定期的に必ず、俺は隠者のタロッコに痛みや苦しみを強いられる。これは昔から変えられないことで。ジョーリィのジジィに義眼を埋めつけられた時から特にそうだ。義眼によって増幅されるタロッコの力は、見返りに俺の精神を喰い尽くし蝕んでいく

「ッ…クソッ…」

その痛みや苦しみが度を過ぎると、俺も周りのことが見えなくなる。自分を…制御出来なくなる。異様にムシャクシャして、周りどころか自分に対しても何も感じなくなって。…より一層死にたいって願望が強くなる。どうせこのアルカナ能力のせいで数時間しか起きてられない身なんだ。それならもういいだろ。このまま永久に眠ることになっても


「ー……デビト、」
「…?」

…けど、いつもある声が俺を邪魔する。ある声が、俺をいつまでも呼び続ける。うっせェなァ…なんて思いつつ、渋々ながら瞼を開ければ、そこにはいつもあのお節介がこっちを見つめていて

「…寝てたの?」
「……別に」
「そっか」

…何でコイツはいつも俺がそうなる時を見計らったかのように、ふと現れるんだろう。いつだって一人で逃げようとしても、コイツは追い縋ってくる。全部手放したくても、コイツはそれを全力で止めてきやがる

「……いつも言ってんダロ。勝手に入ってくんなって」
「一応ノックはしたもん。それにデビトがごろごろしてたから」
「………」

「…つーか男の部屋に堂々と入ってくるなんて、怖ーい狼に何されても文句は言えないゼ?」とからかうように笑えば、「そんな蒼白い顔した弱そーな狼に何が出来るって言うの。大体、デビトやルカやパーチェの部屋に勝手に入っても問題ないでしょ?幼なじみじゃん、私たち」とポプリは何ともないように微笑む。…本当にこいつは馬鹿だな。つーか俺もルカもパーチェもなめられてんじゃねーか男として。…そう思うと、何か悪戯してやりたい気持ちに襲われる。が、その思考もポプリの次の行動によって止まった

「……お前本当に何してんだよ」
「え?デビト、一緒にシエスタしようよ」
「は?」
「パーチェがじゃんじゃん注文してきてさー今までずっと厨房で働きっぱなしだったんだ。だから疲れちゃって。私も寝るから、デビトももう少し寝てよーよ」
「……」

勝手に俺のベッドに寝転がり布団にくるまるポプリは、既に眠る態勢で。早くもうとうとと眠たそうに目を細めていた。…本当に、救いようのない馬鹿。ガキん時とは何かも違うだろーが。カテリーナにあやしてもらって一緒に並んで昼寝してたあの時とは違って、今の俺とお前は普通の大人のオトコとオンナだっつーのに…

「カテリーナさんがさ、こうやって手をぎゅっと握りしめててあげたら、デビトすぐ寝ちゃってたよね」
「……んなの昔の話だろ」
「あはは、そうだけどさ」

小さく柔らかい手が俺の手をガキみたいにぎゅっと握りしめる。…普段俺がスキンシップはかった時は真っ赤になって慌てるくせに。変なところでガキっぽさが抜けてねーんだから分からねェ。つーか、いっちょまえに気ィつかってんじゃねーよ。マジでうぜェ。下ろしていた銀髪を苛立ちにかきあげ、そうポプリを睨み付ければ「気なんかつかってないし。私がただシエスタしたいだけですー」と答えられた。嘘つけ。じゃあ何で俺のベッドで、なんだよ

「(…バッカじゃねーの)」

…俺がこうやってアルカナ能力の代償で痛みを強いられている時、ポプリが不安に感じてることくらい分かってる。俺が苦しんでいないか、…俺がどこかに消えようとしないか。ポプリが目をはなさないよう意識してることくらい分かってる。けど…

「…余計な介入は自分の身を滅ぼすってなァ。イイオンナなら知ってんだろ?常識ダゼ?」
「イイオンナじゃないから知らないよそんな常識」

「もういいよ、デビトは私のこと勝手にうざがってれば。大体私、昔からパーチェやルカにも大した扱いされてないし」とつまらなそうに口を尖らせる。…ガキかってんだ。ああ、本当…何でこいつはこうもお節介なんだ。おかげで逃げられやしねェ。…あーもう考えのも面倒くせェ

「ー………寝る」
「ん、そっか。じゃあ私も」

「おやすみ、デビト。良い夢を」そんな優しい声を最後に聞き入れ、俺は目を閉じる。…これ以上変な考えにほだされないように。俺は無理矢理蓋をした。…次に目覚めた時、どっかのお節介女が隣にいてくれればそれでいい。どうせ俺が拒否しても、お前は"そこ"にいるんだろうから



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辛いときも、君がいれば




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