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『ひとーつ。人の世の生き血をすすり』
『ふたーつ。不埒な悪業三昧』
『『みぃーっつ!!』』
『…え〜みーっつ。み、み…淫らな人妻を…』
『違うわァァァァ!!』
『銀ちゃん。みーっつ、ミルキーはパパの味アルよ』
『違う違う!みーっつ、醜い浮き世の鬼を、ですよ!』
「……」
『『『…た、退治してくれよう。万事屋銀ちゃん見参!!』』』
「…ふふっ、面白い人達」
煉獄関の二階の柵から見える、万事屋を名乗る彼らのやり取りについ吹き出してしまう。…一般人が関わるようなもんじゃないっていうのに。全く、酔狂な人達だ。彼らは一体何者なんだろうか。銀髪の青年はともかく、あんな子どもが二人も…。それに…
「…彼らは幕府側(こちら)の人間で間違いないんですよね?」
「……ああ。奴らは松平片栗虎の下、幕府(われら)に忠誠を誓った戌であるはず、だ…」
煉獄関の経営者である天人達を取り囲む、真選組の面々。…彼らも彼らで、万事屋を名乗る人物と同じで何を考えているんだろう。隣で苦笑いを溢す厳骸様の心情は、私には読み取れなかった。…まさか飼い犬に手を噛まれるとは思っていなかったんだろうけど
「(ふーん、あれが噂の"真選組"か…)」
私は煉獄関の主人に刀を向ける、黒い隊服を着た少年をジッと見つめた。…最近でこそニュースや新聞に取り糾されているが、私自身こうして彼らを目の前にするのは初めてだ。
「(それにしても…大丈夫なのかなあ)」
煉獄関(ここ)が幕府役人御用達の遊び場であることは、彼らにももちろん分かっているだろう。裏社会の場。天人含め幕府役人がここで行われる試合に…一対一の斬り合いに賭け金を払う。質の悪い賭博だ。ー…それを真選組が取り締まるのはマズイんじゃないだろうか。こんなことして自分たちの首を絞めて…意味があるのかな
「……」
特にあの蜂蜜色の髪をした若い少年。『煉獄関のことを探っている奴がいるから調べて来い』との命令を受けてずっと張り込んでいた私は、彼が一番に煉獄関(ここ)に探りを入れてきたことを知っている。(もちろん彼が彼ら…万事屋なる人達に協力をあおいだことも)
「…茜、」
「はい」
柵に頬杖をつき少年のことを凝視していた折、厳骸様に声をかけられた。振り向けば薄ら笑いをした彼と眼が合う
「残念だったなァ?お前にとっても私にとっても、ここは良い遊び場だったのに」
「!……」
私は思わず手をぎゅっと握りしめた。…遊び場、かもしれない彼にとっては。だけど此処で試合をして…命を落とした侍が何人もいる。それを、彼は何故楽しめるんだろう。私は「…ご安心を。真剣での斬り合いがお望みなら、いつでもお見せ出来ますから」と無感情に言葉を紡ぎ、頭を下げた
「フ、まあそれもそうか…」
「……」
そのまま去っていく主人の背中を見つめ、私は脳裏に初めて煉獄関(ここ)で斬り合いをしたことを思い返した。…そういえば、あの時も厳骸様(あいつ)は乾いた笑いを浮かべていたっけ
『ー…理解出来ねーかィ?』
「!」
遠ざがった意識のなか、不意に彼の言葉がその場に響いた。私は柵から身を乗り出すようにして、真選組の少年の言葉に耳を傾けた
『今更弔い合戦、しかも人斬り相手にだぜ?得るもんなんか何もねェ…分かってんだよ、そんなことは』
「……」
『だけどここで動かねェと、自分が自分じゃなくなるんでィ』
「!…」
ー…自分が自分じゃなくなる、か…。きっと彼の中には、何者にも左右されないような強い信念(じぶん)があるんだろう
「…見てみたい、な」
そんな強さを。私が持っていないものを持っている真選組の彼らを、もっと間近で。侍とは何なのか。刀で人を斬り続ける私は何なのか。…あの少年なら、知っている気がするんだ
−−−−−−
初めての出会い。研修で真選組に来る前に二人は実は出会ってました。原作単行本6巻の煉獄関編の話とリンク
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