April.21_12:01


『そんな顔……しないで、ください…』

ー…あの時血を流して倒れる茜の姿を見て、震えが止まらなかった。無意識に、思い出したのだ。姉上が亡くなってしまった時のことを。姉上と似た面影を持つ茜。あの柔らかい笑顔が、ただの綺麗な寝顔になってしまうことが。永遠に自分の目の前からいなくなるという感覚が。…耐えられない。こんなに死に対して敏感になってしまうのは久しぶりで。少し…感覚が鈍ってる

「…オイ、お前茜さんのこと聞いたか?」
「ああ。昨日屯所に送られてきた爆弾の爆発に巻き込まれたんだろ?今は病院で治療受けてるって聞いたけど…」
「それが状況的にかなりヤバイらしくてさ…まだ意識が戻ってないって」
「…まああんな大怪我負えばな。近藤さんと土方さんが今朝、病院に向かったみたいだから詳しくはまた分かるだろうけど…心配だなやっぱ」
「……」

えらく意気消沈した様子の隊士達を一瞥し、俺は屯所の廊下から空を見上げた。…それはまるで今の屯所の様子そのままを写し取ったような、鉛色の空だった。どんよりとした雲が、光を塞ぐ。…ああ、俺らんなかでアイツの存在はそれなりに大きなもんになってたんだな、きっと

「―…総悟、」
「!土方さん…帰ってきてたんですかィ」
「ああ、ちょうど今な」

そう俺の隣に立ちライターと煙草を取り出す土方さんからは、事の状況も何も伺えない。…まあ大方状況は昨日と何も変わらないってことだろう。茜が意識が失ってから、もう丸一日だ。医者の話じゃ血を流し過ぎて危ない状態だったらしいが…

「…土方さん、近藤さんはどうしたんですかィ?」
「…近藤さんなら松平のとっつァんに大目玉くらってらァ。幕府から送られた研修生を、事もあろうに研修期間にあんな大怪我させちまったからな」
「ああナルホド…」

幕府官僚雇われの殺し屋…もとい天人のお気に入りを傷つけたときちゃ、真選組(うち)もただでは済まなかったりしてな…なんて。冷静に考えられるうちはまだ大丈夫だと、俺はつい自分に言い聞かせた。…不安、焦り、絶望。様々な感情が俺を取り巻く

「…総悟、」
「?何でさァ」
「大将を護るなんざ、真選組隊士であれば当然のことだ。…それが例え研修生でも、だ」
「!……何が、言いたいんですかィ」
「さあな。ま…進藤のやつまだ意識こそ取り戻してねーが、状態は安定してきてる。だからお前も上司として見舞いぐらい行ってやればと思ってよ」
「……」

…ムカつく。煙を吐き出しつつ薄ら笑う土方さんに、思わずバズーカをぶっ飛ばしたい衝動が起きたがなんとか踏み止まった。…これでキレれればまた土方コノヤローに見下される気がする。…茜のことになると、何でこうも上手く立ち回れないんだ。何で、周りの人間はこうも腫れ物を扱うように接してくるんだ。ああ、本当ムカつく。俺は土方コノヤローに「余計なお世話でィ」と一言残し、その場を後にした





****





「近藤(ごりら)コノヤロー!!お前は俺の大事な茜ちゃんに何怪我負わせてくれとんじゃァァァ!!腹ァ切れ!!」
「いや腹切れって言いながら構えてんの銃じゃんんん!とっつァん、俺だって上司として責任は取る覚悟だけどさ!ここで発砲はちょっと…ってギャアアア!!」
「ちょっとおお!!あんたら病院で何やってんのォォォォ!!?」
「……」

長い長い病院の廊下を曲がれば、奥にはギャーギャーと騒ぐオッサン二人の姿があった。…ったく、こんなとこで何やってんだか。この二人を無視しては茜の病室に辿り着けないだろう。俺はため息をつきつつ近付いた。それに松平のとっつァんに胸ぐらを掴まれたまま、近藤さんが驚いたように目を丸くする

「おお総悟!来たのか」
「…まあ一応見舞いにでもと思いましてねィ。とっつァん、ここは病院ですぜィ?とりあえず落ち着いて下せェ」
「…ふん、俺だって茜ちゃんがこんな状態だってのに変に取り乱したくはねーけどよォ…」
そう言って松平のとっつァんはイライラしたように煙草をふかし始める。…つーか病院って確か禁煙じゃなかったか?まあ別に俺には関係ねーからいいけど…

「近藤さんも、昨日からずっと病院に入り浸ってたでしょう?そろそろ俺と交換して屯所に一度戻ったらどうですかィ?」
「……いや、俺は茜くんが意識を醒ますまで此処にいるよ。元はと言えば俺なんかを庇ったせいで、茜くんは怪我をしたんだから…」
「!…」

…あの爆発騒ぎを起こした奴はまだ茜が殺したあの男しか明らかになっていない。仲間がいて、近藤さんだけを狙ったのか。騒ぎに乗じて屯所に乗り込みたかったのか。それもまだ分からない。けど…近藤さんが言ってるのはそういうことじゃない。部下1人の命さえ見捨てられないのが、このお人好しだ

「……大丈夫ですよ」
「えっ…?」
「茜はこんなことでくたばるような、そんな柔な奴じゃねェ。…だから近藤さん、あんたがそんな顔して心配する必要はないですよ」
「!総悟…」
「それに、今までだってアイツは幕府のお偉いさんに散々無茶やらされてきたんですから」

ね?とわざとらしく視線を合わせれば、返事の代わりにとっつァんが「ハ、言ってくれるじゃねーか」なんて自嘲じみた笑みを浮かべていた

「…ま、このまま経過をみるとしてだ。俺ァとりあず茜ちゃんの状況を一目見て、その幕府のお役人様に報告させてもらうさ。オイ近藤、茜ちゃんの病室はどこだ?」
「あ、それならすぐそこの病室で…」

先導する近藤さんに俺ととっつァんが続く。―…が、近藤さんはその病室のドアを開けたところで、何故かピタリと動きを止めてしまった。?どうしたってんだ?

「近藤さん?」
「オイ、どうしたゴリラ」
「茜くんが…」
「茜が?」
「…いない!!」
「「…はァ?」」

「さっきまでベッドの上で寝てたのにィィィィ!!」なんて絶叫する近藤さんに、松平のとっつァんが「オイイイ!!ゴリラてめえどういうことだアアア!!」と詰め寄る。…何これデジャブ?

「……」

空のベッドにまだ温もりが残ってるところを見ると、さっきまで茜がここで意識を失ってたことは確からしい。病室内は特に荒らされた形跡もないし、何か事件に巻き込まれたわけではねー

「(と、なると…)」

俺はひとつの考えが浮かび、そのまま騒ぎまくるオッサン二人を置いて、病室を出た。…あんな怪我じゃ、医師が退院をまだ許さない。病院の正面玄関から出れるはずもない。なら…


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次へ続く






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