April.20_16:16 |
「―……っ、」
衝撃音が一瞬した後、部屋は静寂に包まれた。思わず自分の身体の痛む箇所を押さえれば、手にはベッタリとした真っ赤な血がついていた。…やっぱり、か。私は身体に刺さった刃物を何本かグイッと勢い良く抜き、後方を振り返った。部屋の壁には幾つもの鋭利な刃物が刺さっている。…どうやら時限式の、こうして箱の内部から刃物が飛び出てくるような仕掛けの爆弾だったらしい
「…!茜くん、君は俺を庇って…」
「…局長、さん。怪我…ない、ですか?」
ぜぇぜぇと息をつきながら、局長さんの上に覆いかぶさっていた自分の身体を退ける。…良かった、局長さんには一本も刺さってないみたい。「あ、ああ…俺は大丈夫だが…」という局長さんの返答を聞いて早々、私はそのまま部屋を飛び出した
「!茜くん!?」
「っ…」
今ならまだ…間に合う。私は下腹部から流れ出る血を手で押さえつけ、廊下からそのまま靴も履かず庭に出た。そして鞘から刀を抜き、屯所の高い塀にひょいと上り、屯所の外を見回す
「ー……いた、」
屯所の正門から離れた場所に、一人の男がたたずんでいた。…あの風貌からして浪士だろう。刀を腰に提げている。男はそわそわと落ち着かない様子で、しきりに屯所の中を覗こうとしていた。私はストッと塀から地面に下り、彼に近付きそして…
グサッ、
「!?ッ…」
男の反応を待たずして、後ろから刀を心臓めがけ突き刺した。ずぶりという生々しい感覚。それに少し顔を歪め、私は刀を勢いよく抜いた。それに男は絶叫し地面に倒れていく
「きっ…貴様、何故…」
「ー…ここに首謀者(あなた)がいなきゃ不自然。でしょう?」
そう男に向かって薄ら笑いを浮かべれば、男は苦渋の表情を最後に動かなくなった。…さっきの箱を屯所内に入り込ませることが、屯所襲撃を狙うための陽動だったのか、真選組局長を仕留めるためのものだったのか。どっちかなのかは分からなかったけど…きっと犯人は彼一人じゃないはず…
「!、…っ」
くらくらとする頭。揺れる視界。…少し、事態を甘く見てたかもしれない。どうしよう、血が止まらない…。私は刀を支えにへたりと地面に座り込んだ
「茜くんっ!大丈夫か!?」
「!局長、さん…」
「い、今救急車を呼んだからもう少しの辛抱だぞ!だから…っ」
「…あはは、局長さん…何て顔、してるんです…か。血、ついちゃいます…し離れて…ください」
「私は大丈夫ですから」なんて座り込みつつ笑顔を向ければ、局長さんの顔が悲しそうに歪んだ。…気にすることなんてないのにな。いつも滅茶苦茶な命令ばかりされて…こうやってギリギリな状態になることも少なくないんだから。私を抱きかかえる局長さんの震える腕を見て、ふうと小さく息を吐いた
「―…茜!」
「!」
この騒動に気付いた隊士さん達がざわざわと私と局長さんの周りを取り囲うなか、人混みの間に一人の見慣れた顔を見つけた。その人物は周りを押し退け、私達の元に歩み寄る
「…沖田、隊長…」
「茜、何でお前がこんな…」
混乱したかのように呟く沖田隊長に近藤局長が事の大筋を話してるのを、遠い意識のなかで聞いた。…ちょっと、疲れてしまったみたい。眠い。意識を保てる気がしない…。私はグググ…と最後の力を振り絞り、沖田隊長の頬に自身の手をあてた
「そんな顔…しないで、ください…。私は、今少しだけ…うれしいんですから」
「…馬鹿、お前状況分かってんのかよ。こんな時にまた何わけ分かんないこと…」
「だって…これでやっ、と真選組(みんな)に…沖田隊長に…追い付け、たじゃない…ですか」
命令されたからじゃなくて、自分が護りたいと思ったから。大将を護りぬくというその侍の魂(こころざし)に、私が今までどれだけ憧れていたことか。…真選組(みんな)が近藤局長のため刀を抜き戦うというのなら、私も同じように命を賭して…と願えたのはきっと当然のことだったんだ。私は「…ありがとう」とだけ沖田隊長に呟き、そのまま意識を手放した
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闇に沈む
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