◎暗いお話


「ジョーリィのアルカナ能力ってさ、相手の辛かったり苦しかったりした記憶を呼び起こして、何度も見させる能力だったよね?」
「……なんだ唐突に」

談話室にて。研究に行き詰まったらしく、珍しく談話室でコーヒーなんか飲んでゆっくりしていたジョーリィを見つけた私は、ずっと聞きたかった疑問を口にする。そうすれば「ふん…私とは距離をあけるようデビトに言われてるんじゃないのか?」なんて先にニヤニヤと笑われた。え…いやそれは実験室でとか、そういう状況に限るでしょ。少なくともジョーリィはファミリーの相談役なんだし、会話しないって決めたわけじゃないし

「…いかにも。私のアルカナ能力、月(ラ・ルーナ)はそういった能力だが?何か聞きたいことが?」
「いや…もしジョーリィが私にそのアルカナ能力を使ったら、私はどの記憶が思い起こされるのかなーって思って」
「それはそれは…なんなら試してやろうか?」

黒いサングラスにスッと手をかけたジョーリィに、私はあわてて「い、いやいやいや!ち、違うから!そういう意味じゃないから!というかジョーリィ私を殺す気!?」なんて弁解する。あー本当にジョーリィは冗談が通じないというか何というか…!心臓に悪いよこの人とやり取りするの…!

「何だ、自ら実験体になりたかったんじゃないのか」
「そんなわけないでしょ…」
「ククッ…まあ、普通ならば相手が最も頭に残っていて忘れたくても忘れられないような記憶を呼び起こす傾向が高いな。私の能力を使えばお前の場合もそうだろう」
「…トラウマ的なことを、思いださされるってこと?」
「そうなるな」
「…ふーん…」

トラウマ、かあ…。じゃあ私の場合ジョーリィのアルカナ能力に呼び起こされる記憶は…

「…じゃあ、私だったらレガーロ島に来る前のことなのかな」
「前?…ああ、モンドに拾われる以前のことか」
「うん」
「お前がいたのは他国の小さな村だったな。あの村は当時侵略を受けて既に廃村していたと思っていたが…まさかまだ生き残っている人間がいたとは思いもしなかったよ」

「あんな劣悪な環境で生き延びているとはな…ククッポプリは並の人間より桁外れの生命力を持っているようだ。今度機会があれば是非お前を研究したいものだよ」なんてサングラスの奥で目をキラリと光らせるジョーリィは、決して冗談を言ってるようには見えなかった。……これは暫くジョーリィからは距離をあける必要があるかも。デビトの言う通り。身の危険が迫ってる…!

「わ、私は普通の人間だからね。ただあの時は運良く、視察中のパーパが侵略を受けて間もない時に通りかかってくれたから…」
「ククッ…我々もまさか視察に行った先で、モンドが見知らぬ少女を持ち帰ってくるとは思わなかったさ」
「んー…あの時のことジョーリィのアルカナ能力で呼び起こされたら、確かに辛いっていうか私死んじゃいそうだなあ」
「ほォ?侵略を受けた過去を、か?」
「いやむしろパーパと偶然会うまで餓死しそうになってた過去を、かな。だってお腹がすくのが一番辛かったもん」
「………」

「…お前はパーチェと変わらないな」「ジョーリィだって実際飢餓にあったら死ぬほど辛いよ?本当に、あれはない。人間餓死が一番辛い死に方だと思う!」と、コーヒーをのんびりと飲むジョーリィに力説をする。本当、餓えるって辛いんだから…!

「まあ人間は食物がないと生きていけないのは事実だがー…実際は、どうだったんだ?」
「え?」
「お前のいた小さな村に、その当時他の土地でも侵略を続けていた巨大な勢力が攻め行った時のことだ」
「実際、も何も……侵略なんて、あっという間だったよ。いきなり兵隊が大量に攻め入ってきたと思ったら、村は火の海で。意識を取り戻した時にはもう村には私しかいなかったし」
「…ほォ」
「若い人とかは捕虜にされて連れてかれたんだろうけどね。村に生き残ってた子どもや老人はいなかったかな。私が住んでた孤児院も燃えてなくなってたし」
「なんだ…随分、何でもないように言うんだな」
「だって、本当に一瞬だったから。人が作ったものを人が壊すのもそうだし、人が死ぬのも」

だから、私は村に一人お腹すかせて生き延びてた時のほうが辛かったなあ。何にもないところにひとりぼっちだったし…。私はあのまま、1人で死んでいくのかと思ってたし覚悟してた

「(…だけど、パーパに出会って全てが変わった)」

パーパに偶然会って、レガーロ島に連れて行ってもらえて。そこでデビトやパーチェやルカや色んな人達に出会えて。アルカナファミリアっていう家族ができて。…孤児院で一緒に暮らしてきたマザーや何人かの友達ともう会えないのは寂しいし辛いけれど。ー…それ以上に今が幸せだから、私はみんなの分も生きなきゃって。そう思うの

「…あはは、にしてもこんな昔話話せるのジョーリィにだけだなあ」
「何?」
「…パーチェやルカやデビトは知らないんだ。私のそういう過去。知ってるのはパーパとマンマとジョーリィとダンテと…今はいないカテリーナさんだけかな」
「…デビト達に話してやるつもりはないのか?」
「ないよ。だって、パーチェやルカやデビトにそんなの話したら変な同情買って、心配させちゃうもん。その点ジョーリィは何にも感じなそうだし」
「フ…私ほど人間味溢れる優しい人間もいないと思うが?」
「よく言うよ。ジョーリィはどっちかって言うと冷徹な人間じゃん」

ジョーリィにそう笑いかけながら、私は席を立った

「ジョーリィ、コーヒーおかわりいる?もうないよね」
「…お前にしては気が利くな。毒いりコーヒーでも出す気かな?」
「違います〜。昔話を聞いてくれたお礼」
「礼?」
「……あんま昔話するタイミングなんて今までないから、何故かちょっと今すっきりしてるの。誰かに話せて」

コーヒーカップにコーヒーをトクトクと注ぎ、私はジョーリィに角砂糖の入った瓶を差し出す。(ジョーリィがコーヒーにいれる角砂糖の数は未知数だからね)

「ー…ポプリ、」
「ん?」
「お前は、今までの人生が幸せであると感じるか?」
「?幸せだよ?だってレガーロ島で過ごす毎日は楽しいもん。過去は過去だしさ」
「…フッ、そうか」
「というか、さっき思ったんだけどさ!もし私が過去のそういうトラウマを乗り越えられたら、ジョーリィのアルカナ能力にも勝てるってことかな?私も大アルカナに勝てる?無敵?」
「……、どうだろうな。そんな結果を起こす確率はかなり低いが…」

「ー…ポプリならやってのけてしまいそうで怖いな。」そう低く笑うジョーリィは何だかいつもと違くて

「(?……馬鹿なこと言うなって笑われるかと思ってたのに…)」

…昔から私やデビトやパーチェやルカに色々酷いことしてきたジョーリィとも違くて。パーパの前で相談役の顔をしてるジョーリィとも違くて。…正直、ジョーリィにはいくつの顔があるのか長年一緒の私でも分からない。今のジョーリィは…ちょっとだけ、優しい顔をしてる。何で、だろう



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少しの変化。

夢主さんは元々レガーロの住人ではありませんでした



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