April.24_14:21


「ー…沖田、隊長……?」

胸がドクドクと大きく音をたてる。…どうして?どうして此処に沖田隊長が…?どうして…来てくれたの?滲んだ視界の向こうで「あんた、その汚い手を俺の女から退けてくれやせんかねィ?」と強い眼差しをむける彼の姿を…私は今だに信じられなかった

「…オイ総悟、お前勝手に1人で突っ走ってんじゃねーよ。作戦無視しやがって」
「ハハッ、まぁいいじゃないかトシ!ここは総悟に華持たせてやるべきさ」
「きっ…貴様ら真選組か!?どうしてここに…」
「んん?まだ言ってやせんでしたっけ?御用改めである、真選組でさァ。神妙にお縄につきなせェ」

「ば、馬鹿なっ…!幕府側につく貴様らが俺を検挙出来るものか!俺の立場を分かっているのか!?」と逆上する厳骸様に、沖田隊長はピラッと紙を広げて見せた。?あれは…何かの書状?

「松平のとっつァんにもらった書状でさァ。あんたの検挙は幕府から許可が出てる」
「!?なっ…」
「…あんた、余程悪いこと幕府内でも働いてたんじゃないですかィ?同胞の天導衆から切り捨てられたなんて」
「っ…茜!こっちに来い!」
「!いっ…」

いきなり厳骸様に腕を引っ張られたかと思えば、彼は私の首もとには刀をあてがった。「…この期に及んで彼は捕まるつもりがないのか」なんて頭の中は冷静だったが、実際私の身体は出血し過ぎてもう動かない。…状況的にはまずかった。が、目の前の沖田隊長はいつもと変わらない様子でこちらをじっと見据える

「…悪いことは言わないから止めといた方がいいと思いやすぜ?ここで逃げたって、あんたは幕府からその身を追われることになるんだから」
「…フ、逃げきれるとは思ってないさ。だが、この女を貴様らに引き渡すつもりはない。この数日間で、こんな女にも情がわいただろう?貴様ら地球人は庇い合いが好きな馬鹿な生き物だからな」

「渡すくらいならば、ここで殺す」と喚く彼の気持ちは私には全く理解出来なかった。…一体彼はどういうつもりで…

「奪えると思えたんだろう?俺からこの女を」
「…だったら何だって言うんでさァ」
「フ…貴様らは知っているのか?この女が今までやってきたことを」
「!っ…」

不適な笑みを見せる厳骸様に、土方副長が「…どういう意味だ」と眉をひそめる。…そう。私にはまだ真選組(かれら)が知らない闇がある。真選組(かれら)だけには聞かれたくないと願うが、厳骸様はそれも分かっているんだろう。厳骸様はニヤリと口元を歪め、私の顔を見つめていた

「この女は暗殺を生業としていたが…幕府に仕える貴様ら真選組や御庭番衆共とはワケが違う。この女の敵は何も攘夷浪士共だけじゃない。"幕府そのもの"だ」
「幕府、そのもの…?」
「そうだ。例えばだが…先日起きた幕府官僚の惨殺事件、アレの犯人が誰か分かるか?」
「!まさかっ…」
「そう。アレの犯人はこの女だ」
「!?なっ…何だって幕府側の人間である茜くんがそんなことを…」
「天導衆(われわれ)が命令したからだ。…今や、幕府中枢と天導衆で利害が一致しないことも多々あるからな。"邪魔者を片付ける人間"は必要だ」

「だからー…」と言葉を切り、厳骸様は狂ったように笑い声をあげ私の髪の毛を掴んだ

「ククッ…例え俺がここでこの女を手放しても、コイツは幕府からも危険視された存在だ。天人(われわれ)の飼い犬とならなければ、この女は普通に生きることも叶わない…貴様らにどうこう出来るような存在ではないのだ!」
「……」

…そうだ。私には逃げ場がない。彼らに飼われるしか…生きる道はない。それほどまでに私の敵は大きいのだから。いつまでも経っても…いくら進んでも目の前にあるのは真っ暗な闇だけ。天導衆の言いなりになっていたことで重ねた罪が自分の首をしめ、そして結果として幕府や天導衆から目を付けられてしまった

「…まあ元よりこの地球(ほし)が天人(われわれ)に支配された時から、貴様ら地球人には選択肢などないのだがな。貴様ら侍に護れるものなど最早ないのだから」
「……護れるものがない?ハ、笑わせらァ」
「!沖田、隊長……?」

フンと鼻で笑い、沖田隊長は自身の刀を鞘から抜いた。こちらを睨みつけるその目には一切の光がなく…怒りという感情しか映していなかった。沖田隊長の殺気に気圧されながらも、厳骸様は私の首もとに刀をあてがった手を震わせた

「…さっさとその汚い手を離しな。その女は俺のもんでィ」
「フ…聞こえなかったのか?俺を殺したところでこの女はどうにもならないぞ。権力に従わなければならぬ貴様らに何が出来る?…いっそここで殺してやった方が、この女にとっても誰にとってもい…」
「そんなの誰が決めたんでさァ。その女は俺にとって必要な存在なんでィ。…どんな敵がいようと関係ねェ。俺が護りきってみせらァ」
「!なっ…」

ー…本当に、一瞬のことだった。沖田隊長の言葉に厳骸様が動揺した次の瞬間、沖田隊長の刀は厳骸様の肩へ突き刺さっていて。私が気付いた時には厳骸様は血を流し倒れていた。大量の返り血が私の服を濡らす

「グアアアアア…!」
「ー…心臓から外してやったのはてめえにまだ幕府の奴等が話聞くってからでィ」
「き、さまっ…!」
「…次コイツに指一本でも触ったら殺してやらァ」
「ばっ…総悟てめえ無茶な真似…!チッ…近藤さん!」
「ああ!てめえら今だ取り押さえろ!周りにいる天人もだ!」
「「「「「オオオ!」」」」」

倒れ付した厳骸様を後ろから土方副長が手錠をはめ、ついに彼は取り押さえられた。周りの天人もあと数人だったが、真選組の隊士に制圧されていた。……まさか、幕府内での厳骸様の立場が危ぶまれることになるなんて。この18年間仕えてきて想像もつかなかった…

「…オイ、無事かィ?」
「!沖田隊長…」

既に真選組(みんな)が血濡れたその現場の収集に当たっていたなか、私の顔を覗き込んだ沖田隊長は、ビリビリに裂かれた私の隊服を見てか微かに眉をひそめた

「…悪ィ。松平のとっつァんに書状もらってたら、遅くなっちまった」
「…あはは、大丈夫ですよ。まだ未遂だし、今までも襲われたことだけはありませんから」

「地球人とそういうことするの、天人からしたら嫌らしいですよ」なんて説明すれば、「バカ、んなのしてたらアイツのこと刺し殺さなきゃ気がすまねーや」と沖田隊長は呆れたように目を細めた。そして私にバッと自分の上着をかけてくれた

「それ、着てなせェ。返り血もあるしな」
「……すみません、ありがとうございます」

…何でだろう。言葉が出てこない。もしかしたら自分でも気付かないくらい、動揺してるのかもしれない。聞きたいことは山ほどあるのに…沖田隊長の眼を真っ直ぐ見れない。沖田隊長の上着をぎゅっと握れば、ふわりと優しい匂いが鼻を掠めた。…この温もりは、本当に私がもらっても良いものなのかな。私は…沖田隊長に助けてもらう価値があったのかな

「…茜、」
「…なん、ですか」
「お前、俺に土下座しなせェ」
「………えっ?」

思わず聞き返せば、沖田隊長に頬をぐにっと摘ままれた。うう、地味に痛い…!必然的に顔を合わせることになったことに内心気まずさを感じながら、私は必死に抗議する

「お、おひたたいひょう!いひゃいでふ!」
「お前はよォ…どうして俺が迎えに来るって言ったのに、先にこんな暴れ回ってんでさァ。俺のこと信用してないわけかィ?」
「ほ、ほれは…」
「せっかく来てやったのに俺の見せ場全然ねェじゃねーか。一体どういう了見なんでィコラ」

見せ場って…そういう問題なのかな?むしろ厳骸様を刀で刺した時の沖田隊長すごくカッコよくて…って違う違う。そんなんじゃなくて…。沖田隊長はむにっと私の頬っぺたを散々引き伸ばした後、不機嫌そうに口を尖らした

「ち、違うんです。ただ私は沖田隊長に迷惑かけたくなくて…」
「……」

そう呟けば、沖田隊長は「…本当面倒くせェやつ」とため息一つついた後に、私の瞳から零れ続ける涙を舌で舐めとった

「!?ひゃっ…」
「迷惑、なんて思うわけねーだろ。惚れた女を奪いとるのに理由なんかいんかィ?お前は黙って俺のものになれば、それでいいんでさァ」

その言葉と共に唇に感じた温もり。拒もうとしても強引に重ねられたそれに、何となく沖田隊長の優しさを感じた。…どうしていつも、沖田隊長(あなた)はこんな私に優しさや温もりをくれるんですか?果たして私はそれを貰えるだけの存在ですか?私は…

「ー…私は…沖田隊長と、一緒にいてもいいんです、か…?」
「…当たり前だろィ。俺はお前を選んで、そんでアイツから奪い取ったんだから。今さら逃げたいって言ったって遅いってもんでさァ」
「に、逃げたい、だなんて…」

…逃げたいだなんて、思うわけがないよ。だって沖田隊長は私をここから救いだしてくれたから。"自由"になった私が頼れるのは沖田隊長だけだから。"自由"になった私が望むのは…沖田隊長の隣だけだから


『ー…今更弔い合戦、しかも人斬り相手にだぜ?得るもんなんか何もねェ…分かってんだよ、そんなことは。だけどここで動かねーと、自分が自分じゃなくなるんでィ』

…"あの時"から、私が見ていたのは沖田隊長だけなんだから。沖田隊長(あなた)に出会えたから…今の私がいるんだよ。「あ、でも一応希望は聞いとくかねィ…。茜、お前はこれからどうしたい?」なんて言う沖田隊長を、私は精一杯の力で抱きしめた

「一緒に…いたいです。私、ずっとずっと…沖田隊長のそばにいたいです」

その答えに沖田隊長は「…上出来でさァ」なんて微笑み、もう一度私の唇に温もりをくれた。…もう離れたくない、大事な温もり。あなたがいなくちゃ私の世界は始まらない。今までも、そしてこれからもー…


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他の連載とは違って、一話から最終話までが一つのストーリーだったのですごく難しかったですが…

書いてて一番楽しかったのも満足感があったのも、この連載です
最後までありがとうございました!






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