April.19_14:51


「みーみー」
「ほれ、ほれ」
「わあ、総悟くんスゴーい!」

場所は変わってかぶき町の外れにある公園に。沖田隊長が猫じゃらしをひらひらと動かす度、それに合わせて猫達がぴょんぴょんと跳ねる。…なんていうか、猫に懐かれてるのかな。沖田隊長のところにばっかり猫が寄ってくるみたい…

「みーみー」
「…にしても、どうしましょうか。手がかりもないみたいですし」
「まあ俺らはこの迷子(ガキ)の面倒でも看とけばいいんじゃね?その辺はどうにでもなるだろィ」
「……」

確かにそう…かな。あれからこの土方副長の隠し子…じゃないや、この迷子の少女まゆちゃんについて。暫く町で聞き込みをしたり、彼女が教えてくれるままに家を探し歩いたりした。が、手がかりは全くもってナシ。ついでに私たちに無理矢理まゆちゃんを預けた副長さんからも、何の連絡もない。両親探し、上手くいくのかなあ…真選組はなんというか、そういうジャンルの仕事には適してない気が…。(ちなみにまゆちゃんは土方副長だけでなく、黒髪の男の隊士達全員に"ぱぱ〜!"と飛び付いてました)

「わたしもやってみていい?」
「あ?ま、勝手にしなせェ」
「うんっ!ネコちゃーん、おいで?」

同じようにして猫じゃらしをぱたぱた動かす、まゆちゃん。…可愛いなあ。こんな小さな子と接するのは正直初めてだから、いまいち接し方は分からないけど…。やっぱり小さい子どもは可愛い。うああ、頭とかなでなでしたいなあ…!

「…なーにニヤニヤしてんでィ」
「!あ、いえ…な、なんというか……"もし弟か妹がいたらこんな感じなのかなあー"って思って…」
「いたらって…お前実際、兄弟とかいねーの?」
「えっ?ああ…」

兄弟、か…。正直に答えちゃっても…いいよね?仕方ない話、だし…

「えっと…私はですね、実はちょっと分かりかねるんですよ」
「?どういうことでィ」
「私は物心つかないうちに今の幕府の…ある人物に引き取られたんです。だから、家族なんかいるんだかいないんだか…よく分からなくて…」

自分が生まれてから持っていたのは"進藤茜"という名と、この身体だけで。それ以外、始まりから終わりまであったのはアイツの…今の主人の存在だけ。家族なんて、私にはかけ離れたものでしかない。私は驚いたように目を丸くする沖田隊長に「すみません、つまらない話聞かせちゃって」とにっこりと笑みを浮かべ、すくっとベンチから立ち上がった

「…まあ独り者でも、この子の両親が今どれだけ必死になって探してるかくらいは分かります。きっと…すごく心配してると思うんです。だからこそ、早くまゆちゃんの為にも私は…」
「―…失礼、真選組一番隊隊長沖田総悟とお見受けする」
「(って…話遮られてしまった…」

その言葉と同時に、柱の影やらから浪人らしき連中がわらわらと姿を現した。…さっきから見張ってるやつがいるなーとは思ったけど、こんなにいたのか。というか、流石にこんなに堂々と現れるなんて…

「…どうやら、おおっぴらに迷子探しなんかしたのが裏目に出たみたいだねィ。まったく皮肉なもんでさァ」
「…沖田隊長、ここは私がやりますよ」

…今日はこっちの刀で。私は腰にさげた二本の刀のうち刀身の長い刀のほうの柄を掴み、鞘から抜いた。途端に「腐った幕府の戌に裁きを〜」やら「我ら攘夷の意志を〜」やら言い張っていた連中は演説を止め、戦闘態勢に入ってくれた。(案外素直な人達だなあ…)

「まゆちゃんの前で血生臭いことなんか出来ませんよね?沖田隊長はまゆちゃんを連れて、早く遠くに離れてて下さい」
「…だから何で俺なんでィ。お前がこのガキ連れて逃げればいいだろーが」
「案外子ども好きなくせに何を仰ってるんですか」
「ガキなんか好きじゃねーよ、むしろ嫌いでさァ。…つーかお前、最初に比べて態度デカくなってね?」
「いやいや、そんなつもりは…」
「お前らいつまでダラダラ喋ってるつもりだァァァァ!!」
「ものどもかかれェェェェ!!」

いや…大勢の敵の前で主人公達が延々と喋ってるのなんて、ある意味お決まりのパターンじゃないですか…。そんなことを言ってる暇もなく、浪士達は一斉に斬り掛かってくる

「沖田隊長!早くまゆちゃんを…」
「まゆ、お前コレ絶対外すなよ。あと、耳も塞いでろ」
「?総悟くん、これなーに?」
「俺のお気に入りでさァ。約束守ったら、後でアイスを死ぬほどおごってやらァ。茜が」
「えっ、私がなんですか」
「わ、わかった!まゆ、ちゃんと言う通りにする」

ボスッとみゆちゃんに自身のアイマスクをかけ、沖田隊長はバズーカを構えた。それが発射されるや否や、爆音と共に数人の浪士が吹っ飛ぶ

「お、沖田隊長どうして…」
「あいにく、部下1人置いてけるほど非道じゃねーんで」
「…1人で戦わせては、くれませんか」
「そんなの真選組(ここ)にいる限り無理に決まってるだろィ。お前の後ろには、この俺がいるんだから」
「!」
「もう1人で戦うだなんて美味しい真似、俺がいるうちは絶対にさせねーからな。…覚悟しときなせェ」
「沖田隊長…」

最後の呟くようなその言葉も、確かに私の耳には届いていて。ついつい、口元は緩んでしまう。私は沖田隊長のバズーカ攻撃に気を取られている浪士共の隙をつき、後ろに回り込んで一気に急所を斬り伏せた

「…あはは。今なら私、百人斬りくらい簡単に出来そうです」
「なに笑顔で物騒なこと言ってんでさァ。このアハズレ」

だって、私の後ろにあなたがいてくれると言うなら。私はどうあっても生き抜いて、もっと長くあなたと時間を共にしたいと…そう願うじゃないですか。私は返り血をピッと指先で拭い、「…一気に片付けましょうか」と笑みを浮かべた





**





「本当にご迷惑をおかけしました。何からお礼すればいいのやら…」
「いえいえ。こちらもまゆちゃんと一緒にいれて楽しかったですよ。あまり気にしないで下さい」 「まゆも茜ちゃんと総悟くんと遊べて楽しかったよー!」
「ほ、本当?」
「うんっ!」
「……」

今日1日でそれなりに仲良くなれた、のかな…。私が恐る恐るまゆちゃんの頭を撫でると、まゆちゃんはニコッと微笑み返してくれた。うああ…!やっぱり小さい子どもは可愛いです…!

「この子ったら、少し目を離した隙にいなくなってしまいまして…。困っていたら町の人に"真選組の隊士が小さな女の子を連れていた"と偶然、聞いたものですから…」
「…それは微妙にタイミングが悪かったですね」
「つまりは山崎ィィ!!お前が変にこのガキを屯所に連れこんだから、ややこしいことになったんじゃねーかァァァ!!」
「えええ!そんなァァァァ!?」

先の隠し子騒動に巻き込まれ、被害を受けた副長さんが山崎さんに制裁を加える。…まあ、こちらは放っておきましょうか。うん

「本当にありがとうございました。それでは」
「茜ちゃん、総悟くんバイバイっ!またね〜」
「またねって、まーた迷い子になる気なのかィお前は」
「まゆちゃん、バイバイ」

夕焼けの中、去っていく二人に私はいつまでも大きく手を振っていた。隣にいる沖田隊長も心なしか微笑んでいる気がして…。私は「楽しかったですね今日は1日」と彼に笑いかけた

「子守りなんかもう懲り懲りでさァ」
「そんな…私は楽しかったですけど」
「なら保育士にでも転職しろィ」

屯所のなかに戻っていく沖田隊長。そして、そんな彼の前を山崎さんと副長が口論しつつ先導する

「土方さーん、今日の子守りは特別に給料くれるんですよねィ?」
「は?出すわけねーだろ」
「土方さん…俺らはあんたの隠し子を子守りしてやったんですぜ?分かってんでしょ」
「誰がだ!隠し子じゃねーよ!」
「ふ、副長落ち着いて!」
「大体は山崎お前のせいだろ!ふざけろ!」
「えええ」
「特別手当ては明日までにくだせェ」
「誰がやるか!」
「おーい、茜お前からも土方コノヤローに請求して…」
「…似てましたね」
「「「……は?」」」

首を傾げる三人に私は顎に手を添え、「さっきからずっと考えてたんです。あのお母さん、どこかで見たことあるなって」と言葉を紡いだ

「?茜さんの知り合いだったんですか?」
「いえ」
「じゃあ何なんだよ」
「似てたんです」
「似てた?」
「はい。あのお母さんがまゆちゃんを見る眼…真選組の皆さんが、近藤局長を見る眼と似てたんです。だから見覚えがありました」
「「「!…」」」

逆に、近藤さんが沖田隊長達を見る眼も。…一体、何でなんだろう?慈しむような、見守るような、優しい眼。心底不思議だというように首を傾げる私に、「…そりゃあよ」と沖田隊長が口を開いた

「は、はい」
「…昔、近藤さんが言ってたんでィ。真選組(ここ)にいるやつは皆家族だって。だからじゃねーかィ?」
「!…家族、ですか?」
「ああ。血の繋がりがなくとも、俺達は士道を共にした同志(かぞく)だってねィ。…ねえ、土方さん?」
「…ま、確かによく言ってるな。あの人はお人好しだから」
「だからこそ、局長は隊士達から皆に好かれてるんだと思いますけどね」
「土方コノヤローとは違ってねィ」
「んだと山崎ィィィィ!!」
「えええ何で俺!?」
「……」

…喧嘩するほど仲が良い。これほどこの言葉が似合う人もいないと思う。彼ら真選組は皆、強く固い絆で結ばれたー…家族なのだから


−−−−−−
知ったのです、あなたたちを結ぶものを






戻る




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -