April.13_13:18


「ところで、局長さん。先ほどはいませんでしたね」
「ん?誰がだい?」
「一番隊隊長の…沖田総悟さんです。ちゃんとご挨拶しときたかったんですけど…」
「あれ?茜くん、総悟のこと知ってるの?」
「はい。幕府(うち)でも真選組の活躍はよく聞いてましたし…特に彼は新聞とかでも大きく取り上げられてましたしね」
「あ、ああ……そういう意味ね」


それを聞いて、近藤局長さんはハハハ…と乾いた苦笑いを浮かべる。?どうしたんだろ…?私、なんか気に障ること言っちゃったかな?


「あの、局長さん?」
「あ…ごめんごめん。気にしないでくれ。慣れっこだから…うん」
「?はい。…で、これから私はどうすればいいでしょう?出来れば、すぐにでも仕事を始めたいんですけど…」
「ああ…、それなら総悟にはもう君のこと話してあるから。安心してくれ」
「え?」


さっき副長さんも隊士さんも私のこと、何も知らなかったみたいだったけど…?そう首を傾げると、局長さんは「いやァ、実は昨日松平のとっつァんと話をしていたところを見られたらしくてな」なんて言葉を紡いだ


「昨日…私と松平さまが屯所に挨拶に訪れた時、ですか」
「ああ。二人が帰った後に総悟に"あのチビ、何なんですかィ?"なんて聞かれちまったんだ」
「……」


チ、チビって…!確かに身長160もないけども…!…見知らぬ私にそんな言い方するなんて、どうやら沖田隊長ってのは噂通りの人みたいだ。それにー…"あの時"と全く変わってないみたいだ。良かった…正直


「…それで沖田隊長は今どこに?」
「あー…うーん、さっき街に巡回に出掛けたなァ。悪いけど、総悟を探して自分で指示をあおいでくれるかい?」
「…街って、広範囲ですね」
「たぶんいつもの駄菓子屋にいるんじゃないかなー。この時間は。ほら、かぶき町の外れにある」
「……」


駄菓子屋に…?それはもう巡回じゃないんじゃ…。そしてそれを笑って言う局長さんは一体…。私はよく分からない気持ちを抱えながら「えっと…じゃあ沖田隊長、探しに行ってきますね」と局長さんに別れを告げ、屯所を出た






***






『一番隊に?あのガキがですかィ?』
『ああ。とっつァんからの紹介でな。10日間だけだが仲良くしてやってくれ』
『でも、何だって一番隊なんですかィ?要するにあのガキ、幕府で雇われてる殺し屋なんでしょう?むしろ監察方にでも入れてやれば…』
『いや、それが何でも本人たっての希望らしいんだよ』
『?』


一番隊だなんて言うなれば斬り込み特攻隊だ。暗殺を専門とするような輩なら、監察方でのほうがその能力を発揮出来るだろう。それが一番隊を自ら希望した?…それじゃ何だってあいつは真選組での研修だなんて、馬鹿な命令を受けたってんだ。意味がわからねェや



「…あ、ここにいたんですねっ」
「!…」


不意に鈴の鳴るような女の声が聞こえた。アイマスクで隠した視界の向こうで感じるその気配はおそらく、近藤さんが昨日話していた女のものだろうと直感で思った。…そうじゃなきゃ、俺を"沖田隊長""だなんて呼ぶ女はいねェ


「あの…沖田隊長?起きてますか?」
「……お前が近藤さんの言ってた研修生、ですかィ」
「あ、はいっ。私、進藤茜っていいます。今日から10日間、一番隊隊士としてお世話になります」
「ああ、そりゃどうも」


「沖田総悟でさァ」なんて欠伸混じりに返し、俺は足を組み換えた。…ああ、ベンチで寝ると背中の筋が痛くなっていけねーや。やっぱり土方のヤローがいても屯所で寝てるべきだったな。そう悪態をつきながら、俺はごろんと寝返りをうった


「…沖田隊長」
「あ?」
「私、今日から働くにあたって主に沖田隊長の仕事のサポートに当たるよう言われたんですが…」
「へぇーそうなのかィ」
「はい。それで今日はこれから、沖田隊長はどうされるつもりなんでしょうか?」
「寝る」
「へ?」


この女に起こされた以上、もう寝入ることなんて出来ないが。それでも新人相手にいちいち仕事の説明なんかやってられない。…このまま狸寝入りでも決め込むのが得策ってもんだろう。近藤さんには悪いけど、俺にこういう役割は無理だ。新人教育なら土方さんあたりにやらせるべきなんじゃないのか


「……そう、ですか。分かりました」


カタン。すぐ隣で物音がした。アイマスクをちょっとずらし盗み見れば、女が俺の隣のベンチへと腰を下ろす姿があった。…んだよ、屯所に戻らねェのかィ。なんだコイツ


「……」
「……」




それからしばらく…数十分ほど経っただろうか。こうしていれば、すぐにでもどこか行くだろうと決め込んでいた俺だった。が、女はいつまでたっても動きを見せない。ただ黙ってそこにいるだけだ。街の人々の喧騒のなか、俺達の間に沈黙だけが続く


「……あんた、何でずっとそこにいるんでさァ」
「?私のお仕事は沖田隊長のサポートです。沖田隊長が何もされないなら、私もこうしてます」
「……」


それが決して嫌味ではないと、そいつの声色から分かった。…だが、だからこそずっと黙りこくって俺の傍を離れようとしないそいつに少し苛ついたのも事実で。「ああ、そう」と冷たく言い放ち、俺は気にせず寝返りをうった。…何なんだよコイツ。本当どうしたいんだよ


「…それにこうしていると、」
「あ?」
「色々見えるんです。今まで気付かなかったものに、たくさん」
「…?」


…何言ってんだコイツ。思わずアイマスクをずり上げ、そいつの顔を暫く見やる。するとそこには目の前を横切る街の人々を、その深い碧色の瞳に映し、飽きもせず楽しそうに眺める横顔があった


「……」


ー…それに何かを感じたわけではない。が、その瞳の奥には引き込ませる何かがあった。…視線が、反らせねェ。なんだこれ


「……変な女」
「?何か言われましたか?沖田隊長」
「…いいや?なーんにも言ってやせんぜ」
「?」


−−−−−−
広く澄み渡る空のもと、君と出会った





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