「おいポプリ」
「…?」
いきなり肩をぽんと叩かれ、私はびくりと肩をはねさせた。ちらりと目線だけ後ろにやれば、そこにはニヤニヤと口元を緩ませたデビトの顔。…もうすぐしたらリベルタやらパーチェやらが夕飯だ夕飯だ!とか騒いでやって来る時間なんだけどなあ。「…私今食事の準備してるんだけど?」と食卓に皿を並べながら、私はため息混じりに返事をした
「相変わらず愛想ないなお前」
「今忙しいから。用事なら後にして」
「もうすぐ夕飯の時間か?」
「見れば分かるでしょ」
「ふーん…今日はイカのマリネに緑野菜とひよこ豆のサラダに冷製トマトスープか…」
「!…」
「1つもーらい」と皿に手を伸ばそうとした彼の手をパシッと掴み、私は改めて彼の顔と真っ直ぐ向き合った
「…だから、今はちょっと忙しいの。用事なら後にしてってば、アッシュ」
「!は、はあ?俺の顔忘れちまったのか?俺はデビ…」
「アッシュ、デビトはアッシュみたいに私の料理を摘まみ食いしたりしないの。というか私が何作ったかなんて興味も抱いてくれないし」
「……チッ」
ピカッという光と共に、デビトの姿がみるみるうちにアッシュの姿へと変わる。…これが彼のアルカナ能力、魔術師の力。他人の姿に成り代われるというものだ。銀髪の彼アッシュは、先の幽霊船騒動で我がアルカナファミリアに入った新入りさんなのだ
「…お前なかなか鋭いな」
「あはは…でも声も姿形もそっくりだったよ?ただ、デビトのひねくれた性格までは再現出来てなかったけどね」
最後のお皿をかたりと食卓に置き、私はエプロンの紐をシュッと解いた。…にしても、何でわざわざデビトに化けたんだろ。普通に来てくれれば良かったのに。アッシュってもしかして、意外とサプライズ好き?
「で、アッシュは今日は珍しくファミリーの皆と一緒に夕飯食べてくれるの?」
「ハ、誰が。書斎に寄ったついでに気まぐれで来ただけだ。もう船のほうに戻る」
「…そっか…」
せっかく今日は新しいレシピに挑戦してみたのになあ…。デビトは大抵食事自体取らないから、今日も夜はバールでお酒飲んでるだろうし。ダンテも今日は帰りが遅いって言ってた。ジョーリィもここ三日間実験中らしいし。…はあ、なんか作り甲斐ないなあ。パーチェに全部処理してもらおう…リベルタやノヴァやお嬢様は食べてくれるかなあ外食して来たらどうしよう悲しい
「はあ…」
「……お、おい」
「ん?」
「きょ、今日はどれぐらい夕飯作ったんだ?」
「?えっと…この食卓に並べた以外にまだ鍋にたくさん…」
「じゃあ、食ってく」
「!!」
ほ、本当に!?と思わずアッシュの手を掴んだ私に、アッシュは「お、おう…」と若干戸惑ったように首を縦に振った。うわー!嬉しいよー!アッシュが私の料理食べてくれるなんて!
「…お前単純だな」
「だ、だって嬉しいもん!ありがとうアッシュ。気をつかってくれて」
「…べ、別に」
それに、ちゃんと料理をアッシュが食べるところを見れるのも安心するしね。だってアッシュはいつも船に籠っていて食事はリンゴばっかりで…すごく心配だったんだ
「…アッシュはまだまだ若いんだから、リンゴ以外にももっとちゃんと食べなきゃダメだよ?そんな細い身体して」
「…何かババくせーな」
「料理人として、ファミリーみんなの健康は気をつかってるんです」
「俺はまだファミリーに入ったわけじゃねえ」
「アッシュはもう私たちのファミリーも同然なんですー」
「なんだそれ」
「つーか、べっつに好きなもん食ってるだけだ。それが健康に悪いわけがねェ」と息巻くアッシュに、私は少し頭が痛くなった。…リンゴ中毒だよねほとんどアッシュは。やっぱり錬金術師はジョーリィといいルカといい、変な人ばっかだ
「ちなみに俺は船にいた時はカテリーナって幽霊の女に料理作ってもらってたから舌は肥えてるぜ、それなりに」
「何ですかそれ喧嘩売ってるのアッシュ。買うよ?」
−−−−−−
そんなアッシュとの日常。ゲームから察するにアッシュは書斎と実験室と船を行き来してばっかなのかな?(´ω`c)
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