◎ルカ視点


「ポプリの誕生日、明後日でしたよね」

昼下がり。そう何気なく呟いた私の言葉に、パーチェが大きな声を出して、「あー!もうそんな時期かあ、うっかりしてた!」なんて顔をしかめる。…パーチェ、やっぱり忘れてたんですね。今話題にしておいて良かったです

「今年はどうするんですか。パーチェ」
「う〜ん…毎年悩むもんなあ。誕生日プレゼントどうするか」
「?どうして?ポプリならルカ達がくれたものなら何でも喜んでくれそうだけど…」
「あはは…残念ながら、ポプリはそういうタイプの人間ではなくてですね…」
「毎回はっきり言うからね…。去年なんてラッザーニア10杯食べ放題券をあげたら俺、怒られたんだよ〜?」
「それは怒られても仕方ないんじゃ…」

「私だってそんなプレゼントもらったら困っちゃうよ」と苦笑いを浮かべたお嬢様に、パーチェはわけがわからないというように首を傾げる。…パーチェ、普通の人はラッザーニアを10杯も食べようとは思わないんですよ。みんなあなたみたいに底なしの胃袋を持っていないのですから…!

「ん〜…ルカちゃんは決まったの?」
「はい。もう随分前に」
「ええっ!毎年ルカちゃんも悩みまくってるのに!?…はっそうだ!デビトは!?もう決めた?」
「……あ?」

パーチェの問いに今まで黙りこんでいたデビトは「チッ…、んなの知るか」と舌打ちをひとつして、席を立ち、部屋を出ていってしまった。ああ…せっかく紅茶を人数分淹れたのに…。残された私とお嬢様とパーチェはやれやれというように顔を合わせた

「…最近デビト機嫌悪いことが多いよね」
「何かあったのかな…?ルカ、何か心当たりある?」
「いえ特には…。まあ隠者のタロッコとの兼ね合いもあるんでしょうけど…、それにしても最近イラついた様子ですね…」

タロッコの件は抜きにしても、何かあったんじゃないでしょうかね…。まあ本当に辛くなればデビトから相談してくるでしょうけど。限界まで一人で問題を抱え込んで相談もしようとしないのは、デビトの悪いところです。全く…。パーチェも私と同じ考えだったのか、「まっ今は先にポプリへの誕生日プレゼントを考えなくちゃなあ」なんてへらっと笑ってみせた

「あ、私はどうしよう…お菓子とか作ってプレゼントしてみようかな」
「いいですね。お嬢様の手作りなら喜んでくれると思いますよ。私もお手伝いします」
「そういえば、ルカちゃんはポプリに何をあげるの?」
「ああ、それが…私はポプリから既にプレゼントするものを具体的に要求されていて…」
「へっ?」
「ポプリがルカに?…何を頼まれたの?」
「えっと、それが…ですね。なんというか……」
「?」
「…錬金術で、銀のチェーンを作ってもらうように頼まれまして…」
「「えっ…??」」



**




コンコン、
「ポプリ、今大丈夫ですか?」
「ルカ?うん、いーよ。今ドア開けるね」

中からドタドタと物音がした後、暫くしてポプリが部屋のドアを開けた。…また部屋を散らかしてたんですね。「ポプリ、普段からちゃんと整理整頓しておいたほうがいいですよ。いざというとき困るのはポプリですから」と指摘すれば、「ええっ何で分かったの!私が今急いで服とか本とかしまったこと!」と驚かれた。そりゃ分かりますよ、幼なじみなんですから。あなたが片付けを苦手にしてることくらい

「あはは…ルカは何でもお見通しだね。今度から気を付けるよ」
「全く…」
「あれ?でも、ルカは何の用だったの?」
「ああ…、そうでした。頼まれた銀のチェーン、持ってきましたよ」
「!マジで!わあっありがとー!」
「ポプリ、お誕生日おめでとうございます」

今日はポプリの誕生日当日だ。そう言葉を紡げば、「うん、ありがとー。これでまた一つおばあちゃんになっちゃった」なんて微笑み返された。そんな…私なんてもうすぐ三十路なんですから、ポプリはまだまだ若いじゃないですか…!

「いや、なんか二十代になってから時が経つの早くてさー。デビトが二十歳になってお酒解禁になったのがすぐ昨日のことみたいだもん」
「ああ…あの時はデビトも泥酔するまで飲んでましたね。まあその前から飲酒してましたけど」
「そうそう」

そう言われると数年前のことなのに、つい昨日のことのように思えてしまうのは何故だろう。ポプリの言う通り年のせいなのか、それとも…ポプリやデビトやパーチェと過ごす日々が濃すぎるかなのか……私にいたっては後者なのかもしれない。彼らと過ごす日々は、全てが忘れらない大切な思い出だから

「もうさーこの年になると誕生日プレゼントとか貰うと、なんか気恥ずかしくて。お嬢様にさっきドルチェ貰った時なんか嬉しくて死ぬかと思ったよー。でもマーサには"そろそろあんたの年頃だと何あげれば分からない"って言われちゃった」
「!そうでした…、ポプリ。ポプリはは何で銀のチェーンが欲しかったんですか?」
「え?あーあれはねえ…」

ずっと疑問に思っていたんです。こんな銀のチェーンを貰ってどうするのか。そう言葉を紡げば、ポプリはポケットをごそごそと探り、あるものを取り出した

「…?指輪、じゃないですか。どうしたんです?それ」
「デビトに貰ったの」
「……えっ?!」
「誕生日プレゼントにって。誕生日の二日前、街を一緒に歩いてたら可愛いジュエリーショップがあって。いいなーって見てたら買ってくれた」

「やっぱり女の子の気持ちよくわかってるよねーデビトは。嬉しいけど、なんか悔しかった」と口を尖らせたポプリ。けど、視線の先にはキラリと光る指輪があって。彼女は至って嬉しそうに指輪を見つめていた。そして指輪を私が錬金術で生成した銀のチェーンに通し、そのチェーンを首にかける

「あ…」
「…指輪、本当はすごく気に入ったデザインだし、ずっと指につけてたかったんだけど…。私は仕事上、洗い物とかしてばっかだしさ?なくしたら嫌だなって思って、引き出しにしまってたの。でも仕舞いっぱなしじゃ指輪も可哀想だし、それに…せ、せっかくデビトがくれたんだし身に付けてたいから、さ……」
「……」

ゴニョゴニョと誤魔化し、下を向くポプリ。…これは彼女が照れてる場合に見られる癖だ。昔から知っているから分かる。まったく…そんなに照れ隠ししなくていいのに。それに、もう一つの謎も今解けました

「…ポプリ、」
「ん?」
「それつけて、デビトに今すぐ会いに行ってあげて下さい」
「えっ?」

な、何で?と首を傾げるポプリの背中を「いいからいいから」なんて、私にしては珍しく強引に押す。まったく……揃いも揃って素直じゃない"人達"だ。こんな二人が幼なじみだから、年長者の私はいつまでも世話焼き役になってしまうのです



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デビトさんは夢主さんが、自分があげた指輪をあまり付けていなかったことに苛立ってようです






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