「はっなっせ!このろりこん!」

人影のない裏路地に駆け込んだ男の腕のなかで必死にもがく
ファミリー幹部総出で私を追ってくれているんだ。すぐにこの男を捕まえてくれると信じているが、何より時間稼ぎは必要だ。出来る限り暴れて、声を出して…

「っ、黙れ!」
「?!きゃっ…」

頬に衝撃が走る。口のなかで鉄の味がじわじわと広がる
…っ、子どもどもを本気で殴る大人ってどうよ…!じろりと男を睨み付ければ、ハッと乾いた笑みを返された

「ふ、ふん!ガキ、お前見たところあのアルカナファミリアの仲間なんだろう?」
「!」
「この島で一番力があるのはアルカナファミリアだと聞く。なら奴らの弱点を握っちまえばこっちのもんさ。身代金に島の金や財宝なんか根こそぎ貰った後で高跳びさせてもらう」

ー…弱点。私のせいで、ファミリーのみんなを困らせてしまう?…危険にさらしてしまう?
そんなの…そんなの嫌だ…!それだけは嫌だ!そう心の中で叫び、私を拘束する男のその腕にガブッと噛みついた
「痛ェっ!!」という悲痛な叫びの後、手が緩んだ隙に私は男の手をすり抜け、地べたへと着地する。よ、よし!これで逃げ…

「っ…こんのくそガキが!」
「!いっ…」

ガン!と頭を踏みつけられ、地面に身体を押さえつけられる。あまりの強い打撃に頭がくらくらとする
「…人質なら丁重に扱ってもらえると思ったか?」なんて低い声がぼんやりした意識の中で聞こえた

「ガキめ、もう逃げれねェように足を折ってや…」
「おーおー、シニョリーナに手ェあげるたァ…おっさんあんた男の風上にも置けないゼ?」
「!」

この声ー……。聞き覚えのある声が聞こえた次の瞬間、頭にかかっていた重みが消えた。そして、目の前にはズダン!と大きな音をたてて倒れ伏す男の姿が

「ハ、銃を使うまでもなかったか。蹴りでおしまいだなんて、しょぼい小悪党だナァ」
「……」

地面に伏したまま顔をあげれば、やっぱりそこには思い描いていた人物がいて
その人は眼帯で隠れてない方の眼を細め、呆れたというように銀髪をかき上げる
そうして男を一瞥したかと思ったら、倒れ伏す私の前で膝を地面につけ、にこりと口元を緩め、私に手を差し伸べた

「お手をどうぞ、小さく勇敢なシニョリーナ?ー…いや、それも今だけなんだっけナァ?"ポプリ"」
「でびと……」

涙で滲む視界にぼんやりと、いつもと変わらないデビトの意地悪そうな笑みが映る
男に蹴られた痛みで一人で立ち上がれないこともあって、そっと手を差し出せば、デビトは私の手にチュッと口付ける。…いつもだったら"相変わらずそういう軽いことをするのね"だなんて愚痴を言うとこだけど。今はその優しい温もりに不意に泣きそうになってしまった
大きな手で私の手をグイッと引き、デビトは私を地べたから起き上がらせてくれた

「…でびと、どうしてここに…それに、わたしが"ようじか"したこと、なんでしって…」
「そりゃ流石に耳に入るゼ、街の方でファミリーの大アルカナがあんだけ総出で騒いでりゃナァ?バンビーナに"ポプリが拐われたの。デビトも力を貸して"なんて泣き付かれて、そん時に"今ポプリはジョーリィの薬のせいで体が縮んでる"ってのも聞いた」
「そ、そっか…」
「ポプリお前、元々貧相な体がさらに貧相になっちまったナァ」
「!も、もともとヒンソウはよけいでしょ…!」
「イヤ俺は別に発育がちょーっとばかし他のシニョリーナより遅れてる元のお前も魅力的だと思うゼ?可愛らしくて」
「それもはや、わるくちでしょ!でびとのばか!」
「オーオー小さくて可憐なシニョリーナっつーより、元気なお子さまだな。ポプリの場合」

ー…いつもみたいにこうやって軽口叩きあえることが嬉しい。ほっとする。さっきまで誘拐されて乱暴されてて、怖くて不安で仕方なかったけど。その気持ちもデビトのおかげでおさまってきた
だから、お礼を言わなきゃ。助けてくれてありがとうって。それにー…

「でびと」
「ン?」
「たすけてくれて、ありがとう。あと、ごめんなさい」

デビトの大きくて骨ばった手をぎゅうっと握りしめる

「じょーりぃのじっけんでこんなすがたになって、わたし…また"でびと"や"ぱーちぇ"や"るか"をきずつけた」
「!」
「とくに"でびと"には、またふあんにさせた。ごめんなさい…」

ジョーリィが悪いわけじゃない。悪いのは、パーチェやルカやデビトのジョーリィの実験への嫌悪感を知っていながら、被験を受け入れてしまった私
もうデビトには"私が実験で危害を加えられたかも"って不安を与えたくなかったのに…
デビトの目を伏しがちに見つめ、もう一度謝罪の言葉を紡ぐ。すると、デビトは一瞬驚いたように目を丸くしてから、彼にしては珍しくも苦笑いを浮かべた。そして私の頬にそっと手を添える

「でびと…?」
「ー…ハハッ、最初に口にするのが謝罪だなんてお前らしいよナァ。ケドォ?お前のそういう自分の事より他人に気ィ回しちまうところ、俺はガキの時から嫌いだ」
「へっ…?」
「"ジジィの実験にみすみす利用されやがって"なんて思いもないわけじゃねェ。ケド、一番最初にお前の顔見て思ったことは"ポプリが無事で良かった"、だ」
「!」

「…頬、スゲェ痛いんじゃねェの?真っ赤に腫れてんゼ」と眉をひそめ、デビトは私の頬を労るように撫でる。デビトの手がひんやりと冷たくて気持ちいい
…ズルいなあ、デビトは。こういう時はやたら優しいのも、まるで自分の方が辛いかのように苦し気な表情を見せるのも、遠慮がちに何か壊れるものを扱うように触ってくるのも、ぜんぶ
再びじわじわと潤んできた瞳から、ぼたぼたと涙が溢れる。その滴をデビトが一つ一つ指で拭ってくれた

「…"やっと"カヨ。この強がりめ」
「ふ、ぇ…っ、でび、でびと…ぉ」
「アァ、よく頑張ったなポプリ」
「こわ、かった…よぉ。わたし、こ、ころされちゃうんじゃ…ないか、って…」

堪らず目の前のデビトの首に手を伸ばし、すがるようにぎゅうっと抱きつく。泣きじゃくる私を、デビトは小さい子をあやすそれのように、頭をぽんぽんと撫でてくれた

「ー…幼児化っつー迷惑な実験にも、感謝するべきとこも一つはあるかもな。ジジィには感謝の念なんざ微塵も感じねーケド」
「えっ…?」
「…ポプリはガキの時のが素直に頼ってくれたなって話ィ。もっと、俺を頼れよな」
「!……うん、」


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幼児化シリーズ1年かけて完結!ありがとうございました




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