「ぷあ…たべたあー。ごちそうさま!」
「おい、口のまわりソースだらけだぞ」

「もっと綺麗に食えクソガキ」と言いながら、アッシュはグイグイと少し強引におしぼりで私の口まわりを拭う。い、痛い痛い…!力強すぎだから…!

「さーて、腹もいっぱいになったし。俺達はひとまず館に帰るか」
「アッシュ、もう案内してほしいところは他にない?」
「ああ、十分だ。今日はありがとうな、イチゴ頭」
「うん」
「ぱーちぇはどうすんの?」
「んーもう館に戻ろうかなあ。ダンテに頼まれた報告書そろそろ探さなきゃだし」
「…あんたまたなくしたの、ほーこくしょ」
「アッシュはどうすんだ?」
「俺はジョーリィのヤローに呼び出されてるから一旦館に向かう」
「なーんだ。じゃあ皆一緒か」

「おじさーん、ここは俺にツケといてねえー」と明るい笑顔で立ち去るパーチェに、店長が「ああ、またいつものことか…」なんて乾いた笑みで手をふる。…まあ、私もお嬢様もリベルタもアッシュもそんなに食べてないしな。パーチェが一人で私たちの四倍は食べてたし、支払いはパーチェ任せでいいよね。うん

「じゃあポプリ、俺と手を繋いで帰ろうかっ」
「やーだ!ふぇりちーたおじょーさまとてをつなぐ!」
「ガーン!」

パーチェの大きな手をぱしっと払いのけ、私はお嬢様の手をきゅっと掴んだ。それを見て「…うん、そうだね。ポプリ、一緒に手を繋いで帰ろう?」とニコニコと微笑むフェリチータお嬢様は、最早天使そのものでした。…うああお嬢様本当に笑顔可愛い過ぎです…!

「…にしても、まさか幼児化させる薬なんか作るとはな。ジョーリィのやつ、やっぱり侮れねェ…」
「?でも、あっしゅも"ふろうふし"のけんきゅーはしてたんじゃないの?」
「その研究の延長線に虎に変身しちまう薬ができたんだろ?そう幽霊船で話してたじゃん」
「…それとこれじゃ話がまた別だ。第一、精神は元のままで肉体だけ幼児化するなんてのは構造としては複雑だ」
「?ジョーリィが失敗したとかじゃないの?」
「それはない。肉体と精神に別々の効果を出すことのほうが原理としては難しいはずだ。つまり脳のほうは変わらず元のポプリの脳のままで動いてるってことだからな」
「うーん…???話が難し過ぎて俺には分かんないや」

「ま、ジョーリィが他人を実験台にするなんていつものことだしね」と能天気に笑うパーチェに、私は心のなかで賛同した。…確かに。タロッコとの契約はともかく、他にも色々な実験を小さい私やパーチェやデビトやルカにしてきたもんね。…そのなかでもルカは特に酷かった気がする…。というか、もしかしたら…

「……ぱーちぇ、」
「ん?」

私は空いていた左手でパーチェの服の裾をくいっと掴み、頭を俯かせた

「…このこと、でびとがしったら、おこるかな…やっぱ」
「!ポプリ…」
「じょーりぃのくすりをのんで…なんて。また、でびとをきずつけちゃうかな…」

…ジョーリィに近付くなって言われてるのは元より、ジョーリィの薬に被害を受けたと知ったら、多分デビトは怒るだろう。…昔みたいに、デビトに心配をかけたくなかったのに。こうも軽率な行動をしてしまったというのは、今回私が最も反省すべきところだろう。しゅんと頭を俯かせた私に、パーチェが「…まあ、デビトは小言の一つや二つ言うかもだけどさ。大丈夫だよ」なんて私の頭をがしがしと撫でた

「だって、ポプリがまた傷付けられたわけじゃないって分かってるし。…それに、もうポプリも俺達も子どもじゃないから」
「!ぱーちぇ…」
「んー…デビトはまだどう思ってるか分からないけど、俺もルカもポプリのこと信頼してるよ。ちゃんと何かあったら言ってくれるって。まあポプリが危ないめに逢わされても、俺達が護るしね」

「俺もルカもデビトも、もうそれだけの力があるからね」なんて微笑むパーチェに、私は「…うん。信じてるよ」と笑顔で答えた。…そうだよね、昔とは違うんだもん。私だって、助けくらい呼べる。判断力だってある。…デビトにはちゃんと謝るけど、「今度からは気を付ける」って言おう

「…あ!」
「?どうしたの、ぱーちぇ」
「み、見て見て!美味しそうなドルチェが!」
「本当だ。へえ…新しい店か。並べてあるケーキ、すげえ綺麗だなあ」
「本当…宝石みたいにキラキラしてる」
「たしかにおいしそー」
「し、しかもリンゴのドルチェ…だと…?」

……なんかみんなの心があの新しいお店のドルチェに掴まれたみたいだ。いやでもお店の見た目も個性的で…これはちょっと良い店を見付けたんじゃないだろうか。「館に戻るついでに買っていこうぜ!」というリベルタの意見に反対する人は誰もいなかった

「じゃあ、9つかおうか。さっきのだんてにおごってもらったし、おれいにかいたい」
「ん、そうだなっ!」
「あとノヴァとルカの分も。二人ともドルチェ大好きだもんね」
「9って…デビトのやつの分も買うのか?あいつ甘いもん食わなそうだけど」
「ん…でびともみんながたべてたらたべるかもだし、いちおーかおう」
「…ふーん」
「え、なにあっしゅ。そのはんのう」
「別に」
「お嬢は何食べたい?色々あるぜ」
「本当?じゃあ…ポプリ、私ちょっと見てくるね」
「はい」
「ポプリは何がいい?」
「わたしはなんでも。おじょーさまがえらんでください」
「うん。分かった」

お嬢様と繋いでいた手を離し、私はお店のショーウィンドに張り付くパーチェ達を遠目に見守る。あはは…みんな食いしん坊だなあ

「お嬢ちゃんお嬢ちゃん」
「?ん?」

皆から少し離れたところで立ち尽くしていれば、急に知らない白髪のおじさんに呼び止められた。?な、なんだろ…

「おじさんどーしたの?」
「実はこの島に来たばかりで道が分からないんだ。よければ道を教えてくれないかね?」
「…?」

何で私みたいな小さい子に聞くんだ…?まあ、いいか。中身は成人で、もう何年もこのレガーロ島に住んでる私だ。道案内ぐらい出来る。私は地図を広げているおじさんの元に近寄った

「で、おじさんどこに行きた…」

ふわっ。身体が急に宙に浮かぶ。え、えっ…?驚く私を尻目に、おじさんは私を抱きかかえいきなり走り出す。い…いやいやいやいやちょっと待って!!!

「?あれ?ポプリ…?」
「おっ…おじょーさまこっちです!た、たすけてくださ…むぐっ」
「!ポプリ!」
「!?お、おいそこのおっさん待てよ!」
「チッ…」

ゆ、誘拐じゃないかこれ!嫌だ誘拐されちゃってるよ私いいい!口を塞がれた私はじたばたと手足を動かすも、おじさんは何事もないように私を抱え走る。っ…子どもってこんな非力なもんなの…!?後ろから私を追ってきてくれるリベルタやお嬢様達に頼るしか、今の私には出来ない

「っ…ポプリ!今助けるね!」
ヒュンッ
「「ぎゃあ!?」」
「お、お嬢!そんなナイフなんか投げちゃポプリにも当たっちまうって…!」
「まあ、いいんじゃね?ポプリなら当たっても死ななそうだし。あいつしぶといしよォ」
「むがむが!(あっしゅおまえふざけんな!!)」



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誘拐されました。カオス…!




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