April.21_12:39


「いたた…」

私の傷はあまり深いものではなかったらしい。が、爆発により飛んできた刃物が脇腹やら肩やらに刺さったのだ。結構な飛距離のうえ勢いが良かったため、結果出血が止まらなかったような事態になった。…から、包帯で巻いてはいても血は滲む。傷口もすぐには塞がらず、身体を動かす度痛い

「…ふう、風が気持ちいいなあ…」

だだっ広い病院の屋上。そこの隅にあったベンチに腰かけ、心地よい風を全身で受ける。近くには干された真っ白なシーツがはたはたと揺れて。そして頭上には真っ白な天井ではなく、大きな空が果てしなく広がっていた。(あいにく曇り空だけど…)

「……さて、これからどうするかなあ」

意識を取り戻した後、勝手に病室を抜け出し屋上まで来てみたものの…今から病室に戻ったところで絶対安静やら何日間の入院やら、なんか面倒くさいことになるだろう。そんなことになったら残り1日の真選組の研修期間も無駄になってしまう。それは嫌だ。うーん…

「………よしっ。屋上(ここ)から飛び降りて、真選組の屯所まで歩いて帰ろう!」
「へえ〜その怪我でここから何キロもある屯所に歩いて帰るっていうのかィ」
「そ、そんなのやってみなきゃ分からな…って、あれ?」

聞き慣れた声にバッと振り返ってみれば、そこにあったのは呆れたようにこちらを見下ろす人物の姿で…

「ー…お、沖田隊長…!?」
「よォ、どうだィ調子は?…って聞くまでもねーか」
「……」

「無駄にしぶといやつでさァ」なんて笑う沖田隊長を見て、不思議なことに「…私、死なずにすんだんだなあ」なんて今更実感できた。…刀を振るう身として、いつでも死ぬ覚悟はあった。けど、やっぱりどこかで違う想いもあったんだと思う。だって今目の前にあるもの全部が久しぶりすぎて…正直、泣いてしまいそうなんだから

「?茜?」
「あっ…そ、その…もう全然平気ですよっ。私はほら、この通りピンピンして…」
「!おい!」

「あれっ…?」と思ったのも束の間、勢いよくベンチから立ち上がった私の身体は思うより自在には動かせなかったようで。まるでスローモーションのように、そのまま後ろへとゆっくり倒れていくのが感じられた。や、やば…

「―…何、してんでさァ。退院先延ばす気かィ?」
「!」

力強く腕を引かれ、気付けば私の身体は固い地面ではなく真っ黒な隊服へと受け止められていた。そのままの姿勢で少し顔を上げれば、真ん丸な蒼色の瞳と至近距離で視線がかち合う

「………沖田、隊長?」

「ありがとうございます」と言葉を紡ぐ隙もなく。すぐに離されると思ったその大きな手はギュッと私を引き寄せた。…強くではなくそっと優しく包みこむように。抱き止められた身体から伝わる音は、トクントクンとだんだん早まっていくような気さえした

「―…んで」
「え…?」
「何で…俺がてめえ1人にこんな振り回されなきゃならねーんでさァ」

「ムカつく」なんて呟きながら、今度は何かを確かめるかのように強く強く抱き締められた。まるで何かに縛られているようで…私は指一本動かすことさえ出来ない

「…っ」

……今回のことで初めて死ぬことが怖く感じた。一人きりになってしまうことが…沖田隊長(あなた)のいない世界に行くってことが怖かった。今目の前にある温もりは生きてるからこそ感じられるって。今目の前にあるその心は生きてるからこそ分かち合えるって。分かってた、はずなのに…

「…何、泣いてんでさァ」

そう言って私の瞳から溢れる涙を拭う、沖田隊長の手は温かい。私の心に…すっぽり入ってくるような温かさだ

「―…沖田、隊長」
「何でさァ」
「1つだけ…聞かせて下さい。沖田隊長も…あの場にいたら私と同じこと、しましたか…?」

近藤局長を庇うことを…。沖田隊長の肩に額を預けたままそう聞けば、「当たり前だろィ」なんて返事が耳元に囁かれた

「ふふっ…そうですよね、」

真選組はそうでなくちゃ。大将のために命を懸けられる、真っ直ぐで強いあなた達侍の魂に私は憧れていたのだから。如何なる時も信念を曲げない、あなた達がずっと好きだった。惹かれてた。「…でも俺だったら、そんな大層な怪我なんてしねーだろうなァ。近藤さん狙った相手を捻り潰すまではな」なんて薄く笑う沖田隊長に、私は「それは…」なんて困ったように眉を下げた

「わ、分かってます。私だってもうヘマはしませんよ…」
「…ヘマ、ねィ」
「?」

顎をクイッと上げられ、私と沖田隊長は鼻先が触れ合うほど近い距離に。っ…なんとなく、ここで顔を赤くしてしまっては私の負けな気がする。沖田隊長はどういうつもりなんだろう。沖田隊長は何も意識してなんかないのかな…

「お、沖田隊長あの…?」
「確かによォ、」
「え?」
「確かに…近藤さん護るためなら真選組の連中は命を惜しまねえ。…けど、それは別にてめえの命捨てるのが前提じゃねえ」
「?な、何でですか…?」
「死ぬことなんざ簡単だ。そのうえ誰かの為に犠牲になって死ぬのなんて、そりゃたいそうなことだ。褒められもすらァ。…けどな、死なない覚悟が出来ることのほうがよっぽどスゴいに決まってんでィ」
「…死なない、覚悟…?」
「てめえの命護れねェやつが他人の命なんか護れるわけねーだろ」
「!」
「死んでいい人間なんて、本当はいねーんだから。誰にでもそいつの死を悲しむ人間はいるからな」

「ま、それを矛盾して生きてるのが俺達侍なんだけどねィ。人を殺して生きてんだから」と何ともないように軽く言う沖田隊長に、私は口をギュッと噛む。私は震える声で「沖田隊長…」と彼の名を呼んだ

「…何でィ」
「……それは、私がもし死んだら…誰か悲しんでくれる人間がいるってことです、か…?」

玩具として使われることに対して、見くびられたくないと今まで修羅場を生き抜いてきた。ただ惨めに死にたくないと願った。けど…真選組に出会って、誰かの為に死ぬことの強さを学んだ。私も、誰かを護りたいと願った。けど、今は…

「…当たり前だろ。てめーが死んだら俺の下僕がいなくなるじゃねーかィ」

…真選組に出会う前の自分とは、もう違う。今の私には…生きる目的がある。もっと一緒にいたいって思える人達がいる。例え私を受け入れてくれなかったとしても…掴みたいものがある。まだまだ自分の中では答えは出ていないけど、だからこそ沖田隊長(あなた)との時間が私には必要なんだ―…

「…やーっとお互い真っ正面から向き合う覚悟ができた、ってところかィ?」

その問いにコクりと頷き、私は縋るようにその背中に手をまわした






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