April.20_16:01


「ただいま戻りました」
「おお、おかえり〜。…あれっ?茜くん1人?総悟のやつは一緒じゃなかったのかい?」
「あ、ええと…」

屯所に入ってすぐ廊下で出くわした局長と副長に頭を下げ、私は「実は…さっき沖田隊長に"ちょっと寄るところがあるから、お前は市中廻り適当にやっとけィ"と急に言われまして…」と言葉を濁した。(つまりは今日は1人でお仕事してきたわけです、私は)

「チッ…またサボりか総悟のヤロー」
「あ、やっぱりそうだったんですかね…?」
「寄るところなんて駄菓子屋とかその辺だろ、きっと」
「……(一概に否定できない)」
「へえ〜サボりかあ…総悟にしちゃ珍しいなァ」
「「……へっ??」」

しみじみとそう言った近藤局長に、思わず私と副長さんはすっとんきょうな声をあげた。…サボりってのは沖田隊長の十八番(おはこ)なんじゃないの、かな。いや、こんなこと思うのも失礼なんだろうけど…

「…どういう意味だよ近藤さん。総悟のサボりなんか日常茶飯事だろ」
「いや、それは茜くんが来る前までの話だろ?…茜くんが来てからは面倒くさがりながらも、ちゃーんと仕事やってたぞ?」
「!…」

「まあ今日は真面目になってた反動で仕事サボったのかもしれんがなあ」と大きく笑った局長さんを前に、私はただただ立ち尽くした。……そういえばこの研修期間、初日以外放置プレイされることはなかったかもしれない。市中廻りもむしろ、沖田隊長から誘いを受けて行っていた気がする…

「(そ、そっか…)」

沖田隊長は私に関心くらいは抱いてくれていたのかもしれない…なんて。自惚れ過ぎ、だろうか。少し特別を期待したい、だなんて…

「…あっそうだ。茜くん、暇なら一緒に饅頭食べないかい?」
「?お饅頭…ですか?」
「いやー本当はお妙さんに渡すつもりだったんだけど、今日は突っぱねられてしまってなァ…」
「…それで今、お饅頭が局長さんの手元にある…と」
「ああ。…せっかく、お妙さんのお気に入りを買ってきたんだけどね…ハハハ…」
「………」

…どうしよう。土方副長のほうをチラリと見ると「空気読め」ってな感じの眼で睨まれた。…私もこんなしょんぼりした局長さんを放置するほど、非道じゃないですよ土方副長

「わ、分かりました。ご相伴します…」




***





「お、美味しい…!」
「だろう?なんたって江戸一番の老舗で買ってきたんだから」
「…お高いんですか?」
「ん?ハハハ!そんな、茜くんが気にすることじゃないさ。さあどんどん食べてくれ」

ー…結局あの後、私は局長さんの部屋でお饅頭をいただくことになった。お妙さん、だっけ?その意中の彼女にどれだけ渡す気だったのかは知らないけど…お饅頭はとにかくたくさん量があって。なんというか、食べきれない。(局長さんはどんどん食べてくれなんて勧めてくるけど。)う、うーん…これはちょっと流石に。こんなに甘い物食べたら太っちゃうし…

「え、えっと…局長さん。この饅頭、他の隊士さん達にも配ったらどう…」
「ー…やっぱり、似てるなァ」
「??何がですか?」
「!えっ!?」
「え?」

「い、今俺何か言った??」なんて急に狼狽え出した局長さんに、私は首を傾げつつ「やっぱり似てるなァ…って呟いてた思うんですけど、もしかして私が…ですか?」と逆に聞いてみた。…もしかして無意識、だったのかな

「あ、いやそのだな…茜くんはどことなく、ミツバ殿に似ている気がずっとしててな?なんだか、俺自身懐かしくなっちまって、つい…」
「?ミツバ、殿…?」
「沖田ミツバ殿…総悟の実のお姉さんだよ。綺麗で優しくて賢くて…そういえば茜くんのようにいつもニコニコと笑っていたっけなァ。今となっては懐かしいよ…」
「!…」

…今となって、は…。悪くもその口調から、そのミツバさんという人はもう亡くなっていることに気付いた。…そしてそれと同時に私の脳裏に浮かんだのは、先日の何か痛みに耐えるような表情をしていた沖田隊長だった。…全くの勘だけど、あの時沖田隊長が憂いていたのはその女(ひと)のことだったんじゃないだろうか。もしかしたら、だけど…

「(いやそれにしても、そうなんだ…沖田隊長も、大切な家族を失っていたんだ…)」

親近感、というわけじゃないけれど。それでも大切な人を失ったという痛みや苦しみは私にも分かるし、共に分かち合えるものだとも思った。ー…私が失ったものは、いくつあるだろう。故郷、里の仲間、刀を教えてくれた師匠。数えきれないぐらいの他人の命…

「…それで局長さんは、私と沖田隊長の姉上さまが似ていると…?」
「うーん…どうも不思議なことにミツバ殿と茜くんは似た雰囲気があるような気がするんだよなァ…」
「……だとしたら、思い当たる私とその女(ひと)との共通点は一つですね」
「え?」

今度は逆に不思議そうに首を傾げる局長さんに、私はニコッと微笑みかけた

「そのミツバさんも私も…同じように沖田隊長のことが大好きだってところです」
「!茜くん…」
「可笑しい…ですよね。真選組の皆さんと出会ってまだ7日だっていうのに…」

ー…それでも、やっぱり真選組(ここ)は私の理想通りの場所で。煉獄関の時に感じた、真っ直ぐな強い侍の魂がここにはあった。何物にも汚されない固い信念がここにはあった。…だから私は…

「…その中でも、沖田隊長はどんな時も迷わず進んでいける強さを持っていて…最初はそこに憧れました。でも、私にはそれが怖く思えてきて…。飄々としてるように見えて、実は色々なことを1人で抱え込んでいる沖田隊長が私は少しだけ…心配なんです」

…ほっとけない。1人で抱えこんで、他人に関わる隙を見せない沖田隊長を。普段はそれでもいいのかもしれない。でも、もし限界が来てしまったら?私は沖田隊長に何度も救われてきたから。沖田隊長が隣にいてくれた時、私はもっと強くなれたから。…今度は私が力になりたい

「茜くん、君は…」
「?局長さん…?」
ガラッ、
「失礼します。近藤さん、今大丈夫ですか?」
「あれっ、凛さん…?」
「!茜さん!?い、いらっしゃったんですか…!」
「?うん。…大丈夫?顔真っ赤ですよ?」
「だっ、大丈夫でしゅ…!」

口を開きかけた局長さんの言葉を遮り、襖を開けひょっこりと顔を出したのは女中の凛さんで。何故か顔を赤らめてる彼女に「もしかして風邪引いたんですか…?」と聞いてみても、はっきりとした返事は返って来なかった。(っていうか凛さん、呂律が回ってない)

「え、ええとあの…表に近藤さん宛ての届けものが来てまして!こ、ここにお持ちしたんです」
「へっ?俺に?」
「はっ、はい!」

サッと局長さんにわりと小さな段ボール箱を手渡し、凛さんは「失礼しましたァァ」と廊下を駆けて行った。…本当どうしちゃったんだろ

「う〜ん…」
「?局長さん、どうしたんです?」
「いや…俺何か頼んでたかなと思ってなァ。何だろ、通販か何か?思い出せんな…」
「……?」

腕を組んで考えこむ近藤局長の前に置かれた、小さな段ボールの箱。私は少し身を乗り出して覗き込んだ。…差出人の名前がない…。加えて配送した会社名も。?直接、屯所に差出人が持ってきたってこと…?よくよく耳をすませば、その箱の中からはカチ、コチ…と小刻みに音がしているようだ。僅かに振動もしている

「―……っ、」

その瞬間、何か嫌な予感が私の中を駆け抜けた

「っ、近藤局長!箱から離れて下さい!」
「!」

パンッ!私が声をあげたと同時に、何かが破裂するような衝撃音がその場に響いた


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次回へ続く






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