April.14_11:44


「…で?これは何でさァ」
「催涙ガスです。任務の成功率が上がるので、対象物に攻撃する前にはいつも使用してます」
「へぇー直接バッサリいかないのかィ」
「色々騒がれても困りますからね。あと―…暗殺にはこれも便利ですよ」


ファミレスにて暗殺談義?に花を咲かせる俺達。次々に暗器やら毒薬やら取り出し事細かに説明していくそいつの話に、俺はカツ丼をかっこみながら耳を傾けた。…まあ流石は現役の殺し屋というか。女でこんなこと熱入れて説明する奴もいねーよな。普通に考えたらおかしいわコイツ


「というか、お前俺が土方さん殺す気満々なとこはツッコミいれねーの?」
「…まあそこはお二人の間で色々あるでしょうから。私が特に制止しても、沖田隊長は聞かないんじゃないですか?」
「当たり前だろィ。何で俺がお前なんかの言うこと聞かないといけねーんでさァ」
「えへへ、ですよね。それに、私は頼まれた事には全身全霊尽くす主義なので」
「…ま、こいつはありがたくもらっときまさァ」
「あ、はい。どうぞどうぞ」


とりあえずその殺し屋七つ道具とやらを受け取れば、こちらを探るようなそいつの視線に気付いた。彼女の碧色の瞳のなかで光がゆらゆらと揺れている


「…沖田隊長、」
「何でさァ」
「えっと、あの…本当は何か別に私に用があったんじゃないですか?」
「……どうしてそう思うんでィ」
「いえ、沖田隊長から私に声をかけるなんて昨日と態度が違いすぎるなァ…と思いまして」


「勘違いだったらすみません」なんてそいつはヘラリと笑う。…いつもボーッとしてるように見えて、やっぱ侮れないやつだなコイツも。勘違いとか言ってるが、確信があってコイツは敢えて俺にそれを言ったんだろう。…なら仕方ない


「…ご名答、でさァ」
「え?」
「まあ勿論、土方コノヤロー暗殺計画に協力してほしいってのは本当でしたけどねィ。…実のところ、土方さんからお前のこと見張るように言われてたんでさァ」
「!」
「幕府から真選組(うち)に研修させるメリットなんかないはずだってねィ」


…あ、本人もそれを言うなんて酷だったかもしれねーなァ。やべ。たぶんショック受けてやがるんだろうなあなんて。そう思いながら、彼女の顔を見やった。…が、その表情というものは…


「……何笑ってんでさァ、あんた」
「ふふっ、随分用心深いんだなーと思いまして」


さっきと変わらない、まっさらな笑顔だった。…何だコイツ、俺の言った意味が分かってねーのか?全然動揺もしねーなんて


「あんた…疑いかけられてるってのに気にしてないんですかィ?」
「誰かに疑われたりするのは慣れっ子ですから。…それより沖田隊長、今日もこの後市中廻りに行かれますか?」
「…もしかして今日もついてくる気なんで?」
「はいっ」


…マジでか。昨日は結局あの後もずっとコイツの隣でぐーすか寝てたから、正直今日までついてくると言ってくると思わなかったんだが…。つーか俺についてきても、俺ァ働く気なんかねーから全く無駄足だろ


「…念のため言っときますけどねィ、俺ァ昨日と同じで仕事する気なんかサラサラねーぜ?」
「あ、それは別に大丈夫なんですけど…何て言うんでしょう。とりあえず私は、隣にいれればいいんです」
「?」


疑問符を浮かべ首を傾げると、そいつは少し照れたように頬をポリポリと掻きながら呟く。隣って…俺の隣に、か?


「えっとですね…つまり私は沖田隊長の目線で、江戸の街並みや人々が見れればそれでいいんです。見回りとか関係なく」
「…何で俺限定なんでさァ」
「それはもちろん、私が沖田隊長に憧れているからですよ」
「………」


…昨日からずっと思ってたが、コイツはこうして目の前で向かい合ってもよく分からない女だ。言ってることがまず意味分かんねーし。ふわふわとしていて、いつもどこか遠くを見てるような…そんなイメージ。何考えてのか読めない。…土方さんが見張っとけって言うのも納得がいくかもしれない。しかも、そのうえ…


『ー…総ちゃん、』


……似ているんだ、姉上に。裏表のない笑顔が。真っ直ぐ向けてくれる、柔らかい眼差しが。…俺がこんな何考えてんのか分からない奴を不快に感じないのはきっと、姉上の姿を一番に連想してしまうからかもしれない


「?沖田隊長?」
「…あんた、名前何て言いやしたっけ」
「!あ…茜、進藤茜ですっ」
「じゃ…チビ、グズグズしてねーでさっさと見回り行くぜィ」
「えええ、そこは本名とかで呼んでくれない感じ…ですか」
「お前チビだろ実際」
「それは……そうですけど…って、あれ??巡回に行くんですか沖田さん?」
「気が変わったんでさァ。こーんな暑いなか外歩き回って、熱中症でも起こしたら大変だろィ?お前には隣で俺を扇ぐ権利を与えまさァ」
「は、はあ…変わった権利ですねえ」
「精々光栄に思いなせェ」


そう鼻で笑って席を立つ。まだ私お昼ご飯食べ終わってないんですけど、なんて彼女の言葉は無視してやって。俺は女の手を引いた。…何考えてんのか分からないが。まあ、退屈しない玩具(おんな)がもらえたと考えればいいだろう


−−−−−−
許せる距離





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