April.23_17:49


「…というわけで、今日で茜くんの真選組研修は終わりになる。だから明日からは茜くんは…真選組(ここ)に来ないんだっ…グスッ」
「こ、近藤局長!そんなに泣かないで下さい…!」
「ううっ…す、すまんな。だがこれでお別れだと思うと…」
「とりあえずコレで涙拭いて下さい。ね?」

ハンカチを差し出し、号泣する局長さんの背中を擦れば「じゃあ茜くんから皆に、最後の挨拶を…」なんて涙ながらに言われた。だ、大丈夫なのかな局長さん…。私は横にいる局長さんに気を配りつつ、目の前に座っている真選組隊士さん達全員の方を向いた

「あ、えっと…今日は私の為にこういった会を開いて下さってありがとうございます。局長さんも言ってましたけど、私は今日で真選組の研修を終えます」
『……』
「ここで過ごした10日間は毎日が本当に楽しくて…お陰様で忘れられない思い出にもなりました。皆さんと出会えて本当に良かったです。こんな私にいつも優しく、そして真っ直ぐに接して下さる皆さんが私は大好きでした」
『……』

う、何か隊士さん達みんな黙ってるだけなんですけども…!このシラケてる雰囲気はいただけないよ…!

「?茜くん?」
「あ…えっと、最後にもう一言いいですか?」
「もちろんだとも」

軽くスーハーと深呼吸をしてから、私は近藤局長や土方副長や沖田隊長…そして隊士さん達1人1人の顔を見ながら言葉を紡いだ

「―…皆さんとできたこの繋がりは、私にとっては一生のものです。だから"私"は皆さんのことをずっとずっと忘れません。ずっと心に留めておきます。遠くに離れていても…皆さんの幸せを願っています」

「忘れないで下さい」なんて言葉は言えない。けど…一方的でもいいから、あなた達とは繋がっていたい。どんな形の絆(つながり)でもいいから、私がそれを持ち続けることだけは認めてほしいの。今更ないものになんか、とてもじゃないけど出来ないから―…

「ううっ…」
「…?」

聞こえてきた声に思わず俯いていた顔を上げれば、そこには涙ぐむ隊士さん達がいて…って、え…?

「ずっとずっと、我慢してたのに…!」
「へ…?」
「茜ちゃんがそんな嬉しいことばっか言ってくれるからっ…」
「くっ…もう限界だよォォォォ」
「あああ茜ちゃん大好きだアアア」
「行かないでくれェェェ!」
「またムサイ屯所に戻ってしまうよおおおお」

いきなり先ほどの局長さんと同じように、号泣し始める隊士さん達。大の男が…とか言ってる場合じゃないけども。グスッと涙を私のハンカチで拭いながら、局長さんが「じゃあ…茜くんのこれからの門出を祝って、乾杯!」と杯をあげれば、隊士さん達は涙ながらに「か、乾杯…!」なんて各々杯をあげた。…こんなしんみりとした雰囲気で始まる宴会は初めてだ…



**

「茜ちゃん、これ俺のメアドだから!暇があったらメールしてね?」
「あ、ありがとうございます」
「あっ俺も俺も!いつでもメールも電話も待ってるからさ!」
「あーあ、茜ちゃんいないと寂しくなるなァ…茜ちゃん、時々は屯所にも遊びに来てよ?」
「……あはは、分かりました。了解です」

隊士さん達からもらった、アドレスやら番号やらが書かれた紙をポケットにしまう。(因みに私は機械系が苦手なので、赤外線通信が分かりませんでした)そして私は部屋の片隅で静かにお酒を飲んでいた土方副長の元へ、近付いた

「…土方副長、」
「あ?」
「お酒のおかわり、いかがですか?」

そう言って鬼嫁と書かれたラベルの貼られた一升瓶を抱え、目の前に腰掛ける。すると土方副長は「お前なァ…」と呆れたように眼を細めた

「普通主役が酒注ぎ役やるか?」
「?主役…ですか?」
「今日はお前のための"お別れ会"なんだろーが」

「まあ皆好き勝手に飲んでやがるがな」なんて呟き、その辺に酔いつぶれてしまった隊士さんを足蹴りする。…最初みたいなしんみりした雰囲気でも、お酒が不味くなるだろうし。これはこれで良かったと思うけど…。私は向こうで何故か全裸になってる近藤局長や、あっちで真っ赤に顔を染めすっかり笑い上戸の山崎さん達を見回した

「…皆が楽しいならそれが一番ですよ。それにこんな会を開いてくれたってだけで私は嬉しいです」
「…そうかよ」

トクトクと副長さんの杯にお酒を注げば、副長さんはグイッと一気に飲んでしまった。おお…良い飲みっぷり!意外に酒豪なのかな…?

「……最初はお前のこと、疑ってたんだかな」
「え?」
「お前のこと、俺ァ信じちゃいなかったって言ってんだ。…むしろ敵視してた」
「…それは…薄々気付いてましたよ」
「ああ、そうだろうな」

まるで私と副長さんがいるこの空間だけ、別にあるみたい。周りのガヤガヤとした騒がしさなんて関係なく、私達は暫く沈黙を続けていた。…が、土方副長が不意に笑いだしたことでそれは終わった

「ひ、土方副長…?」
「お前みたいな人間を疑って…頭悩ます方が馬鹿だな」
「?それはどういう…」
「俺はお前みたいな奴…嫌いじゃねーって、そういうこった。今はむしろ気に入ってる」
「!」

「何て顔してんだ。褒めてんだから、ちったァ嬉しそうな顔しろよ」なんて言われれば、思わず顔も綻ぶ。…不器用な言葉だけど、これはきっと副長さんなりの優しさなんだろう。「ありがとうございます」ととりあえずお礼を言おうとすると、目の前にいた土方副長が爆音と共に消えた。ー…「何俺の部下に手ェ出してんでさァ土方コノヤロー」という台詞と共に

「え…えええ!?ちょ、沖田隊長!何してるんですか!」
「何かイラついたから」
「へ?」

しれっと言う沖田隊長に首を傾げつつ、バズーカによって打ち飛ばされた土方副長を眼で追う。そうすると酔いつぶれた隊士さん達と共に、土方副長は部屋の片隅でぐったりと気絶していた

「ひ、土方副長!大丈夫ですか…って痛たた!沖田隊長、首が!首が締まってます!」
「まあまあ。いいからお前は俺についてきなせェ」

私の襟首をグイッと掴み、沖田隊長はそのまま宴会場である部屋を出ていった。…あれ?もしかして私はもうこの宴会に参加出来ない感じ?このまま離脱決定?





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