けどデビトの前でなら素直に弱さをさらけ出せるんです。謂わばアレは家族の愛情のそれに近いでしょうか」
「デビトもね、普段は独りで痩せ我慢して誰にも本当の自分は見せないで、頼ることすらしないんだ。でも、ポプリが素直にああやって弱音をデビトに吐く時、デビトもつられて本音をだしてくれる。…ポプリがデビトの変化にやたら敏感なのもあると思うけど」
「つまり、あの二人だからこそお互いがお互いを必要として、ああやってお互いの本音を確認してるんです。ー…恋愛感情のそれへの発展は、もう少し先ですかね」
「お互い素直じゃないからね」
「……」

家族愛、ねえ…?いまいち腑に落ちんと思いつつ、あの二人の方へ視線をやる。…確かに、まあ、デビトのやつがあんな優しい面してるとこは、ポプリの前以外じゃあり得ねーってのは分かるけどよ


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長らくご愛読ありがとうございました…!


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