To you


拝啓、姉上へ


お元気ですか?僕は元気です
姉上に言われた通り、三食ちゃんとご飯も食べてますし夜もなるべく早く寝るようにしています

真選組の連中とも、姉上に紹介した"大親友"の坂田銀時くんとも仲良くしてます。お友達には優しく、って姉上がよく僕に言ってましたね

土方のヤローとも、何とか折り合いをつけてやってます。この前も彼の好きなマヨネーズを、頭からぶっかけてやりました。泣いて喜んだ彼の顔が忘れられません


…そういえば姉上がそちらにいってから真選組に1人、幕府から女の研修生が来たんですよ?

初めは10日間だけの研修のはずだったんですが…、色々あって研修を終えた今も真選組にいます
最近、正式に真選組一番組隊士として働き始めるようにもなりました


そいつはいつも遠くをボーッと見つめているような、何とも不思議なやつで…それでいて剣の腕なんかは土方さんよりもよっぽど強いから、本当によく分かりません

最初は"胡散臭いやつだ"と、俺も真選組も誰も信用していなかったのに…彼女は今では真選組の連中とも江戸の街の住民とも、見事に打ち解けています


誰にでも優しく、何にでも真っ直ぐな彼女を皆気に入っていて…
俺にとっても、彼女は特別な存在です

他人ばかり気遣って、自分の居場所さえも犠牲にしてしまう不器用な彼女を…わざわざ孤独を選ぶような彼女を…俺はもう手放したくないとも思ってます


たぶんそれは、姉上が土方(あいつ)に抱いた感情と…土方(あいつ)が姉上に抱いた感情と同じなんじゃないでしょうか?




「……総悟くん、」

「ん?」

「総悟くんから先にやって?はい、これお線香」

「あぁ、ありがとうございまさァ」



俺は彼女から手渡された白い煙をあげる線香を墓前に置き、"沖田ミツバ"と書かれたその墓石を優しく撫でた

そして、両手を合わせ数秒目を閉じる



「………、終わった?」

「…あぁ、」

「じゃあ、次は私の番だね。…ミツバさん、持ってきた激辛煎餅ここに置いときますね?」



「今日私たちがお墓参りに行くって言ったら、隊士さん達が買ってきてくれたんですよ」と微笑み、彼女は大量の煎餅が入った紙袋をそこに置く

そして彼女はぺこりと軽くお辞儀をし、先ほどの俺と同じように両手を合わせ目を閉じた



「…初めまして、ミツバさん。挨拶が随分遅れてしまってごめんなさい」

「……」



…俺は姉上の墓参りに近藤さんと土方さん以外の人間と行ったことがないから、

こうして姉上と挨拶を交わす彼女を前にどういう態度でいればいいのか分からず、ただボーッと青い空を見上げていた



『総ちゃん、』



…今まで一番俺に近かった人と、これから一番近くなるであろう人

俺は彼女らを前に、どうにも柄にもなく緊張してしまっているらしい

…あぁ、情けない弟だとか姉上も思ってるのだろうか



「……総悟くん?私、終わったよ」

「!あ、あぁそうかィ」

「大丈夫?なんかボーッとしてたけど…」

「…別に、何でもねーやィ」



「それより…何て言ったんでさァ姉上に」なんて聞けば、「総悟くんが私にとっていかに素敵な人か話してたの。私、貴女の弟さんにベタ惚れなんですよって」とニコニコと微笑むので

「そりゃありがたいねィ」と俺もそれにつられて笑ってしまった

俺は隣にいる彼女の手をぎゅっと握り、"姉上"に向き直った



「つーことでさァ、姉上。俺はコイツを…姉上に紹介したかったんです」



…あの時は何も出来なくてごめんなさい

姉上にはありがとうという言葉じゃ足りないぐらい、感謝してる

土方(あいつ)と一緒になれなかった姉上が、果たして俺達を祝福してくれるか分からないけど…



「…結婚、するんでさァ俺達」



「もちろん披露宴だなんだ盛大にやる気はないから、形だけだけど」と言葉を紡いだところで、俺は繋いでいた彼女の手が小さく震えていたに気付いた

「どうした?」と顔を覗き込めば、微笑みながらもぼろぼろと涙を溢す彼女の姿があって

「笑いながら泣くなんて器用だなぁ」と思わず俺は感心した



「ミツバさん、私は…貴女の弟さんみたいな素敵な人と釣り合う人間じゃないです。"救われた側"の人間です。だからこれから…私は責任を持って、貴女の弟さんを幸せにしてみせます」

「…それ、女が言う台詞かねィ」

「いいの。私が、総悟くんを幸せにするから」

「バーカ、違うだろィ。"一緒に"幸せになるんでさァ」



姉上は今、そちらでどうしていますか?幸せですか?

ちゃんと…笑えてますか?

…俺はこれからコイツと一緒に歩いていきます

楽しい時は一緒に笑ってやりたいし

辛い時は一緒に痛みを分かち合ってやりたい

俺は…どんな時も彼女と一緒に歩いていきます

だからどうか、そちらから見守っていて下さい

俺がこの先一生、彼女を見失わないよう…願っていて下さい



「総悟くん、」

「ん?」

「その手紙…やっぱりミツバさんに渡そうよ。せっかくミツバさんに宛てたのに、もったいないよ」



「総悟くんの言葉はちゃんとミツバさんに伝わってるだろうけど…"形"に残すこともきっと必要だよ」と俺の手をぎゅうっと握り

彼女は生前のあの人とそっくりな朗らかな笑みを浮かべた

その時、彼女の瞳の碧色が何故か鮮明に俺のなかに刻まれた


君が笑うから、世界は幸せに色づくのです


「私もミツバさんも、貴方が笑ってくれれば…それが一番の幸せなんだよ」


その言葉をくれた彼女を、俺が抱きしめたのはその数秒後のこと



−−−−−−
10days、これにて本当に完結です!
色々長くなってすみませんでした。お付き合い下さった方々に感謝です*´`

10daysヒロインと総悟くんの本編より縮まった距離なんかを感じ取って下さると嬉しいです。本当に皆様ありがとうございました…!



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