「ピッコリーノに持ってくドルチェかあ…」
「今回の当番はポプリとデビトだもんねえ。いやあ楽しみだなあピッコリーノ!」
「ポプリはドルチェを作って賄うとして…デビトは何をするつもりなんです?」
「俺はいつも通り適当にカルチョかなんかで遊ばせるさ」

よっとカルチョに使うボールを頭に乗せ、デビトはぽんぽんと器用にボールを操る。…ばか、ここ厨房なんだからそんなの持って暴れないでよ危ないなあ。私はデビトに軽く肘鉄をくらわして、「ペアなんだから私のこともちょっとは手伝ってよね」と釘を差しておいた

「ん〜…アマレッティ・モールビディか、アマレッティ・セッキのどっちにしようかな作るの」
「?どう違うの?」
「アマレッティ・モールビディは柔らかいサッセッロ風のアマレッティ、アマレッティ・セッキは硬いサロンノ風アマレッティだよ。…子どもたちが食べやすいほうがいいし、アマレッティ・モールビディにしよっかなあ…」

おっし、作ろ!私は何故か私の周りに密集するルカたちを軽く押し退け、材料や調理器具を並べた。…ふむ、ピッコリーノに持ってくドルチェなんだから、子どもたちが美味しく食べれるよう工夫しなきゃ…!私は改めて調理を開始した

「よっ、と…」
「あれ…?ポプリ、アーモンド・プードルじゃなくて小麦粉を使うんですか?」
「あーうん。食感を軽くしたいからそうしようかなって。ビスコッテイコッテイみたいにバターやマーガリンを使わないし…、少し苦味もある分ちょっと甘扁桃のアーモンドを使おうかなって」
「なるほど…よく考えてるんですね」
「…お前普段はそんな気遣い出来るようなやつじゃねーのに、料理に関しちゃ別人だよなァ。普段からそういう態度でいりゃ俺だって可愛がってやんのによォ」
「べっつにデビトに可愛がってもらわなくても結構です〜」
「……」
「あ!?こらっ、勝手に完成したやつ食べんな!デビトのアホ!」
「わあっポプリなにそれ美味しそー!俺にもちょーだい!」
「だ、だーめ!そっちのはピッコリーノで子どもたちにあげる、また別のやつなんだから!」
「別に一つくらい、いいダロ」
「ばっか!作り足すのどれだけ大変だと思ってんの!大体、デビトが食べてたら真似して大食いパーチェが食べたがるからダメ!私にあとどれだけ働かせる気だ!」

デビトとパーチェからそれぞれ手にあったものを奪い、私はフェリチータお嬢様じゃないけど、二人の足をぎゅっと踏んでやった。…なんなの、もう。ピッコリーノ当日には食べられるんだから我慢ぐらいしろ本当

「というか、これは作るのすごーく手間がかかるんだからね…!パーチェは一瞬で食べちゃうけど」
「あはは…スフォリアテッラは作るのがまた難しいですからね。貝殻をかたどったひだのように何層ものパイ状の生地にして、中にリコッタチーズやカスタードクリームやアーモンドクリームを入れたりと…」
「あーそうそう。流石、ルカは分かってるねえ。大変なんだこれが」
「名称自体確か、イタリア語で"ひだを何枚も重ねた"という意味でしたもんね。…そういえば、ポプリは昔からスフォリアテッラをよく作ってましたね」
「ん?あー…、実は私が昔住んでた孤児院でもよく作ってたんだ。発祥地のアマルフィ地方のほうと近かったから、村でよく皆食べてたし」

懐かしいなあ…孤児院で年下の子たちにはよく、作って作って!ってせがまれたっけ。私は並べたスフォリアテッラを見つめ、にまりと口元をゆるめた

「……ヘェ」
「!な、なにデビトその顔…」
「いや?お前がそうやって昔の話するなんて珍しいと思ってよォ」
「えっ」
「あ〜そういえばそうだねえ。ポプリから話してくれたことなかったもんね」
「え、いや、それはその…っ」
「俺たち、もっと聞きたいな」
「?!へっ…?」
「ー…ポプリが私たちと出会う前のこと、もっと知りたいです。ポプリが孤児院でどう暮らしてたのか、だとか」
「?で、でも多分ルカたちにはつまらない話だよ?ただの私語りだし…」
「俺たちはポプリのその何気ない思い出話が知りたいんだ」
「オメーは何故か無駄に遠慮してたみたいだけどなァ?」
「!…」

ー…ずっと、デビトたちには何も話してこなかった。彼らとはこのレガーロの地で出会って、一緒に育ってきて。その思い出の積み重ねがあるから、私は彼らと幼なじみとして接してもらえてるわけで。…私の異国地で暮らしてきた数年なんか、彼らには関係ないかなって。話すのは憚られた。けど…彼らはどうしてか求めてくれた

「………デビトもルカもパーチェも物好きだね」
「ハ、相変わらず可愛いげのねェ返事だなァ?」
「う、うるさいなあ。…もういい、デビト。ティーカップ4つ棚から出して」
「あ?」
「パーチェ、スフォリアテッラやっぱ食べていいよ一つ」
「へっ?」
「ルカにもデビトにも、あげる」
「…ポプリ?」
「私、休憩するから。お茶にしよう?コーヒー一杯分、つまらない思い出語りするから。つ、付き合って…よ」



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幼なじみといっても大人同士なんで少しぎくしゃくしたりも





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