「…困ったわねえ」
「まだ、ポプリは部屋から出てこないんですか?」
「ええ…気にしないでいいとは言ってるんだけど…」

「もう今日で4日めよ?その間あの子飲まず食わずで…心配だわ」と眉をハの字に下げるマンマに、ルカが「私ももう一度説得に行きます」と自分の胸をぽんと叩く。…説得、ねェ。ポプリみたいな頑固者をどう説得する気なんだか。少なくともルカじゃ言い負けるに決まってる。そう思いながらも、俺は深刻そうな表情をするルカとマンマを柱の影から見つめた

「(…チッ、仕方ねェなァ…)」

あんのバカ。本当に我が幼なじみながらポプリは面倒くささ極まりないやつだ。…今度絶対ェなんかおごらせてやらァ。俺はそう毒づき、自らのアルカナ能力を発動させ、ポプリの部屋へと向かったー…



***




…コンコン、
「………誰?ルカ?」

そいつの部屋のドアを叩けば、真っ先にルカの名前を呼ばれた。…何でルカの名前が最初に出てくんだよ。ムカつく。「言っておくけど、私は部屋から出る気はないから」とぶっきらぼうな声が部屋の中から聞こえるも、俺はバカみたいに息を殺して部屋のドアに立ち続けた。…もちろん、自分のアルカナ能力は発動させたままだ

「……?ルカじゃ、ないの?誰…?」
「……」
「…?」

ー…待つこと数分間。ようやく中からカチャリと鍵の開く音がして、ドアが開いた。そしてドアの隙間から「…誰か、いるの…?」と思案顔なポプリが顔を覗かせた。俺はそれを見計らって、ドアをガッと開け、ポプリの手首を掴みそのまま強引に部屋の中へと入った

「!?きゃっ…!」

何が起こったのかわからないというような表情をするポプリをそのまま床に押し倒し、俺はアルカナ能力を解除した。途端、ポプリが「!?っ…デビトあんた、姿を消して…」なんて悟ったように目を丸くしていた

「…よォ。4日ぶりだな、引き籠りのシニョリーナ?」
「…!」

「よくもまあ4日間も飲まず食わずで部屋に籠ってられるよなァ?マンマやルカ達の説得にも応じずに」なんてニヤリと口元を緩めれば、ポプリはキッとこちらを睨み返す。そして俺から逃れようと身体をよがらせる。が、俺はポプリのやつの細い手首をしっかりと掴み、無理矢理組み敷いてやった

「?!デ、デビト!離れ…」
「ー…そんなに気にすることかよ?バンビーナだって幸い怪我一つ残らなかったじゃねーか」
「!」

俺のその言葉に真ん丸な瞳からぽろぽろと涙を溢すポプリ。…ハ、やっぱポプリはバカだ。そうやって自分を責めて責めて、徹底的に責めて。そのうえ自分を許す方法を知らないのだから。不器用でバカで弱くて…、ポプリは本当どうしようもないやつだ

「…だ、だって…私のせいで、フェリチータお嬢様が、火傷を…」
「……もうマンマも気にしなくていいって言ってただろーが」
「でも…私が目を離したから…私のせい、だもん」

ぼろぼろと子供みたいに泣きじゃくるポプリは、「もう…フェリチータお嬢様にもマンマにもパーパにもルカにも、合わせる顔がない…」と震えた声でそう呟いた。…あー本当に面倒くさいやつ。俺はその深紅色の瞳から溢れ出る涙をぺろりと舐めとり、「…情けねェ面」と笑ってやった

「やっ…デビトやめ…」
「ハ、そうやっていつまでもめそめそ泣いてんじゃねーよ。お前はそんなタマじゃねーだろうが」
「!…っ、」
「部屋に籠って泣いてて何か変わったかよ?…それよりバンビーナやマンマに自分の気のすむまま謝り倒したほうがスッキリすんじゃねーの?」

「それからだろ。許してもらえるか許してもらえないか考えんのは」とポプリの目を見つめれば、ポプリは一瞬ハッと目を丸くした後、「……そう、だね」と何かを決意したような力強い眼差しを見せた

「……ありがとう、デビト。やっぱ、こうやってめそめそ泣いてるなんて、私らしくない」
「だろうな」
「ちゃんと、マンマにもフェリチータお嬢様にも謝ってくる」

ー…まあポプリの料理してる姿を見て、自分も料理したいと興味を持ったまだ幼いバンビーナが、ポプリが目を離した隙に熱湯の入った鍋をひっくり返してしまった今回の事件は。あながちポプリだけのせいではないとは思うけどな。実際、パーパもマンマもルカも許してくれるだろう

「ありがとうね、デビト」
「いや?悲しんでるシニョリーナがいれば慰めてやるのがレガーロ男のたしなみってやつさ。…それがどんな凶暴女だとしてもなァ。ポプリも一応性別上は女だからな」
「……最後のは余計だから」
「ハ、お前でも泣いたりすんだな。可愛いところもあるじゃねーか」
「う、うっさい。…というか、デビト」
「あ?」
「あ、あの、デビトにはすごく感謝してる、けど…その、この体勢はちょっと、あれだから…」

「そろそろ離してくれない…?」と言い淀むポプリ。…相変わらず切り替えの早いうえ、空気を読めないやつ。普通のオンナなら、こんな近距離で俺を前にしたら、猫なで声をして擦り寄ってきてもおかしくねーってのに。ポプリは、良い雰囲気だとかそういうのを考えられるほど大人じゃねーってことか。…まっ、早々簡単に離してやる気なんかないけどな。せっかくなんだから

「…デビト?」
「ー…嫌なこった」
「は、はあ」?

意味が分からないというように俺を見つめるポプリを尻目に、俺はポプリの頬を濡らす涙の滴をまたゆっくりと舐めとった

「!?ばっ…ばか!デビトやめっ…」
「…そりゃ、甘くはねーよな」
「…?デビト?」
「"甘く"ねーから、お前の涙なんて俺ァもう見たくねェ」
「!……」

「……デビト、ありがとう。」そう言ってポプリが微笑みやがるから。俺はその能天気なやつの額にちゅっとキスをお見舞いしてやれば、そいつはまた顔を真っ赤にしてぎゃあぎゃあ騒ぐ。ー…本当、ポプリは昔から面倒くさいやつだ。普通のシニョリーナより二重も三重も手間がかかる。けど…その分アモーレを注ぐ甲斐があるってもんだ。手間をかけずにすぐ咲く花なんて、つまらねェ


−−−−−−
デビトさん視線で



戻る


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -