April.22_09:16


「―…え、えっと…というわけで。私、進藤茜はこの度無事に復活致しました」
嘘つけ」
「痛…!?」

敬礼のポーズをしてそう言った瞬間、土方副長に頭をペシッと叩かれた。う、なぜ…!

「今日の今日までの重体だった奴が何言ってやがる。馬鹿も休み休み言え」
「で、でも…私が真選組で働けるのはもう明日だけなんですよ?」
「だからって病院抜け出してくる奴があるか!総悟てめぇだな?んな馬鹿なことに手ェ貸したのは
「ハ、何のことやら皆目見当つきませんねィ」

開き直った様子の沖田隊長に、土方副長がピキッと青筋を浮かべたのが分かった。…まあ無理もない、よね。だって私が病院を勝手に抜け出したせいで、今日は1日中騒動になったって話だから。(その実、私は夕方に屯所に戻ってきたわけだが)

「……局長さん。この研修最後の1日、私はいつも通り皆さんと一緒に仕事したいんです。この通りです、お願いします!!
「……」

ガバッと頭を勢いよく下げ、私はつい大きな声を張り上げた。…私がもうこの場所に戻ってくることはないのだから。それならばいつものように、皆と同じ日常を送りたい。最後まで、"真選組"として存在していたいんだ…

「…駄目だ」
「えっ…」
「そんな怪我で職務を全う出来るとは思えん。もし何かあっても、それじゃ対応出来ないだろう?」
「そ、それは…」

強い口調でそう言う局長さんに対し、顔を俯かせる。…やっぱり、ダメなんだ…。が、次の瞬間、頭にぽんぽんと温かな感触を感じた

「?局長さん…?」
「…すまんな、茜くん。今回の君のその怪我は全部俺のせいだから…俺としちゃ、もう無理させたくないんだよ。もう君を危険な目に遭わせたくないんだ」
「!…」

…そんな悲しそうな眼は反則だろうに。私は「分かりました…」と返事を一つし、局長さんに安心してもらえるよう笑顔を向けた

「…それじゃあ明日は1日、屯所内で適当にしてます。流石に研修最後の日を寝て過ごしたくはないですから」
「ああ、それが良いだろうな」
「……つーかずっと気になってたんだけどよ、お前は何なんだその格好」
「え?」
「何でィ土方さんあんた、ナース服を知らないんですかィ?」
「知らない知ってるの問題じゃねーだろ。問題は何でコイツがそんなのを着てるか、だ」
「あ、えっと、それは…」

病院を抜け出す時。流石に入り口から堂々と、入院服や真選組の隊服を着て抜け出すのは目立ち過ぎると。沖田隊長がこうして機転を利かせてくれたのだ。木を隠すなら森の中だからって…。そう説明すれば、土方副長は「ほォ、なるほどな…」と苦々しく返しつつも勢いよく抜刀した

「…つーかお前らはさっさと散れェェェェ!!何なんだこのギャラリーは!」
「へ?」

副長さんが刀を向けた方を振り返ると、そこには大勢の隊士さん達がた襖の隙間からこちらを覗いてる姿があった

「ふ、副長!違うんですコレにはワケがあって…」
「そうッスよ!刀閉まって下さいって!」
「ちょ、誰だよ土方さんが可愛いナースを屯所に連れ込んだって言ったの!」
「えっ土方さんが屯所で変なプレイしてるって話だっただろ?」
「俺じゃねーよ!ザキ、お前だろ」
「違う違う俺じゃないよ!大体"あれ?アレってナース服着た茜ちゃんじゃね?"って気付いても、皆動こうとしなかったじゃん!」
「当たり前だろ!だってナース服着た女の子なんてのは男の一生の憧れだぞ!?」
「そうだそうだ!」
「っ…てめえら全員、士道不覚悟で切腹だァァァァ!!」
「「「「「ギャアアアア!!」」」」」
「……」

こうして真選組研修9日めの夜は更けていくのでした…。よしっ、さっさと寝巻に着替えようっと



***




そして翌朝、
「おはようございます、今日も早いですねおチヨさん」
「!茜ちゃん!あ、あんたいいのかい?もう起きても」
「あはは、こんな怪我大したことありませんよ。…それに今日1日は大切に過ごさなきゃ」

女中頭のおチヨさんに笑顔を向ければ「そうか…茜ちゃんが真選組(ここ)にいられるのは、今日までだったね」と納得したように頷いた

「それであの…何か私に手伝えることありませんか?何でもしますよ」
「…う〜ん、朝ご飯と昼ご飯はもう作ってあるけどねえ。今やってるのは、今日の茜ちゃんのお別れ会に出す料理なんだよ」
「あ、なるほど…そうだったんですか」

そういえば昨日の夜、局長さんにそんなこと言われたなあ…。隊士さん達も久しぶりに酒が飲める!とか嬉しそうだったっけ

「でも、なら尚更手伝いますよ。大変でしょう?いつもの食事みたいに、隊士さん達がセルフサービスしてくれるわけじゃないし…」
「いやだって茜ちゃんの為の宴会なのよ?それを主役が準備の手伝いするなんて…」
「そんなの関係ないですよ。こういうのは手が空いてる人間がやればいいんです」

しかも私は今日、仕事がまるまるないわけだし。あまりに押しが強い私に流石に諦めたのか、おチヨさんは「じゃあそこのお野菜切ってくれるかい?」なんて指差した

「…にしてもあんたはつくづく良い女だねえ〜やっぱり彼氏の1人や2人いるのかい?」
「え?や、いないですけど…」
「まあそうなの?そりゃあもったいない!世の中の男は見る目がないねえ〜。好みのタイプとかないのかい!真選組(うち)の副長なんかどうだい!?土方さん、顔はなかなかでしょ?」
「え?えっと…」
「いい年したバーさんが恋バナなんて気持ち悪いですぜィ。ちょっとは自重しなせェや」
「!お、沖田隊長!」

突然厨房にふらりと現れたのは沖田隊長その人で。おチヨさんに何て失礼なことを…!と内心焦ったが、おチヨさん自身は「あら、沖田さん。また来たの」なんて軽く笑う。…もしかして沖田隊長、結構厨房に顔を出してるのかな?

「っていうかお前はこんなところで何してるんでさァ」
「え?ああ…暇だったので女中さんのお手伝いをと思いまして…。沖田隊長こそ何しに来たんですか?摘み食い…とかですか?」
「違いまさァ。俺はいつものアレをしに来たんでィ」
「?」

アレって…何するつもりなんだろう。多少ドキドキしながら成り行きを見守っていると、沖田隊長は懐から赤いビンを取り出し、赤い液体を一つの皿にドバドバとかけた。……あれ?アレってもしかしてタバスコじゃ…?

「…よし。じゃあいつも通り土方が来たら、さりげなくこの皿をプレートに乗せておいて下せェ」
「ハイハイ。沖田さんもよくやるねえ」
「……」

やっぱりか…。若干呆れたように思ってしまったが、目の前にいるのがいつも沖田隊長その人で何となく落ち着いた。…昨日沖田隊長に抱きしめられた?というか泣くのを慰めてもらった後から、実は顔を合わせるのが気恥ずかしかったり…。(病院を抜け出すゴタゴタで一時は誤魔化せたけど)

「……」

…まだあの抱きしめられた時の温もりは覚えてるし、その時の胸の高鳴りも―…私の中ではまだ終わっていない。まだどうしてもドキドキしてしまう自分の今の状況が、なんだか自分でもよく分からない。う、こんなに乙女な性格だったかな私って…

「んじゃ、俺はそろそろ厨房(ここ)からおいとまするかねィ。って、あ…」
「ん?どうしたんだい?」
「1つ、用を忘れてやした」
「!え…」

ガシッと腕を掴まれる感触に顔を上げれば、そこには飄々とした表情の沖田隊長が。え、いやどういうこと…?

「コイツ、借りてきやすぜ?いいですよねィ?」
「へ?あ、でも私はまだ料理のお手伝いが…」
「いいよ沖田さん、連れて行きな」
「!え…おチヨさん!?」
「ありがとうございやす」

沖田隊長とおチヨさんは何故か互いに、フフフと意味深な笑みを浮かべ合っていた。いや…何なんだこの状況。ぐいぐいと沖田隊長に腕を引っ張られながら、私は先に一抹の不安を抱いた





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